経営に役立つコラム
【賢者の視座】株式会社プロテックホールディングス 秋田 俊二
過去にないビジネスモデルだからこそ、やる。人と同じことをしても収益は上がらない。
株式会社プロテックホールディングス
秋田 俊二
「物流人財革命」を標榜し、急成長を続けている派遣会社が茨城県に存在する。
それは2010年に創業した株式会社プロテック 。
ドライバー不足に悩む物流業界に特化し、独自のビジネスモデルを立ち上げた創業者の秋田俊二社長に、波乱万丈の仕事人生を伺った。
日本列島の隅々まで張り巡らされ、時に人体の血管にも例えられる物流。その物流網を支えているのが一人ひとりのドライバーであることは、疑いようがない事実だろう。ところが、様々な理由から物流業界は慢性的なドライバー不足に陥っており、他業界と同様、不足する人材を派遣社員など非正規雇用の人材で補っている。
プロテックの中核事業もまた、「ドライバー派遣」。同様の事業をおこなっている派遣会社はもちろん他にも存在するが、同社は2010年の創業以来、右肩上がりの成長を遂げ、収益も毎期1.5~1.8倍ずつ増え続けているという。その最たる理由を同社の秋田社長は「フィールドマネージャーの存在」だという。
フィールドマネージャーとは、ドライバー経験が豊富で物流を熟知した同社の正社員の職名である。新規のクライアントにドライバー派遣が決定したら、まずフィールドマネージャーが派遣先で業務に就き、ひと通りの仕事内容を把握する。次に派遣ドライバーを選任し、教育や業務管理を担当。派遣先で発生する問題もフィールドマネージャーが吸い上げ、解決可能なものはプロテック内で解決し、クライアントと協議が必要なものは改善策を提案する。
この制度により、派遣ドライバーの急病などで配送ルートに欠員が発生しても、フィールドマネージャーが対応できるため、物流に穴をあけない。また、派遣ドライバーは実情を知るフィールドマネージャーに業務上の悩みを相談することができる。結果として派遣ドライバーの離職率が大幅に下がり、長く仕事を継続するようになったという。
ドライバー不足に悩む運送会社や流通企業などにとって、配送ルートや日々の作業に慣れたドライバーは失いたくない“人財”。その管理と教育を派遣会社が担当し、しかもクライアントの立場に立って人事管理コストの低減案を提案することもあるというから、プロテックに派遣依頼が集中する理由もうなずける。
「派遣ドライバーに長く仕事を続けていただくには、派遣会社が派遣先の職場環境を熟知し、改善する努力が必要です。そこを怠ると派遣ドライバーが長続きせず、次から次へと人を送り込むだけの悪循環に陥り、結果的にクライアントの信頼も失ってしまいます」
現在、同社のフィールドマネージャーは20数名。まず、派遣ドライバーから優秀な者をリーダーに抜擢し、その中からフィールドマネージャーに向く人材を正社員化し、登用するのが一般的だ。さらにフィールドマネージャーを統括するエリアマネージャーを置いており、今後はエリアマネージャーの育成が同社の課題だという。
「フィールドマネージャーやエリアマネージャーに必要な素養とは、ズバリ“我慢強さ”です。仕事をしていれば、理不尽な要求を突きつけてくるクライアントに出会うこともあります。そのような相手にも粘り強く交渉し、自社やスタッフに少しでもよい条件や環境を引き出す能力が求められます」
とはいえ、「派遣会社とクライアントの関係は、フィフティ・フィフティでないと絶対にうまくいかない」と秋田社長は強調する。「商取引はなにかにつけてお客様有利に運びがちですが、当社は相手がたとえクライアントであっても、度を超えた要求を呑むことはありません。そうした要求はコンプライアンス違反につながりがちですし、私が我慢する分にはいいですが、当社の派遣スタッフに我慢させるわけにはいきません。おかげさまで当社の派遣スタッフは優秀で離職率も低いと、業界で評判なんですよ。お取引先様のご紹介で次から次へと案件が舞い込みますので、当社は営業の必要がなく、営業部も設置していないほど。おかげさまでスタッフに無理を強いる案件はお断りできています」
勤務先が次々に倒産。派遣ドライバーから起業
秋田社長の言葉の端々から伝わってくるのは、派遣社員への強い想いだ。その根底には、派遣ドライバーとして働いた自らの体験がある
茨城県に生まれた秋田社長は、人材紹介会社やジュエリー販売会社などに勤務。その後、転職した大手リフォーム会社で抜群の営業成績を挙げ、入社後3カ月で主任、7カ月で支店長代理、10カ月で支店長へと昇格の階段を駆け上がる。ところが、業績悪化により同社が突如倒産。日々の暮らしにも困るようになり、転職した先が大手人材派遣会社の派遣ドライバーだった。ここで秋田社長は派遣社員の現実を身をもって体験する。
「どこへ行っても“派遣だから”と言われ、なぜか正社員より下に見られました。働くスタイルが異なるだけで同じ仕事をしているのに、なぜ扱いが違うのか? この現状は絶対におかしい。このときの理不尽さは骨身に沁みていますよ」
ほどなく同社の正社員になり、数カ月後には水戸支店長に。ところが、業界最大手だったこの会社もコンプライアンス違反による行政処分をきっかけに、あっという間に倒産に追い込まれてしまう。再び仕事を失ったわけだが、このとき秋田社長には心が通じる数名の部下がいた。部下の行く末を案じた秋田社長は、彼らとともに転職することを決意する。
「俺と一緒に行くか?と尋ねたら、みな黙ってついてきてくれました。なぜそこまで私を信じてくれたのか?当時の部下は今も当社で働いていますが、一度も尋ねたことはありませんね(笑)。ただ、彼らがいたからこそ、私も道を踏み外さずに、ここまで辿り着けたのだと思います」
その後、部下とともに派遣会社を3社渡り歩いたが、いずれも派遣社員に対する考え方は変わらない。当初は起業を考えていなかった秋田社長も、「これはもう自分で会社を興したほうがいい」と、機会を窺うようになった。
ほどなく3社目の派遣会社が資金繰りに窮し、日払い日当も払えない状況に陥った。ここで秋田社長は派遣会社の権利をすべて買い取り、プロテックを起業する。「創業時の資金調達も、もちろん苦労しましたよ。しかし、現実に仕事はあり、派遣契約書も存在する。私の熱意が通じたのか、地方銀行が融資に応じてくれ、プロテックを創業することができました」
足元を固め、人を大切に。もっと派遣社員を助けたい
創業後、プロテックは順調に業績を伸ばし、本社のある茨城県水戸市以外に東京支店・千葉支店・埼玉支店・盛岡支店・仙台支店を展開する。今後さらに愛知支店を立ち上げ、東海地方から東北地方までをカバーする計画だ。
また、自動車教習所をM&Aで買い取り、独自にドライバーを養成する事業も計画中だ。ドライバーの業務は専門分化されており、中型・大型免許を取得しただけでは現場で通用しない。そこで自社の自動車教習所でドライバーを即戦力一歩手前まで訓練し、派遣先での教育期間を極力短縮させようという試みだ。同時にクルマ好きの秋田社長は若者のクルマ離れを憂えており、運転の楽しさを若い世代に知ってもらいたいという想いもある。
「いずれは当社の派遣ドライバーだけでなく、クライアントの正社員をお預かりし、教育することも可能です。こんな事業を考えたドライバー派遣会社はこれまでなかったのではないでしょうか。こうした新たなビジネスモデルを考えるには、発想の転換が必要です。フィールドマネージャー制度もそうでしたが、過去にないビジネスモデルだからこそ、やる。人と同じことをしても、大きな収益は上がりません」
プロテックが次に目指す大きな目標は、2019年9月に予定している東証マザーズ上場だ。上場準備は順調だが、ビジネスのよいときも悪いときも知り尽くしてきた秋田社長だけに、油断はない。
「もっとも大切なことはコンプライアンス順守です。好業績に踊らず、足元の派遣サービスをしっかり固めていくこと。そして派遣社員をもっともっと柔軟に助けられる会社になりたい。今後もよりいっそう“人”を大切にし、派遣と正社員を区別する今の社会のあり方を変えていくことが私の使命だと思っています」
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株式会社プロテックホールディングス
代表取締役社長 秋田 俊二
茨城県生まれ。人材紹介会社、ジュエリー販売会社などを経て、大手リフォーム会社や大手派遣会社で支店長職を経験するが、いずれも倒産。派遣会社3社を経て、2010年株式会社プロテックを創業。物流業界に特化して、大手物流会社へドライバーを派遣し、業務を拡大。2014年、茨城県水戸市に自社ビルを竣工。株式会社プロテックをはじめとした事業会社3社を統括する株式会社プロテックホールディングスを設立し、代表取締役に就任した。2019年に東証マザーズ上場を予定。