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経営者がリードする「危機管理 ~パンデミック編~」

パンデミック3つの特徴

感染症の専門家の間には、「パンデミックはifではなくwhenである」という言葉がある。「もし起きたら…ではなく、いつ起きるかの問題だ」という意味だが、新型コロナウイルスの流行以前にこの言葉を実感を持って受け止めることができた経営者がどれほどいただろうか。とくに日本では地震や水害などの自然災害に対する危機管理計画は中小企業でも整備されつつあるが、「パンデミック対策まではできていなかった」という企業が大部分だろう。大急ぎで体制を整えた企業も多いだろうが、今回は改めて経営者がとるべきパンデミック対策をまとめてみた。

まず、わかりやすいところで、地震災害との違いからパンデミックの特徴を押さえておこう。

(1)被害が世界同時進行する

現状を見れば言うまでもないことだが、世界同時進行の影響は甚大だ。物資の調達不能やサプライチェーンの寸断、輸出入の停滞、外出自粛や渡航不能による交通・旅行・観光・娯楽・小売・飲食産業への大打撃など、多種多様な業界に影響が出ている。これに比べると、地震の被害は地域的・局所的だ。

(2)人的被害が大きい

感染症が襲う対象は人で、地震のように建物・設備やインフラへの影響は少ない。地震の死者数は数千人~数万人だが、新型コロナウイルスの感染者数は全世界で4,500万人を超え、死者数も118万人に及ぶ(2020年10月30日現在)。

(3)影響が長期化しやすい

地震の影響は過去の事例からある程度想定できるが、感染症は不確実性が高く、予測が困難だと言われている。ちなみに、100年前のスペイン風邪は第3波まで含めると3年近く流行。人口の約43%が感染し、集団免疫を得て収束したといわれている。

パンデミック下で経営者がすべきこと

予測困難なパンデミック下で、企業の経営者はすでにさまざまな対策を講じてきたはずだ。従業員のマスク着用や体調管理に始まり、可能な範囲でのテレワークや時差通勤、出張の自粛、会議や商談のオンライン化、従業員への旅行・会食の自粛要請など、私たちのビジネス風景はこの1年で大きく変化した。その中で、経営者にしかできないことは少なくない。

まず、社内に危機管理体制を確立すること。経営者をリーダーに対策本部を設置し、主管部門の部門長・管理職が参加して部下の管理と衛生行動を徹底する。その際、経営者も幹部社員も出勤できない事態を想定して、確実に機能する連絡網を整えること。経営者以下、各メンバーのり患に備えて、代行者を決めておくことも忘れずに。

そして従業員と顧客を感染から守るため、最大限の努力をすること。テレワークはそのひとつの方法であり、在宅勤務を可能にするPCやセキュリティ対策・各種備品などを企業が用意する必要がある。また、今回の

パンデミックで自社に必要な防災備品を把握できた企業も多いだろうから、次の波に備えて日頃から備蓄しておく。マスク、使い捨て手袋などの備蓄は、地震災害時にも役に立つ。

なにより経営者が心を砕かなくてはならないのは、当然ながら事業の継続である。すでに経験済みの方も多いだろうが、パンデミック下では平時と同じ業務を継続することは難しい。そこで、「どの業務を優先するのか」「どの業務をあきらめるのか」という事業の縮退計画をあらかじめ策定しておくと、スムーズに危機管理体制に移ることができる。

事業縮退時の対策とは

事業の縮退は被害状況に合わせて、段階的に実施していく。パンデミック下では、「材料が調達できない」「従業員が出勤できない」という事態が日常的に起き得る。そんな中で、手に入る材料や人員を駆使して、優先順位の高い業務部門を動かしていく必要がある。

例えば、部品調達先がグローバルに拡がる自動車メーカーA社では、東日本大震災を教訓に、膨大な下請け企業のデータベースを構築。いち早く影響が出そうな部品を割り出し、代替生産先を確保した。これを参考に、いざというときの代替取引先の確保を考えておきたい。ただ、A社でさえ、新型コロナウイルスが全世界に拡大した3月には、世界各地で工場停止に追い込まれている。

また、一定割合の従業員がり患して出勤できない可能性も想定しておく。従業員が一度り患すると、最低2週間は出勤ができない。年齢が高い従業員なら、さらに休む期間が長引くだろう。ちなみに、2009年の「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」では、日本でも欧州でもピーク時に40%の従業員が2週間程度欠勤することを想定して事業継続計画を策定するよう勧められていた。シビアな数値だが、つねに最悪のケースに備えるのが経営者の役割と考えて、個人が休んだときの影響を部署単位で想定し、誰がカバーするのか事前に決めておく。もちろん、日頃から従業員の多能工化を図っておくことも有効な手段だ。

製造業の中小企業B社では、感染拡大が始まった頃、従業員の2割を自宅待機させ、残り8割で製造ラインを動かす決断をした。万一、従業員に感染者が出た場合、二次感染者や濃厚接触者が複数認定されると想定しての事前処置で、いざというときは自宅待機していた従業員と他部門の従業員を併せて製造ラインを動かす計画だったという。幸い現時点で感染者は出ていないが、こうした全社的な対策を実行できるのは経営者だけである。有事の際には経営者のリーダーシップが問われるところだ。

会社を存続させるための資金繰り

企業の存続のために、経営者が何より注力しなくてはいけないのは、やはり資金繰りだろう。資金繰りの算段はそれぞれ自分なりのやり方があるだろうが、一般的によく言われるのは、売掛金を早期回収できる事業に社内資源をシフトすること。そして、経費の圧縮に努めることだ。企業の月々の出費は家賃や人件費などの固定費が大きな比率を占める。家賃については営業所・店舗の撤退や家賃減額の交渉、国の給付金の活用など。人件費は雇用調整助成金などを活用し、できる限り雇用を維持したい。企業は従業員なくして成り立たない。パンデミックが収束しても業務に精通した従業員がいなければ、ビジネスの復活ははるか先になる。

ご存じのとおり、今回のパンデミックではさまざまな給付金・助成金・補助金や金融機関の無利子・無担保の特別融資などが用意されている。また、国税・地方税の支払猶予制度や金融機関への返済猶予制度などもある。ほかにテレワークを推進するためのデジタル化設備の投資に対する税額控除制度も拡充された。こうした制度の中には申請手続きがかなり面倒なものもあるが、顧問税理士や顧問社会保険労務士などプロの手を借りて、ぜひとも活用したい。また、自治体が独自の支援策を講じているケースもある。具体的な情報はプロだけでなく同業者からもたらされることもあるので、同業者との情報交換も積極的に行いたい。

パンデミック襲来以降、悩みを深める経営者は少なくない。しかし、こんなときこそ迅速な業績回復のため、顧客とのパイプをしっかり維持しておくべきだ。また、今回のように大規模なパラダイムシフトが起きるときは、実はビジネスチャンスも多い。

パンデミックの危機管理対策は100社あれば100通り存在する。今後も新たなウイルスが人間社会を襲う可能性は十二分にある。経営者は今回の経験を糧に、パンデミックに動じない企業を創り上げたいところだ。

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