公文書をめぐり、管理や情報公開の在り方が国会で議論されています。政府は、国有地の売却に係る交渉記録が廃棄されていたことなどを踏まえ、保存期間が1年未満保存とされている文書でも、行政運営の検証に必要な文書は原則として1年以上保存するなど、「行政文書の管理に関するガイドライン」の見直しに向けた考え方をまとめ新たな指針を出しました。今後、公文書管理委員会において、専門的な見地から議論されるでしょう。
かつて、自治体の文書は行政のもの、従って文書管理は行政の裁量行為であるとされていた時代がありました。しかし、地方自治の本旨に照らすまでもなく、文書(情報を搭載した媒体)は住民のものであり、公文書は住民と行政との共有財産であります。従って、自治体にとって公文書の管理は、住民の信頼確保を図るため、また、適正かつ効率的な行政運営を図るための基盤といえます。今こそ、国とともに公文書管理の改善に取り組むべきではないでしょうか。
地方自治体は、国に先行して公文書の管理に取り組んできました。1982年3月、山形県金山町が初めて情報公開条例を制定しました。国の情報公開法成立は1999年5月でした。1990年3月には、神奈川県が初めて個人情報保護条例を制定しました。国の個人情報保護法成立は2003年5月でした。そして、2001年3月、熊本県宇土市が初めて公文書管理条例を制定しました。国の公文書管理法の成立は2009年6月でした。
厳密にいえば、情報公開条例は、文書管理を直接規制する法規範ではありませんが、以下に示すように情報の適正管理を求める事項を含んでおり文書管理に関連した規範となっています。
このような情報公開条例が求める要求に、現実の文書管理は適切に対応しているでしょうか。
個人情報保護条例も同様で、以下に示すように情報の適正管理を求める事項を含んでおり文書管理に関連した規範となっています。
このような要求に現実の文書管理は適切に対応しているでしょうか。
これまでに、地方自治体において情報公開条例は99.9%、個人情報保護条例は100%制定されるに至っております。しかし、公文書管理条例制定となると21団体(都道府県5、政令市4、市区町村12)にとどまっているのが実情です。もっとも、公文書管理条例を定めていない自治体の大半には公文書管理に関する規則・規程・要綱等の定めがありますが、それらはその組織に所属するものが守るべきルールに過ぎません。公文書は住民のものであるという原則を考えれば、議会や住民への説明責任を果たすという点で不十分ではないでしょうか。
公文書管理法第34条では、地方公共団体の文書管理について、「地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。」とする努力義務にとどめられており、必ずしも条例を策定しなくてもよいのではないか、という考え方もあります。
確かに、これらの課題を無視して条例を策定しても、その内容に沿って実行できなければ意味のないものになってしまします。特に、ヒト・モノ・カネに関しては地方公共団体それぞれに事情が異なります。従って、それぞれのやり方でしか解決できないのではないのでしょうか。
一方、文書のライフサイクル上の問題点から条例化の必要性を説く議論があります。ここでは、文書作成時及び現用段階と移管について、規程より条例の方が適正な文書管理が行えるのではないかという点をピックアップします。
この他にも、公文書館における整理、利用請求に関しても条例化を求める意見があります。
公文書管理法には次に示す5つのポイントがあります。
これらを、自治体に求められる施策ポイントとして置き換えてみましょう。これらの中には、実務者レベルでの課題解決は規程でも可能なものもありますが、条例でないと難しいものもあります。
以上のように、自治体ごとに現実的なレベルで議論し、規程改正と環境づくりを進めつつ実効性の見極めを行い条例制定に取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。
今回より「行政文書管理の成熟度向上を目指して」という新しいテーマで話を進めます。第1回目は、政府の「行政文書の管理に関するガイドライン」の見直しに向けた考え方をまとめ新たな指針を踏まえ、地方公共団体も一緒に公文書管理の改善に取り組む契機にすべきとの考えから、公文書管理の条例化についての議論を紹介させていただきました。
次回以降は、行政文書管理の改善に向け、実務面での問題点や解決方法について事例を交えて紹介させていただきます。
どうぞお楽しみに。