社会が急速に変化する現代、組織を牽引するエグゼクティブは日々大きなストレスに晒され続けている。とりわけエグゼクティブに必須のマルチタスクは集中力を奪う最大の要因と言われており、ストレスの種となりがちだ。その対処法として近年注目されているのが、心を整え、集中力を取り戻すマインドフルネスである。
マインドフルネスは1979年、米国マサチューセッツ大学医学部のジョン・カバット・ジン博士が学内にストレス・クリニックを開設し、仏教の瞑想法を8週間のプログラムにまとめて提供したことに始まる。2007年、グーグルが社内向けにマインドフルネス実践プログラムを開発し、受講待機者が数百名に及んだことや、インテル、フェイスブック、P&G、マッキンゼーなど名立たる米国企業が社員教育に採り入れたことで、日本でも知られるようになった。
マインドフルネスとは、「今この瞬間に完全に注意を向けた状態」のこと。落ち込んでいるときや不安なとき、人は現在から注意がそれた状態にあるといわれている。例えば過去のことを思い出し、「あんなことをしなければよかった」「なぜ、あんなことをしてしまったのか」と後悔し続ける人は少なくない。反対に未来のことを考え、「うまくいかなかったらどうしよう」「失敗したらどうなるのだろう」と不安に駆られることもあるだろう。
しかし、落ち込んだり不安になるのは人として当然の感情で、それ自体に問題はない。過去を後悔することで人は教訓を得ることができるし、未来を不安に思うことで人は念入りに備えようとする。問題は過去や未来に囚われてしまい、思考が同じ場所をグルグルと反芻し、ロックされてしまうことだ。このような後悔や不安の反芻から脱出できずにいると、目の前の仕事に集中できなくなり、負の連鎖を呼び込んでしまう。
そこで思考のロック状態を断ち切るため、「今、目の前で起きていること」に集中するのがマインドフルネスだ。人の脳は目の前のことに集中するとき、悩みや不安を忘れることができる。なぜなら、人の脳の情報処理量には限界があり、目の前のことに注意を払うと過去や未来にまで注意が及ばなくなるからだ。例えば美味しい料理を口に入れた瞬間、味わうことに夢中になったり、ゴルフで会心のショットを打った瞬間、心地よい余韻に浸った経験のある人は多いのではないだろうか。こうした目の前のことに集中したとき思考のロック状態が解除され、人は不安や悩みから逃れることができる。この状態を意図的に生み出すのが、マインドフルネスだ。
では、具体的にマインドフルネスの方法を説明しよう。医療施設などで実施されるマインドフルネスのプログラムは8~9週間に渡るが、ここでは自宅や職場で5~10分程度で簡単にできる方法をご紹介する。
さて、これまでの説明でおわかりの通り、マインドフルネスは座れさえすれば、どこででも実践することができる。次に紹介するのは、電車やバスなど通勤中にも実践できる方法だ。
さて、ここまでひとりで実践する方法を紹介してきたが、マインドフルネスはもちろん集団で実践することもでき、そのための企業研修もさまざまな団体が実施している。
例えば前述のグーグルでは、会議前に出席者全員でマインドフルネスを実践することもあるという。どんな職場でもそうだろうが、リーダーが集まる会議の場合、多忙なスケジュールを縫っての参加のため、慌ただしく駆けつけて集中できていなかったり、他案件の電話やメールが気になって気もそぞろな人がいることは珍しくない。これでは会議に身が入らず、なんのために集まって話し合っているのかわからない。そこで会議前に5分間、マインドフルネスの「呼吸+瞑想」を実施すると頭の中がリセットされ、目の前の会議に集中できる状態が整っていくといわれている。
上記以外にも企業を対象とした研修では、歩きながら瞑想する「マインドフル・ウォーキング」や、目の前の食事に集中しながら食べる「マインドフル・イーティング」などもおこなわれている。このことからも、マインドフルネスは日常生活のさまざまな場面で実践できるストレス対処法であることがわかる。