ちょっとひといき テクノロジー探訪

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ロボット掃除機「ルンバ」に見る、ロボットの未来

米国iRobot社が2002年に発売した家庭用ロボット掃除機の名称。円盤の形をしており、ゆっくりと部屋の床面を動きながらゴミを集めてくれる。
日本国内でも人気となり、ロボット掃除機の代名詞ともなっている。

円盤状のロボット「ルンバ」

円盤状のロボット「ルンバ」

アニメや映画に登場する夢のロボットを思い浮かべてみてほしい。ヒトや動物の形をして、言葉を話し、人間にはないパワーを備えた仲間のようなもの――しかし今のところ、そういった姿ではないたくさんのロボットたちが、私たちの身の回りで活躍している。米iRobot社のロボット掃除機「ルンバ」もその一つである。直径約35㎝、厚み約10㎝の円盤状で、室内の段差や障害物を検知しながら床を掃除するルンバは、その便利さのみならず愛らしい動きからも人気となり、今やロボット掃除機の代名詞ともいえる存在である。

ルンバには、段差や障害物を避け、しかもゴミを見落とさないための人工知能が備わっている。実はこの技術は、軍用ロボット開発から生まれたものなのだ。

人間の代わりに危険地帯へ

1990年に設立された同社が当初から手掛けていたのは、政府や公的機関からの委託研究が中心だった。1996年には磯の中にある金属をセンサーで探し出し、それが地雷であれば地中に埋め込んで爆発させるという水陸両用地雷探査・除去ロボット「Arie(アリエル)」が開発された。二足歩行ができるロボットとは全く違うが、人間にはできない仕事をこなす優秀なロボットだった。

さらに2000年には階段を昇降できる多目的作業ロボット「PackBo(パックボット)」などが開発された。このPackBotは2001年の米同時多発テロで崩壊した世界貿易センタービルの瓦礫の中での活動や、2011年東日本大震災直後の福島第一原発事故において、原子炉建屋内の映像を提供してくれたほか、温度・湿度・酸素濃度を測定するという仕事をやってのけた。ニュースなどでその様子を記憶している人も多いだろう。

ロボットが必要とされる場所は、「Dull,Dirty,Dangerous(退屈、不衛生、危険)」の頭文字をとった「3D」と呼ばれる。紛争地域はその最たるもので、人間には到底できない危険な作業を請け負ってくれている。

1997年に開発された陸地の地雷探査・除去ロボット「Fetch(フェッチ)」には、紛争地域の同じ場所を何度も行き来して地雷の見落としを防ぐ人工知能を搭載。これがルンバの人工知能のプロトタイプとなったのだ。

市販ロボットへの転換

さらにこの頃、同社は別のプロジェクトで業務用清掃ロボットを手掛けたことがきっかけとなり、掃除に適したブラシの構造や集塵、吸引の技術を得た。これが市販の「家庭用ロボット掃除機」というビジョンへつながる。

その後2002年に米国内で「ルンバ」が発売された。段差や障害物を避け、カーペットや床の汚い部分を通り過ぎると、振動検地センサーによりゴミの在処を探し始める。何度も旋回をして振動異常のある箇所を全てキレイにして“ゴミの取り残し”を防ぐルンバの動きには、これまで「3D」の地域で活躍してきた先輩ロボットたちのノウハウが詰め込まれているのだ。

その後2009年にルンバは日本仕様の製品が発売されるなどさらに進化を続け、今では50カ国以上で利用されるロボットとなった。

ロボットはさらに身近な存在に

紛争地域や原発で活躍してきたロボットは、活躍する幅を着実に広げ、今や世界中の家庭で新たな居場所を獲得するに至った。ここ30年ほどで、ロボット工学は大きな進歩を遂げてきており、気づけば人の暮らしにロボットは不可欠なものとなっている。一昔前に思い描いた夢のロボットとは全く違う形で、私たちの日常に変化をもたらしてくれる存在になっていくに違いない。

円盤状のロボット「ルンバ」