「ICT×山間部の定住促進」を考える
~朝来市(兵庫県)を歩きながら~

「ぷらぷら☆旅をしながら情報化について考える」 ~ICT×国づくり×人づくり~ [第4回]
2015年1月

執筆者:NPO法人 HINT 理事長、ai株式会社 代表取締役
総務省地域情報化アドバイザー/総務省地域力創造アドバイザー
 井上 あい子(いのうえ あいこ)氏

朝来市が、山間部の定住促進の礎を築く

GoogleのCMでもおなじみの、竹田城跡がある朝来市は、兵庫県北部の但馬(たじま)地方にあります。
朝来市には、総務省地域情報化アドバイザーとして、また、総務省ICT地域マネージャーとして関わらせて頂いています。

現在、情報通信の【礎】となるインフラの整備が行われており、そのインフラの利活用について、様々な議論を行っています。昨年度は、広報や防災を担当する職員が、今後、起こるであろう災害を想定しながら、研修会でSkypeのデモンストレーションを行いました。

ちょうど翌月に、台風の影響で大雨が降り、次回のコラムで紹介する朝来市の東隣の福知山市に、未曾有の水害が起こりました。被災現場に赴いた朝来市の職員は、Skypeを実践で使用し、朝来市の災害対策本部に映像コンテンツをもって、関係者への被害報告を行うとともに情報共有を行い、その後の支援に役立たせました。

このように、普段から垣間見える、朝来市のたくさんある魅力をギューッと凝縮して、あえて一言で表現すると、【礎】があるということです。そして、【礎】に出会うシーンが多いと感じます。

竹田城跡は、今あるGPSを使った測量や建築機材が無い時代に、【人】によって、地震に強い岩盤層のこの地を選び、そして、山上に城郭が築かれました。その城を守る地域住民が築いてきた【礎】が、ここ朝来市民には脈々と受け継がれています。当たり前の日常に、そこに暮らす世代を超えた人々の、ときには頑固に、そして凛としたプライドは、めったに見る事ができない、雲海にそびえる竹田城跡の荘厳そのものです。

これからの空き家対策

今回のコラムの舞台となる朝来市の課題である、人口減少による空き家の増加は、全国でも起こっている問題です。

海辺に暮らす私が、これからも海辺の暮らしを求めるように、愛着のある土地を離れて、別の地域に移り住む事に対して、少なからず抵抗感を持たれる方は多いと思います。しかし、都会の喧噪の中で、殺伐と暮らす方を目の当たりにしますと、正直もったいないなと思います。自然豊かな環境にある住まいが、朝来市には山ほどあります。

起こってほしくはないと心から願っていますが、これから起こるであろう様々な自然災害により、住む家を失う方が出てくるかもしれません。もしそれが、広域な地域で起こった場合を想定すると、全国にある空き家が、ただ一時の仮住まいではなく、定住する場所になり得ることも考えられます。

また、自然豊かな山間地では、食べる事には事欠かないので、田舎の強みは、都会よりも、はるかに生き延びられることだと自負しています。

これからは、ある種サバイバル時代。安定した生活の【礎】のひとつに、生きる為の術を身につけるということも視野に入れて、山間部の定住促進について考えて頂きたいと思います。

若者も住みたい田舎とは

日本全国で、若者が減る地域というのは、生活する基盤が困難である(若者が望む仕事がなく、収入源が見込まれない)要因が大半ですが、その地域の交通の利便性や地域の特性、環境に馴染めないことも挙げられます。しかし、魅力のある地域には、人は引き寄せられます。

例えば、伝統やしきたりも大切にされながら、よそ者をよそ者扱いしない住民同士の心配りや、若者の意見を尊重し、時には、若者のサポート役に徹する頑固オヤジの存在や、若い衆と会話が出来るだけでも嬉しいと感じる高齢者が住む地域では、世代を超えたコミュニケーションが図られています。そして、その地域に情報通信のインフラが整っていることは、若者が住みたい田舎に欠かせない【礎】となります。

職種によっては、情報通信のインフラとコミュニケーション能力があれば、国内(全世界)のどこにいても仕事ができる環境が作れる時代になったと感じます。

農業をやりながら他の仕事もしたいと、おっしゃる方には、是非とも、【田舎に住んで頂きたい!】と心より願います。

定住促進にICTを利活用するということを考えて頂く場合も、机上で議論を行うのではなく、自分だったら、この条件なら移り住みたいなという自らの体感をもって、定住を希望される方のニーズをしっかりと聞いて、自治体が出来る範囲でオーダーメイドの仕組みづくりを施策に盛り込んで頂きたいと思います。

ICT×山間部の定住促進 生活の基盤づくりと革新者が『鍵』

さて、自治体が、ICTを利活用した定住促進について、これから検討して頂きたいことは、移住してこられる方の生活の基盤づくりの徹底的な支援です。

その為には、地域内の空き家の実態を速やかに調査し、様々な条件を把握しておくことが大切です。さらに、その空き家の利活用と移住者の収入源を確保するために必要な事は、働く場所の確保です。働く場所がないという自治体があれば、他の地域の仕事をその地域でできるような仕組みづくりを民間企業に対して積極的に呼びかけて頂きたいと考えます。

  1. データ入力業務
  2. コールセンター業務
  3. 通販事業
  4. コンテンツ制作業務
  5. 芸術活動 等

上記1から5は、空き家対策としての一考であり、ICTを利活用した事業の一例ですが、様々なICTの利活用が考えられたとしても、その使い手は、【人】であり、すべては【人】に委ねられています。

総務省の制度で、地域おこし協力隊(注1)に誘致された人材が、各地域で町おこしの革新者として、活躍をされています。朝来市にも、素晴らしい人材がいます。朝来市の魅力をじっくりと見つめ、将来は、朝来市で暮らし、起業を試みようとしている彼らの熱意は、そこに暮らす住民との協業の末に、計り知れない可能性を開花するものと期待しています。

★礎★とは、物事の基礎となる大事なもの、あるいは人のことで、そこで暮らすために必要な礎は、生活の基盤づくり=生きていくことに繋がります。

総じて、定住促進のためには、そこに暮らす住民と事業者が協力して、定住を希望する方の生活の基盤づくりとなる収入を生み出す方法についてPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返す必要があります。

そこで、先導役(リーダー)となるのは、やはり自治体職員の皆様方だと思います。だからこそ、普段からICTを利活用していないと、イザという時には使えませんし、伝えたい相手をイメージし、伝える内容を考えていないと、人とコミュケーションの【礎】を構築することができません。

そのためには、今一度、情報のデジタル化と一元化、今スグにでもできる、皆様の身の回りで使える、ICT利活用から行って頂きたいと思います。

朝来市は、シティプロモーションを構築するにあたり、首長みずからが、市民の声を聞いて歩かれています。あらゆる市民の意見を取り入れながら、ちょうど、このコラムが掲載されるまでにも、情報のデジタル化と一元化、情報共有の基盤づくりの準備が図られています。

ICT×定住促進を考える前に、情報のデジタル化と一元化、情報共有の基盤づくりを行うことが、優先事項です。そして、やっぱり【人】。

第4回のコラムを終えますが、朝来市(兵庫県)に興味を持たれましたでしょうか? 定住促進を考える前に、移住者の受け入れを願う人が、旅をして、食べてみて、色々と体感して頂かないと・・・とっとと、仕事や用事を片付けて、とにかく外へ出掛けて行って下さい。
何より、本コラムをご覧になって頂きまして、何かのHINTにして頂ければ光栄に思います。

次回は、百人一首に出てくる大江山のまたがる福知山(京都府)を歩きながら「ICT×防災対策」について考えてみたいと思います。
どうぞ、お楽しみに・・・しばし休憩中☆

(注1)人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住・定着を図ることで、上記のような意欲ある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とする制度。(総務省 自治行政局 地域自立応援課)

旅のMEMO

朝来市の代表駅への交通

JR山陰本線と播但線「和田山」駅

朝来市のお薦めのスポットの一部をご紹介させて頂きます。
是非とも、美味しい朝来市においで下さい。

お土産品

  • 朝来市特産品オンラインショップ「あさごもん」Webで検索!

お宿

  • やまびこ山荘(今が旬の岩津ネギやボタン鍋)
  • 農家民宿まるつね(オオサンショウウオに出会える宿)

温泉

  • 黒川山温泉(アルカリ性単純温泉 加温掛け流し)

宜しければ、blogをご笑納下さい。

※JR和田山駅(竹田城跡がある「竹田駅」は山の向こう)

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