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経営者がリードする「危機管理 ~不祥事編~」

真面目な経営者や社員が起こす不祥事とは

企業のさまざまな危機の中でもっともイメージが悪く、それゆえ人の記憶に残るものが「不祥事」だろう。大変残念なことだが、不祥事はどの企業にも起こり得る。

不正会計、商品偽装、横領や背任、贈収賄など、メディアでよく目にする企業不祥事を起こすのは、そもそもが真面目な経営者や社員が多いという。近年、経営者はかつてないスピーディーな経営判断と厳しいコンプライアンス遵守の姿勢が問われている。経営者は社員、取引先、金融機関、株主など、あらゆるステークホルダーの視線を集める立場にあり、順風満帆な時期なら気にならないことも、業績が悪化すると大きなプレッシャーとなって判断を狂わせる。また、売上が順調なときはなんら問題のない営業社員も、売上が伸び悩んだり、厳しいノルマを課されると、販売手段を選ばなくなったり、売上をごまかす可能性が出てくる。

さらに、不祥事は本人が意識して行うものばかりとは限らない。例えば、ある企業で不適切な会計処理が長年行われている場合、入社時からその処理になじんでいる社員はそれがコンプライアンス違反だと気づかない。仮に違反と気づいても、組織の中で口にすることはできず、知らぬ顔を決め込むことになる。そんな社員が複数いれば組織全体の不祥事となり、露見した頃には取り返しのつかない状況になる可能性もある。

不祥事を引き起こす4つのリスク

ここで経営者が目配りしたい不祥事発生のリスクを紹介する。

(1)バイアスリスク

災害が起きたとき、事前に情報が提供されているにもかかわらず、「自分だけは大丈夫」「そんな悪い事態になるはずがない」と考え、逃げ遅れてしまう事例をよく耳にする。これは心理学用語で「正常性バイアス」と呼ばれ、自分にとって都合の悪い情報を過小評価する心理状態を指す。

企業不祥事も同様で、社員が社内の不正を目にしても「たいしたことではない」「自分の勘違いかもしれない」「今は黙っておこう」と考え、経営者に情報が上がるのが遅れてしまう。また、「今まで不祥事がなかった」という点に経営者が安心し、「わが社は大丈夫」と思い込んでしまうのも、心理的なバイアスのひとつだ。

(2)社内非常識リスク

その業界や企業では当たり前のことが、社会の常識に照らし合わせると非常識なケースを指す。働き方改革の時代にあっても深夜残業が続くブラック企業や、長年の業界の慣習で所属タレントと契約書を交わさない芸能事務所などが一例だ。上記は極端な例かもしれないが、どんな企業も知らず知らずのうちに非常識リスクを内包しているもの。例えば「例年どおり」行う作業の中にコンプライアンス違反のものはないだろうか。時代が移れば常識も変わる。先代経営者からの慣習とはいえ、現代社会にそぐわないものもあるかもしれない。

社内非常識リスクはワンマン経営の企業や縦割り型組織に生じやすい。ワンマン経営者にはみな意見をしづらいし、鶴の一声で非常識も「常識」になってしまう。縦割り型組織は他部署の目が届かず、部署内の非常識が延々と続いてしまいがちだ。

(3)コミュニケーションリスク

当然ながら、人は自分の評価が上がる情報であれば正確かつ積極的に伝えるが、自分の評価が下がる情報は伝えたがらない。会社の損失や危機に関わる情報も同様で、報告する部下は情報量が抑えめになり、自分に責任が及ばないよう内容を加工したりする。報告された上司もそもそも聞きたくない情報のため、正確に理解せず、さらに自分の責任を回避するため内容を再加工してしまう。結果として経営者には一部の情報しか伝わらない、という事態になる。

こうした行動は意識的に行われるだけでなく、無意識下のケースも少なくない。

(4)ブラックボックス化リスク

商品開発や特定の知識や技術を必要とする部門で不正が行われた際、専門知識を持つ社員が限られているため、不正行為が露見しづらく、ブラックボックス化しやすい。とくに商品開発は長い時間をかけて行うものであり、企業のバックボーンともいえる開発思想に関わるため、万一不正があったときの打撃が大きい。防止のためにも、技術系社員へのコンプライアンス教育に力を注ぎたいところだ。

また、子会社で発生した不正がブラックボックス化し、大きな不祥事になった事例は数多い。物理的に目が届きにくいことや、異なる業務内容で親会社が専門知識を持たないこと、さらには子会社への遠慮や配慮がその背景にあるといわれている。

企業体質を問う二次リスクは事前の対策により防げる

災害対応もそうだが、不祥事にも一次リスクと二次リスクがある。一次リスクは、誰かが故意に不正を犯すもので、その内容は業界や企業や個人の特性によりさまざまだ。

一方、二次リスクは、一次リスクによって生じた不祥事を放置・黙認・隠蔽し、不正による被害が広がることで起きる。ひとりの銀行員による横領なら一次リスクだが、組織的な不正融資ならもはや二次リスク。一次リスクは個々の問題と言えなくもないが、二次リスクは組織的で根が深く、企業の体質そのものが問われる問題だ。企業に大きな打撃を与えるのは、言うまでもなく二次リスクである。ただし、一次リスクを完全になくすのは難しいが、二次リスクは防ぐことができる。

では、社内不祥事を防ぐために、企業はどのような対策を打つべきだろうか。

よく行われる施策は不祥事防止のためのガイドラインや社内ルールを策定し、社員教育を実施すること。「なにが法律に触れるのか」を社員一人ひとりに徹底し、「〇〇の場合は上司に報告する」など、行動指針を明確にする。策定後もガイドラインは定期的にPDCAにより見直し、その作業を現場の社員に担当させるとよい。より現場に近い社員に見直しをさせることで、「自分たちが決めたルールを自分たちで守る」という気持ちが生まれやすい。

内部通報制度については、従業員300人以下の企業でも7割以上が実施しており、その窓口を経営者直轄とする企業も多い。通報窓口に寄せられた相談には、「パワハラ、セクハラなど職場環境を害する行為」がもっとも多いが、「法令違反」「その他の不正行為」も2割程度存在する。総じて、「従業員による違法行為への抑止力として機能している」「内部の自浄作用によって違法行為を是正する機会が拡充された」と効果が認められている。(消費者庁調べ/2016年度)

ほかに監査役制度や内部監査担当部署の設置や、社外取締役の登用などの方法もある。経営者といえども人間であり、不祥事の種を見落とすこともあれば、逆風に心が弱くなることもある。そんなときに経営者・社員とも不正に走らない体制を、平時から整えておきたいものだ。

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