解決すべき文書管理の根本問題は何か
~文書の私物化容認意識払拭のススメ~

行政文書管理の成熟度向上を目指して [第2回]
2017年12月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

「ペーパレスオフィスの神話」―90年代後半はインターネット接続の完全商用化、WWWブラウザやHTMLの登場、Windows 95などデジタル全盛期でした。何でも電子に置き換えられ、「ペーパレスオフィス」はすぐにでも実現されるという神話が生まれました。

あれから20年以上過ぎましたが、私たちのオフィスは依然として紙であふれています。やがて「ペーパレスオフィスの神話」はなりをひそめ、「紙と電子のシームレスな連携」を追求することがトレンドになっています。

また、「ペーパレス時代になって紙が無くなるのだから、紙文書の管理は必要なくなる!?」、「ペーパレス時代になるのだから、今後は電子文書管理システムを導入すれば、すべては解決する!?」そういう夢のような時代もありました。

文書の管理をめぐる事件が多発している!

ICTは日々進歩し、システムの機能は確実に向上しています。これにより、初期の電子文書管理システムにあった、行政文書ファイルが作成されない、ファイル管理簿に登録されないなど、行政ファイル管理簿の完成度が低く、利用しにくいという問題は解消されました。しかし、すべての問題は解決されたでしょうか?

昨今、文書管理をめぐる問題が多発しています。情報公開請求の際、廃棄され「不存在」とした日報データが実在し、一転して公開されたという文書管理上の問題、土地売買の交渉記録を規則に従い廃棄したと説明されたが、文書保存期間が妥当かという問題、政府系金融機関の取引先の書類改ざんによる不正融資等々、事件がおきているのはシステムの外ばかりです。

こうした問題は行政機関に限ることだけではなく、民間においても頻発しております。免震ゴムの性能偽装、マンションの杭打ちデータ偽装、燃費データの改ざん、製品検査改ざん等々、相次ぐ大企業の不祥事で、「日本ブランド」は危機的状況にあります。このようなことで内部統制のカギを握るといわれる文書管理が機能しているといえるのでしょうか。

解決すべき文書管理の根本問題1:文書の私物化

文書管理上の根本問題は、行政文書の私物化と私物化容認意識だと思います。「私物化」というと聞こえは悪いですが、「文書の私物化」とは「情報の共有化」の反対語とお考え下さい。「文書の私物化」とは、「文書は、行政のものであり、自分の文書であり、自分の資料である」「文書は自分しか使わない、だから自分で管理している」と業務担当者本人が自己流の管理をしている、そんな状態を指しています。文書は住民のものであることを再認識してください。

周囲にもそういう風潮があるようです。いうなれば「私物化容認意識」です。例えば、「文書を放置して退庁しても誰からも指摘されないのだから問題ない」「文書を持ち出しても誰も文句を言わないのだから問題はない」と周りが見て見ぬふりをしている、そんな状態のことです。そういう無関心が大きな事件の引き金になることもあります。

また、何かの事情があって、他の人が探そうと思ってもどこにあるかわからない、これが「情報の共有化」が妨げられている状態、すなわち「文書の私物化」を物語る状態にほかなりません。たまたま、探し出せればいいのですが、そうでない場合は、内部の職員だけでなく、外部の方にも迷惑をかけることになります。これでは住民サービスに支障が出る危険性があります。

担当者は、自分の机や引き出しに文書を置いておくことが最も仕事がやりやすく、文書も探しやすいと勘違いしていることが多いようです。しかし、これまでの文書管理の実態調査でも明らかですが、机の上に文書を放置して退庁している自治体ほど、担当者自身の文書検索時間が長くかかっています。

つまり、机の周りに文書を置いて手元保管をすれば即時検索ができるかというと、必ずしもそうではなく、逆に時間がかかるということです。担当者以外の職員による検索は、さらに時間がかかるのではないでしょうか。行政事務の効率化を妨げないよう、文書の私物化排除に取り組むことが大切ではないでしょうか。

解決すべき文書管理の根本問題2:不要文書の氾濫

文書管理上の2つ目の問題点は不要文書の氾濫です。
ひと昔前の自治体の事務室を眺めると、あちこちの机の上に書類が山積みされていました。机の上だけではなく、机の下、キャビネットの上などにも。時として椅子の上にもありました。通路も狭くなり、執務環境がよいとは言えない状態でした。

さすがに、今はそういう事務室を見かけることは少なくなりましたが、不要文書がなくなったわけではありません。現在、パソコンが普及し、「一人一台体制」がほぼ当たり前の時代になり、年々情報量は増加しています。もしかしたら、不要文書はパソコンやサーバの中に移動し、直接、目には見えない状態になっている可能性もあります。

以前、コラムでも紹介しましたが、書類の利用状況について次のような調査結果があります。

1.手持ち文書の5割は捨ててもよい(5:3:2の法則)

自治体がファイリングシステムを導入するときに行う大掃除の結果によると、事務室にある文書のうち5割程度はすぐに廃棄しても職務に全く支障がないもの、約3割は法的保存年限などの理由から捨てることはできないが、あえて事務室においておく必要がないもの、残りの約2割が、本当に手元や事務室に置く必要があるものになっています。これはどこの自治体でもほぼ同じような結果が出ているようです。

2.よく見る文書は1年以内のもの(NAREMCOの統計)

毎日発生する文書を1件1件、必要・不必要と区分するのは難しいものであり、そのまま取っておきがちになります。しかし、そもそも文書をとっておくのは、後から見るためです。米国のNAREMCO(National Records Management Council)の調査統計によれば、後で見て参考にする文書の90%は過去半年以内のものであり、99%は1年以内のものでした。

言い換えれば、1年以上の古い文書を見る確率は1%しかないので、事務室に置いておく必要はなく、必要最小限のものだけを保管しておけばよいということです。将来、使うかもしれないからというだけでとっておくと、ほとんど見ない古い文書が事務室にたまっているということになりがちです。執務環境改善のためにも、文書管理の根本的問題の解決に取り組んでいただきたいと思います。

次回以降も、行政文書管理の改善に向け、引き続き実務面での問題点や解決方法について事例を交えて紹介させていただきます。
どうぞお楽しみに。

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