ちょっとひといき テクノロジー探訪

テクノロジー探訪

熊本城再建へ――文化財を守る技の結集

2016年4月の熊本地震によって、熊本城は石垣の30%近くが崩落。重要文化財とされている建物も5棟の全部または一部が倒壊するなど、大きな被害を受けた。
修復の完了まで概算で20年、費用600億円を超える大修復事業は、まだスタートしたばかりである。

熊本復興のシンボル

“築城の名手”といわれた加藤清正が1607年ごろ築城した熊本城は、日本三大名城の一つである。絢爛豪華な本丸御殿の「昭君之間」や、築城以来現存している「宇土櫓」、圧巻の石垣群など、見所が多く歴史的価値も高い。

難攻不落といわれた熊本城だが、2016年4月の熊本地震で受けた被害は大きかった。中でも、石垣の崩落は全体の30%近くにも及び、「北十八間櫓」と「東十八間櫓」が倒壊。天守閣も瓦が崩れ、無残な姿となった。

熊本地震の被災者にとって復興のシンボルである熊本城は、再生の道のりを踏み出したばかりである。

新旧の技の競演‘奇跡の一本石垣’

大きく傾きながらも、倒壊を免れた櫓もあった。2005年に復元された「飯田丸五階櫓」である。櫓の下部にある石垣は大きく崩れ、角をなした石垣の一部を除いて、土台を失う形となった。石垣が一本足で櫓を支えるその姿は、石垣建築当時の技術がいかに素晴らしいものであったかの証明になると同時に、“奇跡の一本石垣”として被災者の心に感動を呼んだ。

だが、大地震の後の余震や風雨で、一本石垣さえも崩落し、櫓倒壊の恐れもあった。そこで、倒壊を防止する緊急工事が行われることとなった。

熊本市が算出した一本石垣にかかる櫓の重量は、約17~18t。まずこの重量を支える手段が検討された。通常であれば石垣の下から仮設構台を設置するが、石垣の二次倒壊の恐れもあるので、この手法は採れない。そこで、櫓の周りを取り囲むような鉄製アームを取り付ける手法を採用した。

アーム自体の重量に耐えられるよう、本丸側には必要な重りを架台に設置した後、地面に敷いたレールを使って少しずつスライドさせ、櫓の下にアームを入れ込むことにした。櫓の倒壊、一本石垣の崩落、地盤への損傷などを回避しながらの作業に、現場は張りつめていた。

櫓の下部の状況をつぶさに観察することも、寸法を採ることも叶わない状況下、ミリ単位の綿密さが求められた。何度も試験スライドを重ね、スムーズに動かない箇所は可能な限り是正。このリハーサルは深夜にまで及んだという。

スライド本番では、残り20mというところで地盤が圧密沈下によって傾き、肝を冷やす場面もあった。地盤調査の結果を見ながらジャッキアップすることで水平を保ち、なんとかこの難作業を乗り越えた。

このような高度な作業の裏にあるもの、それは土木技術の高さに他ならない。文化財の修復という失敗の許されない作業には、技術と知恵が結集されているのだ。

石垣復旧には最新ITを駆使

熊本城を取り囲む石垣は、表面積7万9000平方メートルのうち、53カ所で崩落が起き、全体の30%にあたる2万3600平方メートルで石の積み直しが必要となった。城内にはおびただしい数の石が行き場を失って転がっている状態となったが、文化財である石垣修復で求められるのは「元の形に復元すること」。できる限り元の場所に元の石を配置するという、途方もないパズルを解いていくような作業となる。

当初は、崩落前の写真と照らし合わせながら、石の元の位置を探す手段が検討されたが、写真では一つひとつの石の輪郭が判別しづらく、撮影状況によって色味の違いや画像の歪みもあり、断念。

そこで、熊本大学の「文化財復旧チーム」により、ITを活用するプログラムが開発された。まず以前に石垣が修復された時の石垣の図面を利用し、すべての石の輪郭を読み込んで、データベースとした。次に、崩落した石を写真で撮影し、形状をデータ化。データベースと崩落後の石のデータをプログラム上でマッチングするのだ。

1つの石のデータにつき、プログラムは第5候補までの似た形状の石をピックアップする。実験では、6個の石のうち5個は正しく候補が挙げられた。これを現場でも活用すれば、人の目で照合していくよりも格段にスムーズな作業が可能になると期待されている。

ただ、石を実際に積み上げるには匠の技術が必要である。貴重な文化財となれば尚更繊細な作業が求められる。もし石が崩落によって破損していれば、石の産地へ出向いて同じような石を調達しなければならないため、大変な作業になることに違いはない。

熊本城再建へ――文化財を守る技の結集

工事完了後の熊本城を夢見て

20年を要するといわれる熊本城の大修復事業は、日本の伝統技術と最新技術を結集しながら進められていく。そして“復興のシンボル”熊本城が修復されるのとともに、また被災地も元気を取り戻していく。20年後、壮大さを取り戻した熊本城が見られる日を楽しみにしていたい。

熊本城再建へ――文化財を守る技の結集