ちょっとひといき テクノロジー探訪

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滅びゆくサンゴを救え――サンゴ保全活動

“海のゆりかご”といわれるサンゴは、多くの小さな海中生物を育んでいるが、近年の地球温暖化等によりストレスを受け、絶滅の危機に瀕している。
大規模な白化現象が確認された昨今、サンゴを救い、サンゴを増やす方法や技術が模索されている。

90%のサンゴが白化という衝撃

2017年4月、環境省はある緊急宣言を発表した。サンゴの大規模な白化現象が確認されたというのだ。白化現象とは、地球温暖化による高水温の他、環境汚染や水質の変化などでストレスを受けた状態。2016年の調査では、日本最大のサンゴ礁海域である石西礁湖において90%以上のサンゴの白化が確認され、その多くが死亡していたという。

海中の生物多様性の観点からみると、サンゴは極めて重要な生物である。サンゴは藻など小さな生物の隠れ場所やすみかを提供し、逆に養分を受けながら共生している。サンゴを中心とした生物たちが長年かけて作り出した地形であるサンゴ礁には小さな生物を食べるためエビや魚なども集まる。さらにその周辺では人間が漁業を営む。サンゴの減少は生態系のバランスを崩すことに直結してしまうのだ。

もちろん、サンゴの養殖など、サンゴを守る活動は行われている。しかし、サンゴは世界中のあらゆる生物の中で最も速く絶滅に向かっているとも言われており、画期的な保護策が急務となっている。

白化を食い止める物質を発見

白化現象のメカニズムはこうだ。健康なサンゴは「褐虫藻」という藻と共生関係にあるが、サンゴ生育環境の水温が30度以上になる等ストレスを受けると褐虫藻は生存できなくなる。褐虫藻を失ったサンゴは骨格だけになり、白くなってしまう。褐虫藻が光合成で得た養分で生きているサンゴは、白化状態が長期間続くとサンゴはもろく崩れ、死に至ってしまう。

高水温の環境下でも死滅や白化を食い止めるため、京都大学ではサンゴの生存率を上げる研究が行われている。サンゴの白化は活性酸素種に起因していると仮定し、活性酸素種を消去する物質レドックスナノ粒子(Redox-nanoparticle:RNP)を投与したという。活性酸素種とは、生物の体内で老化や生活習慣病を引き起こすといわれているものだ。 RNPには抗活性酸素剤であるニトロキシドラジカルが配合されていた。その結果、33度という高水温の条件下でサンゴの生存率が上昇していることを確認。正常細胞に障害を与えず活性酸素種のみを選択的に消去することができ、サンゴの白化を食い止める効果があることが認められたこととなった。今後は、他の生態系に悪影響を与えないよう実地実験を進めた上で、海洋散布できるよう研究を進めるという。白化現象そのものを食い止められるかもしれないという点で、注目の技術である。

光の制御で「人工産卵」に成功

一方、別のアプローチでサンゴを増やす試みも行われている。

カリフォルニア科学アカデミーでは、人工的な光を制御することによって、サンゴに人工産卵をさせることに成功した。サンゴの産卵は自然下でもとても繊細なもので、さらに月の満ち欠けのタイミングとも一致しており、年に1度しか起きないものである。

アカデミーでは暗室にサンゴの水槽を起き、サンゴを採取したパラオの環境を再現するようLEDの照明を設置。LEDはコンピュータで制御されており、一日を通して太陽と月が作り出す光の強弱をはじめ、温度や日の出・日の入りのタイミングまで綿密にコントロールしている。綿密な環境管理があってこその人工産卵であった。

飛行機で運ばれてきたにも関わらず、人工の環境で無事産卵したというこの試みは、ストレスに弱いサンゴにとってもこの環境は悪くないということになる。今のところは、こうした研究を経ても産卵は年に1回きりとしかわかっていないが、これが数カ月に1回できるようになれば、サンゴ保全の一歩となると期待されている。

滅びゆくサンゴを救え――サンゴ保全活動

サンゴ保全のためにあらゆることを

沖縄では、サンゴを人の手で養殖する中で、白化しないサンゴも育っているという。サンゴ自体も、共生している藻も通常と変わりないが、サンゴ体内にあるバクテリアが多い点だけに違いがあり、高水温になっても白化していないことから、専門家も注目している。このように様々な観点から、様々な技術で、地球規模でサンゴの保全活動は進められている。

サンゴ礁の面積は地球表面の約0.1%にすぎないが、そこに9万種もの生物がいるとされる。海が恵み豊かであり続けるためにも、人間の知恵と技術を結集し、サンゴの死滅を食い止めたい。

滅びゆくサンゴを救え――サンゴ保全活動