あらゆるメディアでスポーツ観戦が可能になった昨今、誰にでもわかりやすく正確な試合進行が要求されている。
AI採点、ビデオ判定などの最新技術や大型LEDを使った演出が大いに役立ち、観戦スタイルは大きく変化を遂げている。
2020年が幕を開けた。日本国内ではスポーツ熱が高まっており、スポーツ通はもちろん、ルールに詳しくない人までもがあらゆるメディアを通じて観戦し、選手たちの熱いドラマに心を躍らせている。
スポーツ観戦人口が増加するなか、スポーツ観戦の楽しみ方にも変化が起こっている。ルールを知らなければ他人事も同然、観戦しても楽しめない、というのは昔話だ。ルールを知らずに観戦する人にも理解しやすい演出があれば、その競技は大きなムーブメントとなる。劇的な勝利や、選手たちの魅力、一流の技術や努力を目撃することで、観客がまるで“自分事”のようにスポーツに熱中し、感動する。
そして、多くの人がスポーツに熱中する舞台裏に、最新技術が用いられている点に注目したい。
著しい変革が注目されている競技の1つがフェンシングだ。それを可能にしたのは、最新のデジタル映像技術である。
細く長い剣で巧みに相手を突くフェンシングは、マイナーなスポーツとしてとらえられてきた。ルールがわかりにくく、剣の動きが速すぎて観客には見えにくいため、観戦しても試合の流れを理解しにくいものだった。
近年の国際大会ではその様相は変貌している。照明を落とした中、色鮮やかなLEDでライトアップされた会場はさながら格闘技イベントのよう。試合前にエキストラによるフェンシングのショーが行われるなど、観客が熱中できる様々な演出があった。
目玉は選手の剣先は軌跡が光る「フェンシング・ビジュアライズド」。繊細で素早い剣先の動きを可視化するだけでなく、映画「スター・ウォーズ」の武器「ライトセーバー」のような演出は斬新で、観客がフェンシングの奥深さに触れられる絶好の機会となった。
体操など審判が芸術性を評価する競技については、採点方法が課題となってきた。動きが速く判断も複雑で、正確かつ公平に、スムーズに採点することが困難であった。その救世主となるのがAI採点であるという。
AI採点において技術面でのポイントは2つ。1つは、AIが選手の体を認識するためのセンサー技術だ。選手の体にセンサーを取り付けるわけにもいかず、赤外線カメラで選手の体の動きを感知する。が、吊り輪やあん馬といった器具や、選手たちが滑り止めとして使う白い粉までもが感知され、誤作動につながったこともあった。そのため、AIが選手の体の動きだけを測定するようになるまで、徹底的に学習させていく作業を行った。
さらにもう1つポイントとなったのが、どの動きがどの技に該当するのかという判断基準だ。体操の採点規則にある技は男子が約800、女子が550と多く複雑である。さらに実際は技と技は切れ目がなく行われるうえ、新技にも対応する必要がある。「腕の角度が低い場合は減点」といった曖昧な基準も、低いとは何度未満であるかを明確に定義し、数値化した。気の遠くなるような作業だが、すべてを“技の辞書”とよばれるビッグデータとしてAIに習得させたという。
今のところ、AI採点はあくまで人が審判をするうえでの補助的な役割を担う。ただ、AIという「機械の目」を導入することで採点基準が明確になるため、選手にとっては効率的な練習が可能になり、観客にとっては採点基準がわかりやすくなる。AI採点はこうした相乗効果ももたらす。
サッカーの「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」やラグビーの「TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)」などのビデオ判定も「機械の目」の例だ。競技技術が高度化したことで目視での判断が困難になっていることに加え、技術的にもビデオ映像の処理スピードが速くなったため可能となった。試合はあらゆる角度から常に撮影されており、確認すべきプレイが起こった場合、即座に映像で確認することができる。
ビデオ判定は審判の補助的役割であって、基本的には審判が判断することに変わりはない。が、実際に審判の判断がビデオ判定後に覆った事例も少なくない。ビデオ判定による“正しい判断”がなされるようになった一方で、「機械の目」に判断が左右されるという事態も招いており、運用についてはこれからも議論が必要だ。
昨今のスポーツはビジネス化や勝利至上主義化という側面も否定できない。1つの勝利、1つの得点、1つの判断が選手の人生を左右することになりかねないという現実もある。
最新技術でスポーツの見えなかった部分までが見えるようになったが、スポーツ観戦がもたらす感動は今も昔も変わらない。選手たちの努力の証を一瞬も見逃さず、見守りたいものだ。