筆記用具と言えば鉛筆と消しゴム、と想像するのではないでしょうか。当然に日常的に使っている道具ですが、もともと古くから筆を使ってきた日本人には、鉛筆が取り入れられたのも割と遅く、意外と消しゴムの歴史が知られていません。
そもそも鉛筆が登場したのは、16世紀のイギリス。山に落ちていた黒い塊で紙に文字が書けることがわかり、黒い塊の正体である黒鉛が普及しました。当時、黒鉛を細く切って使うと手が真っ黒になるため、木で挟んだり紐で巻いたりと、工夫されたことが鉛筆の始まりです。それから、効率よく黒鉛を作る技術や現在のような鉛筆を作る技術が確立され、鉛筆は世界的に広がっていきます。
ところが、消しゴムの発明は鉛筆誕生の200年後。その間に活用されてきたのは、なんと「パン」なのです。硬くなったパンを丸めて鉛筆で書いたものを消していたといわれ、貧乏な画家たちはデッサンで使った黒いパンを思わず食べていた、という逸話もあるほどです。今でも木炭デッサンの時にパンで消すことがあるのは、このためです。
18世紀にイギリス人科学者のプリーストリーが、天然ゴムで鉛筆が消せることを発見。その2年後には角砂糖ほどの大きさの消しゴムが発売されました。当時天然ゴムは貴重な素材だったので、庶民に手が届くものではなかったものの、欧州で急速に広まったそうです。
日本では明治に入ってから鉛筆が使われるようになり、消しゴムも19世紀後半に国内で製造され始めました。が、あまりよく消えなかったために、海外からの輸入品にも多く頼っていたそうです。大正時代には日本にも消しゴムメーカーが続々と誕生し、ある研究者が試しに塩化ビニールの切れ端で文字を消したところとてもよく消えたことから、19世紀後半にプラスチック製の消しゴムが誕生。日本生まれの消しゴムはその後、従来の消しゴムをしのぐ勢いで普及して世界の主流となりました。
今では、プラスチック消しゴムの中にもカスが少ないもの、リサイクル素材を使ったもの、磁石が練り込んであるものなど、バリエーションも豊かで便利になりました。鉛筆と消しゴムの発達は、文明の発達や伝承には欠かせないもの。今では当然のようにある便利さですが、多くの人の試行錯誤で生まれたことを知ると、いつもより大切に使う気持ちになりますね。