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経営者がリードする「危機管理 ~SNS炎上編~」

SNS「炎上」が起きるメカニズム

近年、企業の認知向上や製品の宣伝・告知を目的に、SNSの公式アカウントを持ち、情報発信する企業が増えている。また、国内でのSNS利用者数はLINEが約8,200万人、Twitter4,500万人(推定)、Instagram約3,300万人、Facebook約2,600万人(いずれも2019年)に達しており、企業自体は関わっていなくとも従業員・顧客・取引先などステークホルダーが日常的に使用していることが一般的だ。そんな中、SNSによるトラブルや「炎上」が起き、企業イメージを損なったり、業務に支障をきたす事例が散見される。

そもそも「炎上」とはどういうメカニズムで起きるのだろうか。まず、問題となる投稿がされる。内容は企業の製品・サービス・接客への不満、身内の悪ふざけなど、多種多様だ。すると、SNS上では「リツイート」や「シェア」などの機能により、ボタンひとつで拡散が始まる。内容が刺激的であればあるほど拡散はねずみ算式に増え、匿名掲示板や「まとめサイト」に取り上げられるようになる。いわゆる「炎上」はこのあたりから始まるとされ、投稿者の個人特定やターゲットへの執拗な批難・中傷が繰り返される。やがてWebニュースメディアやニュースアプリで配信されるとマスメディアの知るところとなり、TV番組などに取り上げられて多くの人に知られることになる。実は情報の拡散ぶりに比べて、実際の炎上に参加する人の数は非常に少なく、ある研究によるとインターネットユーザーの0.5%に過ぎないという。しかも、その9割以上は感想を述べるだけに留まっており、批判的な投稿を繰り返したり、企業へ抗議電話などをする直接攻撃者は数人~数十人に過ぎないと言われている。それなら「無視すればいい」とも思えるが、炎上内容が会社の信用を傷つけるもの、個人の安全に関わるもの、顧客離れを招いてしまうものなどは、的確に対処することが望ましい。

炎上しやすい投稿6類型

炎上しやすい投稿には次のような類型がある。とくに(1)~(3)は公式アカウントで発生しやすい。

(1)悪ノリ型

飲食店のアルバイトなどが職場で悪ふざけする写真や映像を投稿した事例が典型で、身内だけを対象にしていたつもりが拡散するケースが多い。実は公式アカウントでも、担当者が軽妙なコメントを投稿したつもりが炎上してしまった事例が少なくない。

(2)想定外型

差別や侮辱をする意図はなかったが、思いもよらない形で炎上するもの。人種・国籍・性別・職業・宗教・政治などに触れると、炎上を招きやすい。

(3)誤爆型

公式アカウントと個人アカウントを間違えて投稿するもの。過去にグローバル企業の役員による機密漏えいにつながった事例もある。

(4)個人情報漏えい型

著名人や顧客の情報を投稿するもの。自社の店舗に来店した著名人の実名や行動を、従業員がSNSに投稿した事例が多い。

(5)機密情報漏えい型

会社の新製品・新サービスなどの情報をうっかりフライング発信してしまったり、情報公開の範囲を間違えて発信するもの。

(6)会社批判・告発型

会社や上司・同僚への批判や誹謗中傷する投稿。不適切な行為を告発する投稿も含む。

トラブル発生時の対処法

では、実際に見過ごせない炎上が起きたとき、企業はどのように対応するべきなのだろうか。

まず初動対応としては一次情報を確認し、原因は何か、現在の状況はどうなのか、被害範囲はどの程度なのか、どこに責任があるのか、などを検討する。そして発信元が従業員であれば、アカウントごと削除を依頼すること。個人の投稿の場合、過去にも不適切な投稿をしている可能性が高いため、他のSNSも含めてできる限り早くアカウント削除することが理想だ。

一方、公式アカウントの場合は、すぐに削除してしまうと「説明責任を果たしていない」と受け取られる恐れがある。そのため、いったん通常の更新をストップし、事実関係の説明や謝罪文などを投稿して様子を見る方法が考えられる。反論すると火に油を注ぐかたちになるため、余程強固な根拠を明示できるケースや、第三者による検証が確立されているケースに限定した方がよい。このとき、同時進行でプレスリリースの作成を進めておくと、社内の事実確認や対処の方向性が統一できる。プレスリリースはあくまでも低姿勢にお詫びの気持ちを社会全体に伝えるものが望ましい。自社に責任がない事案で謝罪するのは経営者にとっても無念だが、「世の中を騒がせたお詫び」と割り切って、事実関係と謝罪文を明確に掲載する。

社外の投稿の場合、自社に非があることが明らかであれば、個別に謝罪を行い、対応策を提示する。このとき、相手がクレーマーと思われても丁寧な対応を心がけること。口止めをしたり、言い訳や責任回避と受け取られやすい言葉を口にすると、さらに炎上が拡がる可能性がある。

自社に非がないことが証明できるのであれば、「まとめサイト」やWebニュースサイトなどの二次・三次情報の掲載元にも削除を依頼することができる。削除依頼はサイト運営会社にメールなどで連絡し、削除の根拠などを明示するとよい。一度インターネット上に晒された情報は第三者によって保存され、完全に削除するのは不可能だといわれる。しかし、閲覧数が多い「まとめサイト」などから誤った情報を少しでも削除できれば、後々のイメージ回復にもつなげやすい。

トラブルを未然に防ぐには

SNSトラブルを未然に防ぐためには、日頃からSNSトラブルを前提とした社員教育と労務管理を行う必要がある。

まず、公式アカウントを担当する社員にはSNS教育を徹底し、SNSのメリット・デメリットの両面を熟知させる。その際に過去の事例研究はもちろん、著作権・肖像権・商標などの法的知識も学んでおくと、余計なトラブルに巻き込まれにくくなる。さらに公式アカウントはひとりの社員に任せるのではなく、複数の社員で内容チェックを行い、投稿前に広い視野で「誤解される表現はないか」「これを読んで不愉快になる人はいないか」などを確認する。また、公式アカウントと私的アカウントは必ず別の端末で操作すること。前述の(3)誤爆型を予防するためだが、意外に(2)想定外型や(3)で失敗するのが経営者や役員であったりする。過去にも経営者・役員のSNSやブログから炎上したケースは多く、チェック体制が敷きにくい社内の様子が垣間見える。

従業員全体には社員研修やガイドラインを通じてSNS対策を教育し、「顧客の個人情報を漏らさない」「同僚を中傷する内容は書かない」など、当たり前に思えることも周知徹底させておく。

さらに、就業規則の「機密保持」や「服務規律」の項目にSNSにも対応できる条文を盛り込み、入社時の提出書類にSNSに関する誓約書も追加しておくとよい。万一、従業員の投稿により重大な事態を招いた場合は、処分を検討する必要が生じるかもしれない。その際、就業規則上に根拠を求められることが少なくないためだ。

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