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IT特集 - フィジカルインターネット

課題山積の物流業界に革新をもたらすフィジカルインターネット
~“モノを運ぶ”未来像を描く~

ネット通販の浸透に伴い貨物の配送が増大する中、物流業界では多くの課題が顕在化している。ドライバー不足と高齢化、配達員の負担増加など多様な問題が噴出しているが、それらを解決する手段の一つとして期待されるのが「フィジカルインターネット」による物流革命だ。モノを効率的に運ぶ新たな仕組みにより、物流業界が悩む課題の解決につながるとされるが、実態はどういうものなのか、最新事情を説明する。

ネット通販の台頭により小口配送が増加

Amazonや楽天を筆頭に、ネットショッピングが当たり前に利用されるようになった。これを受けて、物流業界は様々な課題に直面している。

宅配便の利用自体は大きく増えているものの、実は貨物の総量は減少基調にある。国土交通省のデータによると、宅配便の取扱個数は2007年度からの10年で3割以上伸びていながら、荷量は57.8億トンから47.8億トンへと大きく減少しているのだ。荷量が減った原因として考えられるのが、ネット通販の普及による小口配送の増加である。

個々の家庭に小さな荷物を配達する頻度が増えたということは、ドライバーが配送先に向かう回数や積み下ろし回数も増えたということ。ところが配達員の仕事は重労働でありながら賃金が相対的に低く、労働人口減少時代で若い世代の働き手も増えずに、人手不足と高齢化が顕著となっている。

物流の仕組みに関しても問題点が指摘される。貨物を一度大きな拠点に集め、そこから各方面の倉庫を通じて個々の配送先へ運んでいくハブ・アンド・スポーク方式は、大口の大量輸送を前提に定着したものだ。小口配送が増えると効率面で問題が生じ、荷物をさほど積まずに遠距離を走るトラックが増えた。実際に平均積載率は、1980年代の6割から近年は4割程度にまで下がっている。

国としても、2016年に物流業者の連携によるモーダルシフトや共同配送といった取り組みを支援する「改正物流総合効率化法」を成立させるなど、対処が必要な課題として捉えている。

物流の危機を救う? フィジカルインターネットとは

もちろん物流業界も、コンビニ受け取りや宅配ボックス設置、あるいは倉庫でのロボット導入など様々な対応策を繰り出している。しかしこうした施策が効果を表してくるには、まだ時間がかかるだろう。

その一方で、物流革新につながるかもしれない注目の動きも出てきている。それが「フィジカルインターネット」だ。この場合のフィジカルは“物理的”を意味する。インターネットは誰でも知っているが、そこにフィジカルが付くことでどういったものを表すのだろうか。

インターネットは、データを世界中に、しかも瞬時に届ける仕組みだ。PCで扱うファイルをパケットという単位にいったん分割し、最適なルートを通って相手先に届け、受信側で元のファイルに再構成する。効率送信の肝は、世界中に網の目のように張り巡らされたネットワークをフル活用する点にある。

これを物流に当てはめると、倉庫・トラックといった物理的(フィジカル)機能の利用と配送ルートに関して、小さなパケットを効率的に運ぶインターネットに学ぶことができる。従来の方式では、自社の拠点である大型倉庫に荷物を一度集め、そこから各方面にある小型倉庫に運んでから各配送先に届けるため、近距離間や小口の配送ではどうしても無駄が生じる。ここにインターネットのように緻密な網の目ルートを設定できれば、効率的な配送を期待できるだろう。

つまりフィジカルインターネットとは、大量の荷物を常に自社の倉庫に集めてから自社の車両で配送するのではなく、最も効率的なルート上にある車両や施設を利用して荷物を運ぼうという考え方だ。こう書くと、どこが革新的なのかと疑問に思うかもしれない。実は、フィジカルインターネットで利用する施設や車両は、自社所有のものとは限らない。提携を結んだ他社の施設や車両、さらに進めば物流企業に属さない一般の人の車両なども利用しながら、最適なルートで運んでいくという考え方が革新的といえる。

この仕組みを見て、配車サービス・Uber(ウーバー)や民泊サービス・Airbnb(エアービーアンドビー)などのシェアリングを思い浮かべる人もいるだろう。フィジカルインターネットも、発想の根本にあるのは同様の考え方だ。前述のように、小口配送が増えたことでトラックは荷台をフル活用せずに走っており、物流センターの倉庫もフル稼働はしていない。そこで、インターネットのデータ送信と同様の概念で同方面に向かう大量の貨物を分散し、自社・他社を問わず空いている倉庫やトラックで運ぶ。その際、一人のドライバーで長距離を走るのではなく、インターネットが世界各地の通信設備を細かにつないでいくように、網の目の結節点を最適に選択して短距離を緻密につないでいく。これがフィジカルインターネットのイメージだ。

図

実現の前提としては、施設や車両を共有し、連携する仕組みがまず整っていなければならない。また、空いている倉庫やトラックを瞬時に把握するため、IoTAIといったデジタル技術を活用する情報網整備も必須となる。そのほか、異なる業者で貨物を効率的に扱えるように、ボックスなどの規格を統一する努力も求められるだろう。

日本でもフィジカルインターネットはすでに始まっている

フィジカルインターネットが実現すれば、多くのメリットがあると考えられる。

まずはなんといっても車両の積載率、倉庫の稼働率を高めることで、物流会社は大型貨物から小口まで配送を効率化でき、生産性を上げられる。トラックの積載率が上がれば走る台数を減らせるので、CO2(二酸化炭素)排出削減にも効果があるだろう。

配達員の働き方改革にも有効と考えられる。短距離区間が連続する緻密なネットワークを構築できれば、長時間・長距離運転をなくし、ドライバーの肉体的・精神的疲労を抑えることが可能だ。さらには、物流業者以外の人が配送に参加したり、新たなビジネスとして起業するプレイヤーが登場することで、物流サービスが活性化し、ニーズに応じて価格に弾力性が生まれるという見方もある。

現時点でフィジカルインターネットはまだ実現していないものの、実現に向け取り組みを始めた企業はすでに出ている。米アマゾンは航空物流拠点の空港施設をドイツの物流大手・ドイツポストDHLとシェアしている。米国と欧州では時差があり、両社で稼働のピークタイムが異なるため、そこから生じる空きリソースを有効活用しようという考えだ。また、サステナビリティ(持続可能性)と環境への意識が高い欧州でも、大手企業が加盟する欧州物流革新協力連盟(ALICE)を中心にフィジカルインターネットを推進し、2030年の実現を目指している。

一方、日本でも動きが見られる。宅配最大手のヤマト運輸はフィジカルインターネット実現に向けた研究をスタートし、他の物流業者への呼びかけも進めていくと表明した。このほか、ビールやアパレル業界が共同物流を開始し、食品5社も共同会社を設立するなど、ライバル同士が提携した共同配送への試みも始まっている。まだまだフィジカルインターネットのイメージには至っていないが、重要な一歩として評価できるだろう。

実際にフィジカルインターネットが実現されるのは先の話だ。とはいえ、同業界、あるいは業界を超えた共同配送の動きも始まっており、本格的なフィジカルインターネットによる物流革命がいつ起きても不思議ではない。物流は広い目で見ればあらゆる業界に関わる重要な分野であるため、フィジカルインターネットの行方についてはウォッチしておく必要があるだろう。

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(監修:日経BPコンサルティング)