道路や橋梁、トンネルといった老朽化したインフラで突然起きる事故は、時に甚大な被害をもたらすことがある。
インフラの劣化をモニタリングし迅速に対応することが重要視されており、そのための技術が発達しつつある。
1955年~1973年、高度経済成長期を迎えた日本では、各地で道路、橋梁、トンネル、上下水道といったインフラが整備された。現代の生活をささえる大規模な基幹産業も興り暮らしは豊かになる一方で、インフラの多くは老朽化が見られ、維持や更新が喫緊の課題となっている。
日本より先行してインフラが整備されたアメリカでは、1980年代から同様の課題に面している。2007年にはミネアポリス橋梁の崩壊事故が起こり、多数の死傷者を出す大事故となった。国内においても2012年の笹子トンネルの天井板落下事故、2016年新名神橋桁落下事故などは記憶に新しい。
国交省によれば、2023年には実に道路橋は約39%、トンネルも約27%が建設後50年を超えるばかりか、建設年が不明のものも多数あるという。財政上、全てを更新することは困難だが、傷んでいるものを優先して対策を講じることが、大事故を未然に防ぐことにつながる。ここで必要となるのが、インフラモニタリング技術だ。
モニタリングといっても、従来は人の目視と打音に頼るしかなかった。人の勘に頼る方法では安全性を担保できず、限られた人員で多くのインフラを常時モニタリングしていくことは、非現実的でもある。
そこで橋梁内部の損傷を「見える化」するセンシング技術の研究が進んでいる。コンクリート内部の損傷からは微弱な波動「弾性波」が発生するため、これを橋梁床に設置したセンサーで感知するのだ。センサーは片手サイズの小さなもので、橋梁床に一定の間隔に並べて設置しておく。橋梁の上を車が通れば、どこから弾性波が生じているかがわかるという仕組みだ。複数のセンサーが感知した弾性波の周波数や到達時間により、対象となるインフラの劣化度合いを数値化することができる。
センサーは小型ながら自立発電と無線伝送の機能を装備しており、インフラの劣化状況を遠隔地で監視することができる。これならば長期間にわたるモニタリングも可能であり、橋梁維持管理の効率化が実現できる。実用化・事業化に向けたさらなる開発が進められており、また橋梁だけでなく高速道路やビルなど幅広いインフラに活用される見込みだ。
一方、トンネルの打音点検も大きく進化している。従来は大掛かりな足場を組み、人がハンマーでコンクリート表面を打ち、音を聞いて診断していた。が、その「打つ」と「聞く」の両方をレーザーで行う方法が開発されている。
レーザー打音装置とレーザー計測装置を配備し、まずレーザー打音装置がコンクリート表面を打ち付ける。コンクリート表面まで10mほどの遠隔からでも作業が可能であるため、わざわざ足場を組む必要はない。次に、コンクリート表面の振動の様子を、計測装置がレーザーの反射具合で精密に計測する。その数値によって、表面からは見られないコンクリートの浮きや剥離を検知することができるというわけだ。2つのレーザー技術を連結して駆使する点が特長となっている。
レーザー打音は1秒間に最大50回。これは人の打音作業の約20倍のスピードにあたる。またレーザーなら一定の強度で連続して打ち続けることが可能だ。従来の人が行う打音点検に比べ、効率的かつ安全に保守点検ができるということになる。今後、トンネルのモニタリングにはこの方法が主流になりそうだ。
インフラの老朽化が課題となっている今、国の方針としては、新規インフラの建設よりインフラの長寿命化に重点を置いている。将来的には、不具合が生じてから行う「事後保全」より、不具合が生じる前に損傷が軽微な段階で対策を行う「予防保全」への切り替えが期待されている。予防保全の方が費用や人的負担を軽減することができ、今あるインフラを大事に使い続けることができるからだ。
予防保全を実現するには、脆弱だと思われるインフラをくまなくモニタリングすることが重要であり、効率性や正確性がより一層求められる。国や地方、民間企業の技術者たちが知識や技術を出し合い、サステナブルなインフラの実現のため、研究に取り組んでいる。
また、暮らしに当然のように存在しているインフラは、こうした技術者たちの取り組みによって維持されているということも、心の隅においておきたいものである。