テレワーク中こそ気を配りたい従業員の健康維持・増進のための取り組み
最近、在宅勤務を続ける人々から「運動不足を解消できない」という声をよく耳にします。実際、在宅勤務の悩みでもっとも多いものが「身体・健康に関する内容」という調査結果もあるほどです。
労働者の健康と安全を守るための法律に労働安全衛生法があり、その対象にはテレワーク中の従業員も含まれます。企業はテレワーク中でも従業員に健康診断やストレスチェックを受けさせ、長時間労働を是正して従業員の健康に配慮しなくてはなりません。
ちなみに、従業員の健康の維持・増進を図ることで、企業には次のメリットがあるといわれています。
テレワークや在宅勤務が社会に定着しつつある今、生産性の向上は企業の存続に不可欠です。心身の健康を保てない職場環境では当然ながら従業員のモチベーションやパフォーマンスは下がりますし、離職につながりやすくなります。離職率の高さは企業イメージの低下に直結し、採用面に悪影響を及ぼす可能性も。さらに社会的課題でもある医療費負担が増え、企業だけでなく国や自治体の財政も圧迫します。直接従業員の顔色や体調を見ることができない状況だからこそ、一人ひとりの健康状態を気づかい、健康増進を図る取り組みが重要性を増しています。
では、企業は従業員の健康増進のために、具体的にどのような取り組みをすればよいのでしょうか。まず、働き方も含めた基本的な取り組みとして挙げられるのが、長時間労働の是正と年次有給休暇の取得推進です。2019年4月より「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が施行され、年5日の年次有給休暇の確実な取得が義務づけられました。取得をためらう従業員には企業が時季を指定して取得させられるほか、土日・祝日に年次有給休暇を組み合わせて連続休暇を取得させる「プラスワン休暇」も推奨されています。
さらに休暇の取得率を高めるためには、法定外の特別休暇制度を設けることが効果的とされています。2020年度の調査では約8割の企業が特別休暇制度を導入しており、以下はその一例です。
「勤続〇年」など、節目を迎えた従業員がまとまった休暇を取得するもの。
従業員本人や家族の誕生日など、家族にまつわる理由で取得するもの。経営者の考え方や社風により決められることが多く、「ファミリー休暇」「バースデー休暇」など、さまざまな名称で呼ばれている。
従業員が社会貢献活動を行うために取得する休暇で、約7.5%の企業が導入しており、「導入予定・検討中」の企業も約2割に上る。
子どもの運動会や授業参観など、学校行事に合わせて取得するもの。
前述のような休暇制度が整備されても、従業員が実際に取得することができなければ、「絵に描いた餅」になってしまいます。労働者に実施した調査によると、「休暇取得にためらいを感じる理由」の上位は「みんなに迷惑がかかると思うから」「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」。下位には「上司がいい顔をしないから」「昇格や査定に悪い影響があるから」という理由も並び、職場の雰囲気づくりや経営者や管理職の発想の転換が必要であることがわかります。
対策としては、属人化している業務を洗い出し、複数の従業員が行えるよう普段から多能工化を進めること。他にも、年度始めに各職場で全員に長期休暇の取得希望を聞き取って監督者が調整する、突発的な欠員に備えて普段から「ピンチヒッター」を職場内に一定数用意しておく、「年休要員」を含めた人員配置計画を作成するなどの方法があります。管理職の意識改革には、評価項目にワーク・ライフ・バランス管理に関する項目を組み入れること。とくに上位層になるほど、ワーク・ライフ・バランス管理への評価の重要度を高めると効果的です。また、経営者自らが社内メッセージや会議などで何度も取得を呼びかけるほか、自ら率先して休暇を取ることもひとつの方法です。
以前から業務の属人化に対する課題があり、属人化を解消するため業務の棚卸を実施した。その過程で、どの業務にどれほど時間がかかるかがわかり、ムダが見えるように。それまで個人の頭の中にしかなかった業務が見える化でき、業務の共有化が進んで、「その人にしかできない」業務が減少。休暇が取得しやすくなった。
2015年からワーク・ライフ・バランスに関するトップメッセージを発信。全社員向けに毎月発行する広報ニュースメールで休暇取得の意識啓発を行い、「有給休暇を使ってどんなことをしたか」という社員の事例を毎回3人分紹介するなどしている。
次に、オフィス内で健康増進のために行われている取り組みについてご紹介します。以下は今日からでも実行できる設備投資不要の取り組みです。
階段の上り下りは日常生活の動きの中でも運動負荷が大きく、心肺機能と筋肉が同時に鍛えられる運動といわれている。従業員には社内のエレベーターを極力使わず、階段の利用を推奨する。
毎日定時に体操やストレッチなどを一斉に行うことで、長時間座り続けることからくる腰痛や肩痛などを予防する。昔からある定時のラジオ体操もそのひとつ。他に、多少の設備投資や事前準備が必要なものも紹介します。
パンデミック以降、混雑する通勤電車を避け、自転車通勤する人が増えている。企業が自転車通勤を勧め、「自転車通勤手当」を支給するところもある。
仕事用デスクやミーティングテーブルを昇降タイプにし、従業員が立ち姿勢で作業をしたり、立ったままミーティングをするもの。ミーティング時間の短縮にもつながりやすい。
職場にバランスボールを置く、エアロバイクや懸垂ストレッチ用の雲梯を設置するなど、空き時間に運動を促す。
社内だけでなく、地域の清掃活動に企業として参加。体を動かすと同時に、地域貢献活動や地域の人々とのコミュニケーション促進にもなる。
栄養バランスのよいメニューを提供する、健康情報をテーブルなどに掲示する、地元の野菜を販売する、など。
オフィスの1階に駐輪スペースを設け、空気入れやメンテナンス工具などを用意。自転車通勤でかいた汗を流せるように、社内に男女別浴場も完備した。社内検証によると、週3日自転車通勤した従業員は体重が平均1.7kg、体脂肪率が平均1.6%減少した。