ちょっとひといき テクノロジー探訪

テクノロジー探訪

プロジェクションマッピング
―古典的技術から生まれた最新メディア

Projection Mapping
立体物をスクリーンとして使用し、プロジェクターでビデオを投影する技術を「プロジェクションマッピング」と呼ぶ。
技術革新とともに、単なるビデオ上映ではなく、音楽や空間演出を加えた一つのアートとして進化を遂げてきた。

プロジェクションマッピング

(C)東京ミチテラス2012

映像を3Dに投影するショー

プロジェクションマッピング

日本国内で‘プロジェクションマッピング’という単語が一般的に知られるきっかけとなったのは、2012年の東京駅丸の内駅舎保存・復原完成後に行なわれた光のショー「TOKYOHIKARI VISION」だろう。東京駅丸の内駅舎という複雑な凹凸のある建物をスクリーンとして使い、高精細フルCGによる美しい光を映し出したものだ。この光のショーと新駅舎を一目見ようと押しかけた来場者数は予想を大きく上回ったため、安全を配慮してイベントを中止せざるを得なくなったというのも記憶に新しい。

それから4年。各地の建造物でプロジェクションマッピングがいくつも行われたばかりか、その進化は著しい。小さなもの、例えば人の顔や靴などをマッピング対象物にしたり、小さなイベントや個人の結婚式などでも気軽に行われるようになるなど、プロジェクションマッピングは高度で身近なものへと変貌してきている。

その手法は1970年代から

‘最新技術’のように思われがちなプロジェクションマッピングだが、その手法やベースとなる考え方は、実はいわゆる‘プロジェクター’が出回り始めた頃から変わっていない。プロジェクターが投影する映像が、きちんとスクリーンに映るように位置や角度を調整する、というような行為自体がプロジェクションマッピングに通じるものがあったのだ。

海外に目を向けると、1970年頃からアメリカのディズニーランドにあるアトラクション「ホーンテッド・マンション」では、「トーキングヘッド」と呼ばれる胸像が登場するが、真っ白い顔に、表情のある顔の映像を投影するもので、胸像がまるで生きて話しているかのように見えた。同様のものが東京ディズニーランドでも1983年に登場し、それが国内のプロジェクションマッピングの元祖だと言われる。

その他にも欧米では、ビデオアートや舞台、インスタレーション※の一部として同様のものがいくつも試みられた。当時‘プロジェクションマッピング’というワードは出ていなかったものの、手法や理論は同じようなことが行われていたのだ。

技術進化が表現の幅を広げた

プロジェクションマッピングが今のように話題に上るようになったのには、機材の性能が上がったことが大きく起因している。屋外でも鮮明に映し出すことができる高輝度のプロジェクターが登場し、それがクリエイターたちにも手の届く物となったことで、スケールの大きい作品が次々と生まれた。海外、特にEUで様々なクリエイターが試行錯誤し、ネット配信動画で話題になると、それが刺激となって新たなアイデアへつながる―――といった具合だ。

それから、マッピング技術も発達した。ひと昔前は、ホテル、教会、学校といったシンプルな建造物の壁面を使っていたのが、複雑な凹凸や小さな立体物でも見事に映像と一体化させられるようになった。作品のクオリティーを上げる大事な要素である。

また、映像技術も進化した。CGで描き出す2Dや3Dのバーチャル世界は高精度になり、表現の幅も格段に上がった。それに音楽の演出も加わり、瞬時に観客の心をつかむエンタテインメントとなったのだ。

可能性は無限大

プロジェクションマッピング
(C)東京ミチテラス2012

映像をスクリーンに映す、という古典的技術は、こうした最新技術とともに、新たな表現メディアへと進化してきた。リアルな物体にバーチャルな映像を投影し、独自の世界を創り出すプロジェクションマッピングは、今後もクリエイターの創作意欲を掻き立て、また次の進化を遂げていくだろう。どんな形の、どんな驚きを私たちに見せてくれるのか、楽しみである。

※単体の作品ではなく、複数の作品を組み合わせるなどした、メッセージ性を帯びた屋内・屋外の空間芸術。