自分の仕事は自らマネジメントする
-行動を起こすための思考4段階-

滞納整理責任者が語る「公務員としての仕事の進め方」 [第4回]
2015年7月

執筆者:東京都主税局特別滞納整理担当部長
藤井 朗(ふじい あきら)氏

概要

滞納整理を進める上での理念として、常に“誰のために、何のために”この滞納整理をやっているのか自分自身で意識づける必要がある。その上で組織の方向性(ベクトル)を確認し、全員が同じ方向へ向かって進むことが求められる。そのとき上司から命令・指示されたことだけを単に実行するのでは自らの能力開発という観点では十分でない。

むしろ滞納事案を主体的に取り組むことで、受命件数を効率的・効果的に処理し、成果を上げるように努力する。そのため徴税吏員一人ひとりが経営者としての感覚で取り組む姿勢が必要である。つまり自らの受命事案を自らでマネジメントする能力が求められる。

滞納整理の仕事は個人の実績がはっきり反映する職場

滞納整理の仕事ほど個人の能力差がはっきり実績として反映される職場は、公務員の世界では少ないのではないだろうか。過去の仕事を振り返っても、能力の高い職員はどんな事務所で仕事をしようが必ず高い実績を上げている。管理職が組織の目的を明確に提示することで、誰もが自分の仕事としてやるべきことをすれば、特に能力が高くなくとも一般の職員であれば平均以上の実績は残せる。

大切なことは職員一人ひとりが組織に対して何をしなければならないのか、何が求められているのかを自問することで、組織で仕事をするという自覚を持つことである。受命事案の取り組みは職員が個別に対応するとして、トラブルが発生したり、壁にぶつかったりして進展しなくなったときには係で、課でバックアップする姿勢を見せる必要がある。

組織目標に向けての指示と確認

組織目標に向けて、管理監督者・管理職が職員に対してどのような指示や確認が必要か考える。出納閉鎖直前の4・5月に職員が預金差押で1件5万円を毎日出かけて処理するということがあるとする。管理監督者として本当にその預金差押えを行うよりもこの時期に優先度の高いものがあれば、それを指示しなければならない。長年の経験から4・5月の取組みで一番効率の良い取組みは、前年度に発生した新規滞納者に接触することである。その理由は、滞納が発生してまだ日が浅いからである。

これまでの私の経験から言って、新規の滞納者には直接電話で交渉したり、自宅で話しを聞いたりすると相当数の滞納者が納付する。早い話が組織として、電話催告や臨戸を一定時期に徹底して行うことは実績を上げる近道である。組織の方針が打ち出されたら、職員はその方針に従って取り組む。

滞納整理を行う上で優先順位を決める

このようなとき、なにも方針を指示しなければ上記の例のように預金差押を行うことになるが、この1件の預金差押にどれほど時間がかかるのか理解してほしい。差押に半日、取立に半日、配当処理に半日といった具合に1件の処理に1日半も費やす。

仮に電話催告をやると決めれば、1日に通常40~50件の実績を挙げることができる。また、電話催告を計画したなら、毎日何件するのか自分で仕事量を確認することも重要なことである。組織方針が打ち出されたら組織人として何をすることが最も効果が高いのか考える。自ら確認することで、組織人としての自覚と責任を身に着けることができる。

職員一人ひとりが経営者という意識

私も徴税吏員を経験し、管理職として滞納整理事務に従事したことから述べると、職員一人ひとりが経営者としてのマネジメント感覚を持って取組むことが重要である。限られた時間内で効率的・効果的に処理をすることができるのかを考え、仕事をどのように組立てるかは、職員の事務処理能力に係っている。このとき、単に滞納整理の仕事を与えられていると考えるか、それとも自ら進んで滞納事案を処理すると考えるかにより、結果としては成果に大きな差が生じることになる。

ある大手運送会社の業務理念が、「社員一人ひとりが経営者」という方針を掲げているのを以前テレビで拝見したが、私達公務員も全く同じ気持ちで毎日仕事をしなければ、時代の流れに取り残され、住民から批判の謗りを受けることは間違いない。

頭をフル回転する訓練

漫然と仕事をするのではなく日々頭をフル回転するように訓練しなければならない。担当者一人当たりの滞納事案の受命件数は各地方自治体によって違うが、その受命している地方税の滞納金額がそれぞれの地方自治体の債権だと理解できる。その預かっている債権を自分が経営者として考えたならばどのように徴収するか真剣に取り組むことは当たり前のことである。そうでなければ、徴税吏員としての身分保証も必要なくなる。

いずれ民間委託も検討されることと思うが、徴税吏員でなければならないような仕事という意味で、業務を見直す時期に来ていると考えても不思議なことではない。

財源確保に寄与しているという使命感

受命件数が他の地方自治体より多いから仕事ができないと言うのは、最初からやる気のない言い訳にすぎない。これまで滞納整理事務は特殊な業務という認識が高かったが、決してそうではないと常々思っている。一般社会人としての常識で十分対応のとれるところが多々ある。何も特殊能力のいる仕事でもない。それゆえ一般行政職の範疇に入っているのである。

地方税を徴収することで、各地方自治体の財源に寄与しているという強い使命感を持ってほしい。税収という基礎的自治体の根幹をなす財源確保に携わっている誇りと自信を胸にしまい、日々業務に当たってもらいたい。全国のいずれの地方自治体も税収不足による財政が厳しい状況が続いている。今こそ、徴税吏員のあるべき姿を求めるべきである。

知識労働者は自らをマネジメントできるようにする

そのためにも受命している債権額を自らマネジメントする能力が求められる。上司から言われて滞納整理を行うのではなく、主体的に自ら経営するという感覚で業務運営を推進することが求められている。職員が財政の一端を担うためにも自らの能力を最大限発揮することが、当該自治体の財源確保に大きく貢献するものと確信している。マネジメント能力のある職員がいる組織が滞納整理の進行管理を行うことができる組織である。

20世紀の哲人であるピーター・F・ドラッカーの言ったことを書いた『ドラッカー・ディファレンス』という本があるが、この中でドラッカーはこんなことを言っている。知識労働者と言われる私たちに対し、「知識労働者たるものは、なによりも自らをマネジメントできるようにならなければならない。」と述べている。マネジメントするということは、管理監督者・管理職である係長や課長・部長だけの仕事ではない、まず職員自らがマネジメントできなければいけないと言っている。そういう面では、この滞納整理の職員は、課税の職員よりも自ら考えていかなければならない。課税の職員は定期課税や随時課税に向け、そのスケジュールに合わせれば進行管理になる。

行動を起こすための思考4段階

仕事は人に言われて行うようでは一人前とは言えない。自発的に取組むことでモチベーションが上がる。そこで『行動を起こすための思考4段階 (1)気づく(2)考える(3)行動する(4)振り返る』というフレームを策定した。

第1段階の「(1)気づく」というのは、人に命令・指示されて仕事をするよりも自発的に取組むことが生産性を高める。普段自分が行っていることと何か違うとか、おかしいといったことに気づくことが必要である。もっと言えばその人の感性が求められる。気づくことは考えるための原点である。第2段階の「(2)考える」は行動を起こすために十分熟考することが求められる。第3段階の「(3)行動する」は特に滞納整理の仕事に必要なことである。行動することで実績が伴ってくる。第4段階「(4)振り返る」は(1)~(3)まで考えて行動したことを常に振り返ることで、良かったこと、悪かったことをアウトプットする。

この「行動を起こすための思考4段階」を常に循環させることが、今後の公務員人生に大きく役立つと確信している。

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