東日本大震災で、甚大な被害に遭った宮城県。図書館も例外ではなく、宮城県図書館の建物や書架などにも被害がおよび、県内の図書館のなかには津波で建物そのものがなくなってしまったところもあった。
図書館の復旧・復興に欠かせないものとはなにか。特に災害時に図書館はどのような力を発揮しうるのか。
さらに、地域コミュニティの中核として地域住民の生活を支えるため、どのような機能を県立図書館は果たすのか。宮城県図書館館長の蜂谷 洋氏に詳細を聞いた。
1978年に発生した「宮城県沖地震」を契機に、県では大規模地震災害の発生に備えて毎年6月12日を「県民防災の日」と定め、各種の訓練を行い、防災体制の確立と防災意識の高揚を図ってきました。また、宮城県図書館でも館長を委員長として防災委員会を設置し、訓練の実施などを通じて防火防災に関する情報の共有化を図ってきました。
人的被害の面では、幸いにも一人の負傷者も出すことなく避難することができました。ただ、施設設備の一部が損壊したことと、図書資料約105万点のほとんどが落下・散乱したために休館を余儀なくされ、被害総額は約6,000万円にもなりました。
電気は地震直後から停電したため自家発電に切り替え、停電期間は丸2日間にわたることに。水道は停電にともない9日間断水し、ガスは19日間供給停止となりました。ガソリンの入手が非常に困難となり、復旧する3月下旬まで通勤に支障が出た職員も多くいました。
おもに4つあります。1つ目は、図書館ネットワークを使った情報収集です。当時ガソリンの入手が難しく、市町村図書館へ出向くことが困難であったことから、宮城県図書館と市町村図書館とをポータルサイトで結んだ「宮城県図書館情報ネットワーク」(通称:MY-NET)を最大限活用し、このサイトの掲示板で情報を寄せるよう求めました。
2つ目は広域の情報集約と間接支援です。東日本大震災は被害が広範囲にわたり、他県の状況把握が難しい状況にありました。そのなかで、『saveMLAK』(注1)や各県立図書館の集約した情報は大変参考になりました。
2011年6月に、saveMLAK主催により東北大学で行われた「図書館復興受援者支援者連絡調整会議」を始めとして、その後も各種情報交換を行う会議が開催されました。そのなかでは「同じ内容の周知事項があちこちから寄せられるため、情報連絡ルートの調整を行ってほしい」といった話題が出されるなど、情報集約の悩みは各県共通であることもわかりました。
県立図書館は、県内の図書館などへの協力を日々の業務として行っています。直接的な市町村図書館の図書館運営の企画支援の他に、県内図書館を対象とした連絡会議や職員向け研修会などの事業も展開しました。東日本大震災以降、この「間接的な図書館の支援」のあり方の一端を示すことができ、県立図書館の機能や役割がよりはっきりしたと感じています。
3つ目は、巡回相談と被災図書館への支援です。2011年4月下旬から、県内各図書館へ職員による直接訪問を始め、被害把握と課題の洗い出しを行いました。
4つ目は、支援者と受援者との間を調整する中間組織としての支援です。宮城県図書館が直接的に図書館活動を行うのではなく、図書館や図書館活動をしている個人・団体と協力し支援することに重点を置きました。
まず名取市図書館では、「どんぐり子ども図書室」(注2)の建設にあたり、資金拠出団体の仲介と交渉を行い、建設費用を支援してもらう道筋をつくりました。その後の什器の調達などは『saveMLAK』にも応援をいただき、募金活動や広報まで広く調整してもらいました。
涌谷町涌谷公民館は、町内の公共施設へ移転するための調査や支援団体との仲介などを実施。さらに、女川町公民館図書室では、各支援団体の受援の仲介と移転への助言を実施。山元町では、被災した公民館図書館に代わって町立小学校への直接貸出を実施しました。
図書館が、建物ごとなくなってしまった南三陸町図書館の再建です。南三陸町に対し図書館再開のための支援体制を整備し、企画運営の相談や各種支援団体との連絡調整を行いました。
2011年5月から町内の小学校で授業が始まりましたが、調べものなどで図書館が利用できず、授業にも支障をきたしていたことから、代わって宮城県図書館から学校へ資料の提供を行いました。
ほぼ時期を同じくして図書館の再建にも動き、さまざまな団体などから支援を得て、夏までにはプレハブやトレーラーハウスなどが寄贈され、仮の建屋や作業場所が確保されました。
書架やカウンター、文具類についても多くの支援を得ました。同年の10月にプレハブの仮設図書館として再開できましたが、図書の整理だけでなく、総合的な視点からの環境整備が再建にはとても重要なことであると感じました。
町外の仮設住宅に住む人は図書館まで来られない人も多くいました。そこで移動図書館を考え、図書館振興財団からの貸与や角田市からの譲渡によって11月から移動図書館車の運行が実現しました。ちなみに南三陸町図書館は、2019年4月に新館オープンしています。
各種支援団体との連携です。なかでも『saveMLAK』との連携では、多くの案件を共同で進めることができました。また、図書館関係団体以外との調整も必要で、名取市図書館の「どんぐり子ども図書室」建設は、中間組織としてうまく機能した例といえます。
さらに、震災直後から寄贈図書が多く寄せられました。リストがきちんと整備され、事前に相談があったものについてはその本を送り、各図書館で扱いに困った寄贈図書は、別の図書館を紹介するといった調整も行いました。
まず1つは、図書館としての防災計画(災害への対処)を策定することです。防災訓練をきちんと行うのはもちろん、交代勤務などで職員が最小人員のときに被災することも想定した計画と訓練も必要です。
また、図書館のBCP(事業継続計画)も必要です。BCPは、緊急事態の際に、損害を最小限にしながら、事業の継続と早期復旧を図るために、あらかじめ平常時に行うべき活動などを決めておく計画のことです。
図書館でBCPを有効に機能させるためには、単に「開館する・閉館する」だけではなく、開館しながらフルサービスをするか、しない場合はどのサービスを提供するのか、閉館する場合は、閉館しながらできるサービスはないのかなど、被災の度合いを想定して優先業務を設定すべきだと思います。
今回の経験で、復興に向けた初動体制づくりが重要であることがわかりました。その実現のためには、常日頃から関係者同士がお互いに情報を共有し、ある程度の役割を決めておくべきだと思います。特に「災害に備えてお互いに顔の見える関係をつくっておく」意識はとても重要で、そのネットワークが災害時に活きてきます。
また、効果的な支援には、適切なマッチングが必要です。例えば、必要な物品を募ったうえで提供するという支援事業は、ニーズにマッチしたものを提供することができます。一方で被災度が重く必要な物品の提示すら困難で、支援が適切に届かない可能性にも配慮すべきです。
さらに、支援者からの申し出の対応に多くの時間を割かれて、本来行うべき復旧・復興の妨げとなることもあります。県立図書館のような中間組織がコーディネートを行って受援者の負担軽減を図ることも必要です。
そして、ビジョンやミッションの共有も欠かせません。図書館、それを支援する団体も、中期計画や行動計画などでビジョンやミッションを意識し、自治体の復興過程のなかでどう図書館を位置づけるかが重要になるでしょう。
今回の震災において図書館は被災地で「コミュニティの中核」として、人々が集う場をつくってきました。また、避難所や集会所では、「読書による癒やし」も提供してきました。そうしたことから、図書館はその地域の「情報の拠点」となるべきだと考えます。図書館の情報提供によって、地域の課題解決に挑んでいる住民をサポートすること、それが図書館の役割だと考えます。加えて言うなら、図書館は人々が集い経験を共有する場として、そして記録された資料が地域に根ざして保存される記憶装置として「アーカイブ」機能を持ち合わせているといえます。
こうした図書館ならではの役割を積極的に訴えて、自治体のなかできちんと位置づけられて、存在感を発揮する必要があると考えています。