ちょっとひといき テクノロジー探訪

テクノロジー探訪

“厄介者”台風との付き合い方
――台風制御と台風発電

台風メカニズム研究や予測精度が向上したことで、台風の物理的な制御や活用方法などを模索する研究が行われている。
自然の猛威・台風との付き合い方は、今後変化していくのだろうか。

台風被害をなくす、は夢物語か

地球温暖化が進めば、台風は強大化する――国立海洋研究機構によるこんな予測が発表されたのは、2017年のことだ。温暖化によって海水温が上昇すれば、台風やハリケーンの発生個数は減少傾向となるものの、強風域は広くなり、低速化するという予測だ。こういった台風の規模シミュレーションにはまだ不確実性はあるものの、2019年の房総半島台風(台風15号)によりもたらされた甚大な被害は記憶に新しく、台風への危機感を一層強くした人は多いのではないだろうか。気象災害を少しでも軽減したいと願うのは当然の流れかもしれない。

台風制御実験はかなり昔から構想があり、1965年には成功事例も報告されている。アメリカ気象台が、ハリケーン「デビー」に対してヨウ化銀の入った散弾筒を投下し、ヨウ化銀の煙を散らすことで人工的に弱体化させる実験で、実際に最大風速が50m/秒から35m/秒まで30%も減少した。だが自然に勢力が衰えた可能性も否定できず、正確な効果測定が困難で、そもそも台風メカニズムの理解が不足しており、その後実験はほぼ行われてこなかった。

“厄介者”台風との付き合い方――台風制御と台風発電

メカニズム研究から生まれた台風制御

それからおよそ半世紀。台風のメカニズム研究や気象観測が高度に進化し、台風予測精度も格段に上がった。スーパーコンピュータによる効果判定も可能になり、今まさに台風制御を取り巻く環境は整いつつある。そこで産学合同チームで始動したのが「タイフーンショット計画」だ。

台風が発達するエネルギー源となるのが水蒸気だ。台風に強風が吹き込むと水蒸気が台風の内側に運び込まれ、上昇するとともに凝結して雲になるが、この時に熱を放出する。この熱によって台風の中心は暖気核と呼ばれる温かい領域となる。海水温が高いと多くの水蒸気が取り込まれて暖気核が発達し、それに伴って吹き込む風はさらに強くなる。これらの相乗効果で台風はエネルギーを蓄えていく。

現在検討されているのは、発達中の台風の上空へ航空機で近づき、水やドライアイスを暖気核へ散布することで暖気核を冷やし、台風へのエネルギー補給を断つという手法だ。実際にあった台風を想定し、進路上で複数回散布を行った場合、風速が1~3m/秒弱まることがわかった。わずかな差に見えるが、これを建物被害に換算すると約40%の軽減効果があるとされている。環境や生態系破壊に繋がらない方法での台風制御は、今後も研究されていく。

台風のエネルギーを電力に

さらに台風の強大なエネルギーを電力に変える取り組みも行われている。もちろん仕組みとしては風力発電なのだが、通常のプロペラ型風力発電は風速20~25m/秒以上の強風になると過回転で発火したり、プロペラが折れたりする恐れがあり、運転を停止することになる。そこで台風の膨大なエネルギーに適した「垂直軸型マグナス式風力発電」の実験が進められているのだ。

垂直軸型マグナス式風力発電機にプロペラはなく、垂直に立てられた円筒が風を受けて回転することで発電する。マグナス力というのは物体を回転させると風向きに対して垂直方向に力が働く現象のことで、垂直に設置した円筒に対して横方向に発生するマグナス力によって回転する仕組みだ。理論上では風速40m/秒でも問題なく運転できる。

2020年8月の台風4号では沖縄県石垣島で実際に発電実験が行われた。石垣島では道路の冠水や停電など被害が発生する中、最大瞬間風速30.4m/秒でも安定的に発電を継続することができた。さらに、21年8月には日本よりも台風が多く通過するフィリピンの離島にて、初号機の稼働がスタートした。電力系統のインフラ整備が進んでいない地域の発展に役立っているという。

台風と人の関係はどう変化するのか

大型の台風1つのエネルギーは、日本の総発電量約50年分に相当するとも言われる(国土交通省中部地方整備局調べ)ほど大きいが、それほどのエネルギーを前に、長い間何も手を打つことはできなかった。人が自然の力を変えることは不可能だとしても、少しでも人的・経済的被害を減らすことに繋がれば、と願ってしまう。台風がただ通過するのを待つだけでなく、身を守りながらエネルギーを恵みに変換して過ごすような、新しい台風との付き合い方ができる日も、いつしかやってくるかもしれない。

“厄介者”台風との付き合い方――台風制御と台風発電