政府は平成29年11月8日、有識者による公文書管理委員会(委員長・宇賀克也東京大学教授)を開催し、行政文書の管理に関する新たなガイドライン案を取りまとめました。重要なポイントの一つは、これまでコラムで取り上げた保存期間が「1年未満」とされる文書の取扱いであり、文書管理の根本問題を解決する上で大きな一歩を踏み出したといえます。
※ガイドライン案については第58回公文書管理委員会配布資料1、2を参照下さい。
省庁の文書はガイドラインや各省庁の文書管理規則に基づき、重要性や性質に応じて保存期間を1~30年に設定した上で、行政ファイル管理簿に登録・管理し、廃棄するときは内閣府のチェックを受けることになっています。しかし、現在、「1年未満」の保存文書は、こうしたルールの枠外に置かれています。
何が1年未満の文書に当たるのかについての定義が曖昧で、文書を作成した省庁の担当課の判断だけで廃棄できるというものです。ファイル管理簿に登録されないので、存在したことさえ分かりません。これでは「文書は行政のもの、文書管理は行政の裁量行為」と揶揄されても何ら反論できないでしょう。
改正案では保存期間を原則1年以上としつつ、その例外として「1年未満」で廃棄してもよい文書として次の7つの類型を例示しました。
これまで等閑に付されてきた「1年未満」の保存文書にようやく光が当てられました。しかし、これで全ての問題が解決するわけではありません。都合の悪い文書は保存すべき行政文書と認定せず、個人メモとして廃棄する道、つまり、各省や課ごとの裁量に大きな余地が残ります。文書管理上の根本問題である「私物化意識・私物化容認意識」の払拭は組織風土の問題であり、法の趣旨に基づいて、真摯に、かつ地道に取組んで欲しいものです。
国会は文書管理上の問題を政争の具にするのではなく、立法府としての役割を果たすべく、将来的にガイドラインの実効性が失われないよう法制化をすることや第三者としての専門家(レコードマネージャ・アーキビスト等)が監視する仕組み等を作ることが重要ではないでしょうか。行政文書管理の成熟度向上を図るためには内部監査や自主点検だけでは十分とはいえません。
一方、行政の透明性を確保するために、年間作成・取得される文書の約40%といわれる1年未満保存文書の管理を厳格化していくことは、それに関わる人や時間というコストがかかることも事実であり、行財政改革という至上命題を達成するためにはバランスを考慮することが大切です。文書管理のための文書管理にならぬよう改革を進めて欲しいと思います。
ガイドラインは、「第1 総則」、「第2 管理体制」、「第3 作成」、「第4 整理」、「第5 保存」、「第6 行政ファイル管理簿」、「第7 移管、廃棄又は保存期間の延長」、「第8 点検・監査及び管理状況の報告」、「第9 研修」、「第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理」、「第11 補足」と別表第1、別表第2で構成されています。
今回の改正案における保存期間に関するポイントを整理しておきましょう。
<第4 整理>
<第7 移管、廃棄又は保存期間の延長>
保存期間だけでなく、もう一つ重要なポイントがあります。これは、省庁担当者が外部との打ち合わせで相手方が発言した部分を記録する際、「言った、言わない」の水掛け論防止のための方策です。打合せをした当事者間の確認は論を俟つまでもなく、遅きに失した感がありますが、今後はしっかり取り組んでいただきたいと思います。
改正案は次のとおりです。
<第3 作成>
最後にもう1点。個人メモと行政文書については、以下のとおりです。
<第5 保存>
しかし、個人文書と行政文書の境目は依然としてグレーであり、個人文書を明確に定義、例示等、改善を進めていくことが望まれます。
今回は、平成29年11月8日の公文書管理委員会で明らかになった「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案について重要なポイントを紹介させていただきました。政府は、パブコメ(平成29年11月22日~平成29年12月10日)を経て、平成30年春を目途に全面改正する方針です。自治体の皆様にも是非ご検討いただければ、と願っております。
次回以降も、行政文書の管理改善に向け、実務面での問題点や解決方法について紹介させていただきます。
どうぞお楽しみに。