離れていてもコミュニケーションを活性化させる上司のあり方とは
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、大企業はもちろん、中小企業でも急速にテレワークの導入が進んでいます。東京商工会議所が都内の中小企業を対象に5月末~6月初めに行った調査では、テレワークの導入率が67.3%に。3月に実施した調査では26.0%だったので、わずか3カ月で40%以上もテレワークが進んだことになります。
ところが急速にテレワーク導入が進んだ結果、いくつかの課題も浮き彫りになってきました。なかでも「社内のコミュニケーション」にまつわる課題は、さまざまな調査結果で上位にランクしています。
コミュニケーションでの課題には、「目の前に部下がいないので、様子がわからない」「気軽に質問したり、声をかけたりできない」など、コミュニケーション量の不足を心配するものや、「メールやチャットでやりとりをしているが、内容が伝わりづらい」「Web会議で顔を合わせるが、画面上では相手の反応がわかりづらい」などコミュニケーションの質に悩むものなどがあります。そこで今回は、テレワーク業務における上司から部下へのコミュニケーションのポイントをご紹介します。
一般的に、テレワークではスケジューラーやメール・チャットなどを活用し、各メンバーのその日の就業時間・業務内容・成果などを把握する企業が多いでしょう。その際、できる範囲でチーム全員が互いの情報を共有し、仲間の仕事ぶりがわかるようにしておくと、メンバー間の一体感や安心感が維持しやすくなります。
上司が気をつけたいのは、「部下一人ひとりの能力に合わせてマネジメント方法を変える」こと。チームの中にベテラン・中堅・若手が混在する場合、当然ながら業務の内容も質も重要度も異なります。まだまだ指導が必要な若手なら、こまめな成果報告を受ける必要があるでしょうが、ある程度任せられる中堅以上に頻繁に進行状況を確認するような行為は、過度なコミュニケーションに当たる可能性があります。極端な例ですが、例えば上司が1時間おきにチャットで進捗状況を尋ねると、そのたびに作業の手が止まりますし、部下は「監視されている」「自分は信頼されていないのか」という気持ちになりかねません。
すると返事も「予定どおりです」などとぶっきらぼうなものになりがちですし、人によっては返事をしなくなるケースもあるでしょう。そもそもオフィスならさりげなく観察できていた部下の仕事ぶりも、テレワークでは思いどおりに確認できないもの。ここは上司の側に「部下を信じる」という発想の転換が必要です。そして、部下から自発的に報告・連絡・相談をするようマネジメントするべきでしょう。例えば、「若手は質問事項が生じるたびに連絡を入れる」「中堅は企画書を半分作成した時点で提出する」といった職場に即したルールを決め、臨機応変に運用するといいでしょう。
また、会話がメールやチャットに取って代わると、どうしても言葉が先鋭化しがちです。Web会議も同様で、画面を通すと相手の表情や雰囲気が把握しづらく、リアルならできるフォローも難しくなります。そのためテレワーク下では、より言葉の選び方に配慮したコミュニケーションが求められます。例えば用件を伝える前に、「A社の案件をいつもありがとう」「忙しいところ申し訳ないけれど…」などのクッション言葉をつけること。さらに、「今日の会議の資料、よくできていて感心しました。1点だけ、△△について教えてもらえますか?」といった具合に、「最初にほめて、その後に要望を伝える」などの配慮をすると、部下も気持ちよく動けるようになります。
また、部下の成果報告に対して、オフィスなら「了解」「お疲れさん」のひと言で済んでいたとしても、そっくりそのままメールやチャットに持ち込むのはNGです。忙しくても、「いつもありがとう」「さすがだね」「〇〇くんに任せたら安心です」など、ひと言感謝の気持ちやほめ言葉を付け加えると、相手のモチベーションが上がります。ほめる内容も「〇ページの分析がよくできていたよ」「部長もほめていたよ」「提出が早くて助かったよ」など、できる限り具体的に伝えたほうが相手の心に響きます。大きな成果を挙げた部下には、チームメンバー全員の前でほめると効果的であることは、リアルもオンラインも変わりません。
反対に、叱るときは1対1が原則。できれば顔を合わせる機会があるときや電話に限定するべきでしょう。メールやチャットは文字として残るため、きつい言葉だけが記憶されかねません。その点、対面や電話なら表情や声のニュアンスで相手への思いやりや期待感などを伝えることができます。
突然始まったテレワークに、「雑談」の大切さを改めて実感している人が多いのではないでしょうか。メンバー同士はもちろん、上司と部下の間でも他愛もない雑談を交わすことで人間関係の距離が近づくことがよくあります。特に一人暮らしの社員がテレワークになると、朝から晩まで誰とも会話せずに1日を終えることが増え、否が応でも孤独感が深まります。そんな場合は雑談用のチャットを設けて社員の出入りを自由にし、就業時間内の雑談もある程度まで認めてみてはいかがでしょうか。
ある事務機器サービス企業の雑談チャットでは、新入社員にウェルカムメッセージを送ったり、好きなプロ野球球団の話題で盛り上がったりすることで、リアルで対面したことがない新入社員や遠隔地の社員とも親交が深まった事例が報告されています。また、始業・終業時間が一律の職場なら、毎日決まった時間に朝礼・終礼を行うのもひとつの方法です。あるIT企業で「オンライン朝礼」をスタートさせ、1分間スピーチをメンバー持ち回りで行ったところ、「在宅が続き、誰にも話せずにいたネタを披露できた」「メンバーの様子がわかって楽しかった」など予想以上に好評で、コミュニケーションが進んだうえに時間管理にメリハリがついたという事例もあります。
こうしたメンバー同士のコミュニケーションでは、上司はあまり口出ししないことがポイント。ルールを決め過ぎず、見守る姿勢に徹すると、自由なコミュニケーションの中から新しい試みを提案する人材が現れるものです。こうした小さな火をおこす人材が社内に増えれば、ボトムアップの改革が進みやすくなります。2020年5月、外出禁止令を経た米国ではFacebook社やTwitter社がコロナ後もテレワークを継続・拡大する姿勢を明確にしました。国内でも緊急事態宣言解除後もテレワーク継続を表明する大企業が多く、中小企業も新しい働き方に前向きに取り組み続ける必要がありそうです。