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AIとロボットによるオフィス生産性革命

「近い将来、半分の人の仕事はなくなってしまうかもしれない」・・・オックスフォード大学の研究者によるそんな予測が日本でも話題になった。かつて18世紀に産業革命が起きたように、現在は「人間の知能とコミュニケーション」がAI(人工知能)に置き換えられる、「AI・ロボット革命」が起きつつある。そしてこれからその主戦場になると言われているのが、オフィスで働くホワイトカラーの仕事をロボット化するRPA(Robotics Process Automation)というコンセプトだ。現状のRPAによるオフィス生産性革命の事例をご紹介する。

オフィスで働く人の半分はロボットになる?

経費精算、市場価格調査、保険金審査などのオフィス業務にはシステム化しづらい領域があり、今でも多くの人々が毎日何枚もの書類をチェックしてデータ入力をする作業に追われている。しかしそんな仕事にもこれからはRPAと呼ばれるAI化の波が押し寄せ、人間にとって代わろうとしつつある。RPAは特定の製品ではなく、AIや機械学習といった技術を用いたソフトウェアロボットを表す総称的な名前であり、日本語では「事務用ロボット」と言えるだろう。

単に「ロボット」というと、工場で働く製造ロボットや家庭で生活の友となるペットロボットのように「見て触れる、形のあるもの」を連想するが、これからオフィスで導入が始まるRPAで使われるのは純粋なソフトウェアであり、形はない。そんな「目に見えない」ロボットがホワイトカラーの仕事の多くを代替していこうとしているのだ。

RPAが使われる分野とは?

たとえば2017年早々、日本のある保険会社は医療保険などの支払査定業務にRPAを導入し、その業務に従事していた34人を削減することを発表した。最終的な決済は人間が行うものの、そのために必要な申請書・診断書・契約内容等の突き合わせ・査定金額の試算といった下準備の仕事はもはやRPA、つまりAI技術を用いたソフトウェアロボットで十分使い物になるということだ。

2014年にはAP通信が企業の決算発表の要約記事執筆をRPA化して、従来の10倍以上の企業数の決算発表を速報することが可能になった。2016年には米紙ワシントン・ポストがスポーツイベントの結果速報に同様の技術を導入した事例がある。

日本のあるレンタカー会社では、予約受付業務にRPAを導入。別々に開発された複数のシステムを操作して処理を進める必要があるため、多数のデータ項目を単にコピーするような単純な作業が多いにもかかわらずそれを自動化することができずにいた。この業務にRPAを導入した結果、多数の人手がかかっていた作業を自動化・省力化することに成功。あるケースでは4人の担当者が行っていた業務をRPAで代行できたという。

これらの事例が示しているのは、「煩雑ではあっても定型的な情報を処理する仕事は、かなりの割合でRPAにより代行できる」ということだ。

あるメーカーでは、ネット上の数百ものECサイトを回って自社と競合他社商品の市場価格を調査する作業にRPAを導入し、人力では10人がかりで1週間以上必要だったリードタイムを「即時」に短縮しつつ人件費も削減した。また、交通費や出張費等の経費申請をチェックする業務への応用などの事例もあり、経理業務の98%はRPAで対応できると言われている。

金融・報道・レンタル・メーカー等の業種を問わず、またマーケティング・著作権管理・経理事務等の職種を問わず幅広い業務に応用できる可能性があるのがRPAなのだ。

人工知能による「判断力」を備えた賢いマクロ機能

多くのオフィスで使われている表計算ソフトにはマクロ機能があり、たとえば人間により操作手順を覚えさせてその通り実行させたり、一部に判断を組み込んで違う処理をさせるなどの方法で「人の作業を自動化」することができる。RPAはこのようなマクロ機能がもっと賢くなったものと考えると良いだろう。

しかしRPAは単なるマクロ機能と違い、表計算ソフト単独にとどまらず複数のソフトウェアを横断的にコントロールすることができ、さらに人工知能技術により「人間の判断力」をある程度組み込むことが可能だ。それでいて大規模なシステム開発や高度な技術者を必要とせず、現場の人間が中心となって低コスト・短納期で開発運用することができる。

これまでのIT化はコンピュータで扱いやすい定型的な業務を中心に進められてきた。その結果、ちょっとした判断を要するため完全に定型化しにくい仕事はなかなかIT化が進まず、人間による作業が残っている。RPAはそのような領域で応用できるため、オフィスで働くホワイトカラーの生産性を大きく向上できる可能性がある。

現場の改善アイデアを実現するエンジンになる

元気な会社では、仕事の進め方を改善するちょっとしたアイデアが次から次へと出てくるものだが、そんな「ちょっとしたアイデア」を実現するエンジンになりうるのがRPAだ。たとえば会社に届く様々なメールを内容に応じて分類し、緊急性の高いものは電話やSMSでアラートを送ったり、電話による問い合わせの音声を自動認識して関連情報を表示するなど、ちょっとしたアシスタントのように働かせることも可能。この意味でのRPAは人の仕事を奪うものではなく、人間を単純作業から解放してより高度な仕事に集中できるようにしてくれる、ホワイトカラーの強い味方と言える。

とはいえ、現状のRPAの多くは指示通りにルーチンをこなす定型業務を代替する用途であり、人間と同等の「判断力」を備えているわけではない。しかし急速なAI技術の発達はその壁も徐々に乗り越えつつあり、「単純作業」ではなく、「業務」のオートメーション化が可能になりつつある。

RPAをオフィスの生産性向上の手がかりに!

もちろん、良いことばかりではない。冒頭の保険会社の例でも見られるようにRPAで労働者が仕事を失うケースもあれば、RPAを活用できずに会社全体が競争力を失うケースも考えられる。RPAを推進するためには、これまで属人的に行われていた仕事を標準化する必要があるが、日本企業はこれを苦手とする傾向があるとも言われている。

そのような問題はあるものの、比較的単純な事務作業を行う人員を不要にしてしまうことと、高度な仕事を行える人を単純作業から解放することの2点でRPAは今後のオフィスの生産性向上の切り札となりうる可能性がある。RPAのためであろうとなかろうと、仕事の流れを明らかにすることは継続的な改善を進めるためには欠かせない。システム投資の及んでいないバックオフィスの業務改善を進める手がかりの1つとして、特に人手不足に悩む中堅中小企業こそ、RPAの活用を検討する価値があるだろう。

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