自宅にいながらのスポーツ観戦は、テレビが普及し始めたころから人々の娯楽として親しまれている。 中継技術・放送技術の発達により、時代とともにスポーツ観戦のスタイルは変化し、新たな楽しみや可能性をもたらしている。
スポーツをテレビ観戦できるようになったのは、さかのぼること今から約80年。当然ながら当時はモノクロであった。
1960年代、高度経済成長とともにテレビの普及率は伸び、一般家庭はまだモノクロテレビが主流だったものの、特に‘東洋の魔女’といわれたバレーボール日本チームとソ連チームの試合は、日本国内の最高視聴率が85%に達し、メディア史に記録を残すほどの熱狂ぶりであった。お茶の間にいながら、体格の違う異国の選手を相手に戦う日本人の姿に、日本国民は新しい時代の到来を感じていたに違いない。
以降、スポーツ中継は格段に進化してきた。1980年代はハイビジョン放送などにより高画質な映像をより早く配信することが追求されていたが、さらなる高度な技術により、今では別次元の映像を楽しむことができる。
日本で行われた、2001年の「世界水泳」の中継も話題となった。レース終盤になると世界記録のラップタイムに合わせたラインがプール水面上に現れたり、泳いでいる選手の帰属国の国旗が合成されたりと、お茶の間の観衆たちにとってわかりやすく、レースに入り込みやすい演出が行われた。
この技術が初めて実用化されたのは1998年、アメリカNFLの中継だったといわれているが、当初はまだラインの位置がずれているなど未熟な部分があった。今ではこの技術はかなり一般的となり、ゴルフでは芝の向きが矢印で出たり、走り幅跳びでは飛距離がスケールで示されるなど、様々な競技で使われるようになった。映像に後から矢印等を合成するのではなく、ライブ中継で瞬時にCG加工された映像を目にすることができ、スポーツ中継の面白さをより引き立たせる効果がある。
一瞬の選手の動きを止めて、別の角度からの立体的なリプレイ映像が見られる技術も登場した。ランナーがハードルを飛び超える瞬間やバスケットボールのダンクシュートなど、素早い動きを細部まで見るのが困難なシーンで、その場面を立体的にぐるりと自由に回転させて、別の角度でリプレイすることができるのだ。
体操の跳馬や床などでは、選手の実際のライブ映像の直後に立体的なリプレイ映像が放送されるようになった。様々なアングルから撮影された映像を瞬時に加工することで、選手の回転の軸、跳躍の高さやひねりの美しさがリプレイされたのだ。まるで一瞬、映画にでも紛れ込んだかのような臨場感と迫力のある映像となった。競技のルールに詳しくない人でもゆっくりと細部を見ることができ、スポーツを会場で観戦するのとはまた違う楽しみを味わうことができる。
さらに、この技術はFreeDという技術によってさらに革新的に進歩した。物理的なカメラの位置にとらわれず、高機能のエリア・スキャン・カメラによって立体的なデータを抽出し加工することで、実際撮影されたアングル以外の映像を見ることができるようになった。
ここ最近のスポーツの世界大会では、さらに進化したリプレイ映像が配信され始めている。VR(バーチャルリアリティ)映像である。これは、専用のゴーグル型の装置を使い、専用のアプリケーションを通して視聴するものだ。まだほとんど有料配信しかなく、日本国内ではあまり事例もないため見ることが困難だが、アメリカNFL等では徐々に普及し始めている技術だ。
ゴーグル型の装置を通して見るVR映像では、まるで自分がフットボールやバレーボールコートにいて、選手と同じ目線で見ているかのような臨場感で観戦できる。360°ぐるりと見渡せる仮想現実の世界が広がり、カメラで撮影された映像とは違う視点で試合を観戦できるというわけだ。まだVR映像は一般的ではないものの、技術的には進化し拡大していくだろう。
スポーツ中継観戦を一つの契機として、中継技術、映像技術は発展を続けてきた。リビングにいながらVR映像でスポーツ観戦をし、スマートフォンで世界の観衆とやりとりをする…そんな観戦スタイルはもうすぐそこまできている。まったく別の新しい技術も生まれるかもしれない。スポーツの祭典では、映像技術の進化という側面も楽しみにしたいものである。