働き方改革に取り組む企業は多い。時間や場所に制約されない働き方を進める上で重要になるのがコミュニケーションだ。そんな中、従来の電話やメールに代わって企業内で存在感が増しているのがビジネスチャットだ。今なぜ、ビジネスチャットなのか。活用事例を交えながら、企業に選ばれる理由を説明する。
働き方改革は今に始まったわけではない。これまでも、仕事と家庭の両立などに取り組む企業は少なくなかった。だが、日本の労働人口が減少し始める中、企業が今後も持続的な成長を果たしていくためには、これまで以上に働き方改革に取り組む必要がある。
働き方改革のポイントは、単に仕事のやり方を変えるだけでなく、これまでの業務の進め方を見直し、いかに社員一人ひとりの生産性を高めるかにある。例えば、介護や子育てなどで在宅勤務している社員が部・課にいる場合でも、会社で仕事をしているかのように社員同士の意思疎通や情報共有を促すことができるコミュニケーションツールが必要になる。
そのツールとして、企業での活用が広がっているのがビジネスチャットだ。個人用チャットでは、LINEやFacebook Messengerなどのアプリがおなじみだ。仲間とグループを作り、メッセージをやり取りする人は多い。ビジネスチャットは個人用チャットにユーザーの運用管理機能などを追加し、ビジネスで利用しやすくしている。個人用チャットの使い方と同様に、ビジネスチャットもテーマやプロジェクト、事業部門など様々な単位でグループを設け、グループに参加するメンバーは手軽に情報共有や議論を行うことができる。
ビジネスチャットは、業務向けに機能を拡張したツールや、無償で基本機能が利用できるツールなど、多種多様なタイプが市場に投入されている。ツールによって機能は異なるが、チャット、Web会議、音声通話、ファイル共有、タスク管理などの機能を備え、チーム・組織内の情報共有やメッセージ交換をサポートする。
ビジネスチャットを導入する企業の中には「メールより簡単に情報交換できる」と評価する声も聞かれる。メールの場合、相手の名前を書き、「お世話になります」といったあいさつ文を添えるのが一般的だ。ビジネスチャットは、こうした堅苦しい文面は不要で、すぐ本題に入れる。例えば「残業について」といったテーマを決めて、社員の考え方を聞くといったことも手軽にできる。ビジネスチャットは双方向、リアルタイムの情報交換も可能なので、ほかの人がどんな意見を持っているのか分かりやすい。
一方、メールはリアルタイムのやり取りには向かないものの、詳細な内容や送信者の考えをしっかり相手に伝えるといった情報伝達手段として欠かせない。簡潔に要件を伝えるときはチャット、要件をじっくり伝えるときはメールというように適材適所にツールを使い分ける。
また、社内のプロジェクトチームなど、複数のメンバーにメールを送る場合、CC操作の手間や送信漏れがないか確認が必要だ。だが、プロジェクトチームでチャットのグループを設ければ、簡単にチームのメンバー全員にメッセージを伝えられ、仕事の進め方を効率化でき、生産性の向上につなげられる。
それでは、企業はビジネスチャットをどう使い、どんな効果を上げているのだろうか。
A社では働き方改革の一環として、社外でも社内同様の仕事が行えるICT環境を整備している。例えば、営業担当者が顧客との打ち合わせで時間が延び、社内の会議に間に合わないこともある。そんな時に社外からスマホを用いてチャットやWeb会議でミーティングに参加できるようにしている。従来は、会議のために会社に戻らなければならなかったが、チャットなどの活用で柔軟な働き方を可能にした。また、在宅勤務者に対しても、同様の活用が可能になると見ており、さらに社員が働きやすい環境作りを目指している。
B社では適材適所にコミュニケーションツールを使い分け、社内の業務効率化に成功している。電話して相手が不在の場合、電話をかけた本人の時間のムダになるだけでなく、電話を取り次いだ人の業務の妨げになることもある。そこで、相手が在席しているかどうか手元のPCでプレゼンスを確認する。在席していれば電話やチャット、不在の場合はメールで要件を伝えるというように、相手の状況に応じてコミュニケーション手段を使い分けることで、業務を効率化できるという。
C社では商品ごとにグループチャットを作り、部門間の情報共有を推進している。1つの商品を作り出すためには企画、開発、生産、販売、出荷など社内の様々な部門が関わる。チャットを使って商品開発の進捗状況などについてグループ内で情報を共有することにより、生産や販売などの各部門は仕事の段取りを的確に準備できる。こうした取り組みにより、仕事のムダがなくなり、残業時間を減らす効果もあるという。
D社ではチャットを用いて商品開発のスピードアップに役立てている。営業担当者が顧客から「こんな商品はないか」といった相談を受けた場合、担当者はその相談内容を社内のチャットに載せる。すると、チャットを見た別の社員が「その商品のことなら○○部の××さんが詳しい」といったメッセージを寄せるなど、属人化していた社員の知識やハウハウをチャット上で共有する。そして、××さんを巻き込んで直ちに商品開発に着手することも可能だ。従来であれば、商品開発の担当者を決めるための社内調整などに時間がかかっていたが、チャットを活用することで仕事の進め方を変えることができているのだ。
ビジネスチャットは多種多様なツールがあり、どれを選べばいいのか迷うほどだ。チャットや音声/Web会議などの基本機能を備えるツールや、メールやカレンダー、掲示板などのグループウェアの機能の一部としてチャットやファイル共有などのコミュニケーション機能を利用できるツールなど、様々なタイプがある。導入は、営業部など特定の部門からスモールスタートし、使い勝手や効果などを確かめながら、社内の他部門に広げていく方法もある。
ビジネスチャットはクラウドサービスとして提供されるタイプが主流で、導入の敷居は低い。「働き方改革」の実現に向け、社員の柔軟で自由な議論や情報交換を加速させる必要がある。ビジネスチャットで組織横断の議論が活発化し、社内の風通しがよくなったという声も聞かれる。これまでの仕事の進め方を見直し、働き方を変えたい企業こそ、ビジネスチャットを使って見てはどうだろうか。
そして、ビジネスで利用するには運用管理のしやすさやセキュリティ機能もポイントになる。ユーザーの追加・変更や利用状況のモニタリングなどの運用管理機能があれば便利だ。また、セキュリティでは、チャットのクラウドサービス利用時のデータ暗号化や、ユーザーの役職や職種(社員、契約社員など)に応じて利用できるサービスや閲覧を制限する機能を備えるツールもある。
手軽に導入できる半面、IT部門の関与しないところで、営業部門などが勝手に導入することも考えられる。グループ内とはいえ、メンバーが意識せずに重要な情報がやり取りされるリスクもある。IT部門の管理の下でセキュリティやガバナンスに配慮した使い方のルールを設ける必要もある。さらにビジネスチャットの利用が全社で広がってくれば、セキュリティーポリシーを含め、ICT活用のあり方を見直すことも考えられる。
ビジネスチャットを業務に組み入れ、社内コミュニケーションの活性化とともに働き方改革を実現する手段として活用したい。
(監修:日経BPコンサルティング)