行政文書管理の改善目標をどのように設定するのか
~6人の賢者がすべてを教えてくれる!~

行政文書管理の成熟度向上を目指して [第4回]
2018年2月

執筆者:記録管理学会 理事、駿河台大学文化情報学研究所 特別研究員
    一般社団法人ヒューリットMF 代表理事
    ITコーディネータ・情報資産管理指導者
    石井 幸雄(いしい ゆきお)氏

はじめに

「5W1Hを友とせよ」というアドバイスがあります。イギリスのノーベル賞作家キプリングは、こうした「六何」を「6人の賢者」に見立て、こんな詩を書いています。

I keep six honest serving-men.
   (They taught me all I knew);
Their names are What and Why and When
  And How and Where and Who.

私には6人の誠実な召使がいる
(彼らは私の知りたいこと何でも教えてくれた)
彼らの名前は、What と Why と When
そしてHow と Where と Whoである。

※ 5W1Hとは、周知のとおり「何時(いつ)、何処で(どこで)、何人(なんびと)が、何を、何故に、如何(いか)にして」を指すものであり、「何」が六つあることから六何(ろっか)の原則ともいわれています。

行政文書管理改善は行政改革の基盤

「公文書等の管理に関する法律案」に対する衆参両院の内閣委員会付帯決議にもあるように、「公文書管理の改革は究極の行政改革であるとの認識のもと、公文書管理の適正な運用を着実に実施していくこと。」が求められています。地方公共団体の文書管理についても、第34条で「地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するように努めなければならない。」と規定されています。

行政文書管理は行政事務の基盤であり、その改善は行政効率を高め、行政改革の成果に直結するものです。こうした事務事業(政策・施策も含む)の成果や実績などを、事前、中間または事後において、有効性、効率性などの観点から評価することが行政評価であり、その仕組みとして導入されたのがPDCAのマネジメントサイクルです。

PDCAサイクルとは、計画(P)→実施(D)→評価(C)→改善(A)を繰り返すことで、施策や事務事業の進行管理を適切に行い、その成果を向上させる仕組みです。従来は予算(P)→執行(D)で終わっていましたが、実施結果の評価(C)と見直し(A)を加えたものです。

キプリングの詩の一節を引用したのは、5W1Hが、このPDCAサイクルを進める際のチェックリストとして最も有効であることをお伝えするためのものです。5W1Hは、情報の整理、情報伝達、行動計画、対策・企画立案など、発想から進行、評価に至る仕事のプロセスを管理するために必須のツールとなっています。

釈迦に説法になりますが、庁内だけでなく、住民とのコミュニケーションはお互いの意思が確実に伝達されてこそ成り立つものです。そのために、5W1Hが重要な役割を担っていることは言うまでもありません。

現在、行政文書管理の目標として設定されているものとは?

今回のコラムでは「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正を受け、行政文書管理の改善目標設定について紹介させていただきます。

800を超える地方公共団体の文書管理関連例規(行政文書の管理に関する条例、規則、規程等)に関する調査で、例規の目的が次の5つに層別されることがわかっております。ただし、50%以上の団体は、基本的事項を定めるのみで目的を規定しておりません。

1. 法令遵守(コンプライアンス)

「文書、事務、行政、記録」等の「適正、確実、適切」な「管理、処理」、公文書等の作成・保存、情報の保護と管理を図ること。

2. 行政事務の効率化

事務の「標準化、合理化、能率化、最適化」、事務の「円滑、迅速、能率的、効率的、経済的、容易」な運営を図ること。

3. 住民との情報共有化

情報公開制度の円滑な運営に資する、公正で開かれた行政の推進、公正かつ民主的な行政の発展、行政運営に対する住民の信頼の確保、住民の権利、利益の確保、住民の安心と信頼の確保を図ること。

4. 政策決定(意思決定)の最適化

住民との情報共有化をベースに、蓄積された情報を有効に活用する仕組みを構築し政策能力の向上を図ること。

5. 住民自治の確立

住民が保有する情報は住民の財産であるという考えに基づき、行政情報を生活かつ適正に収集・管理し、すみやかにこれを活用するための基本となる事項を定めることにより、自ら考え行動するという自治の理念の実現に向けて、公正で民主的な行政の推進に資すること。

目的を規定している団体の96%以上が「1.法令遵守(コンプライアンス)」と「2.行政事務の効率化」ですが、これは庁内ルールに過ぎません。次に、殆どの団体が情報公開条例を制定しているにもかかわらず、「3.市民との情報共有化」が2%未満であることは、情報公開と文書管理が民主主義を推進する車の両輪として機能していないことの表れではないでしょうか。また、「4.政策決定(意思決定)の最適化」と「5.住民自治の確立」は極めて少なく、住民のための行政改革の基盤整備が遅れているのではないでしょうか。

行政文書管理の改善目標はどのように設定するのか

さて、文書管理の改善目標にはレベルの異なる2つのステージがあるといわれています。

第1は「問題解決型改善」のステージです。文書管理に係る諸問題を解決するために取り組むステージです。ここでいう問題点とは、表層的には不要文書の氾濫、執務環境の劣悪化、検索時間のムダであり、深層的には管理対象範囲の狭隘化(きょうあいか)、不明確なアーカイブズ選別基準、私物化及び私物化容認意識、志向すべき目的及び拠って立つべき規範の不存在などがあげられます。

このステージは庁内の改善ですから、職員の文書私物化及び私物化容認意識を払拭することを前提に、文書の即時検索と他者検索を確保して行政事務の効率化を支援することを目標とすればよいでしょう。前掲の「1.法令遵守(コンプライアンス)」と「2.行政事務の効率化」に該当します。しかし、成果を検証し、見直されているかどうかは定かではありません。

第2は「目的志向型改善」のステージです。このステージではより高い目標が求められます。文書の登載された情報を全庁的に共有化し、その情報を意思決定の判断材料として活用することで、「4.政策決定の最適化」につながります。更には、「3.住民との情報共有化」を進め、住民が考動する「5.住民自治の確立」を支援することが、本来の意味での挙証説明責任を果たすことになります。住民との情報共有は、「現在の住民」だけでなく「未来の住民」をも含めるべきであり、歴史公文書(アーカイブズ)の評価選別及びその適正管理が必須となります。

このステージは住民のための改善ですから、目的志向型の文書管理を構築するために、生産的で機能的な文書管理改善を目指すことを高次の目標にします。これらは、前掲の「3. 市民との情報共有化」、「4. 政策決定(意思決定)の最適化」、「5. 住民自治の確立」に該当します。是非、行政文書管理の成熟度向上を目指して欲しいものです。

6人の賢者とともに行政改革の基盤強化を!

6人の賢者はあなたのすぐ隣にいます。彼らは、情報整理・情報伝達だけでなく、情報収集・企画立案という情報の基本的処理過程において不可欠なチェック機能です。彼らは、文書管理に限らず行政改革の目標を設定し成果の向上を目指す人には大きな力を授けてくれるでしょう。

When何時時期、納期、期限、時間、計画、季節など
Where何処で場所、位置、職場、出先など
Who何人が主体、組織、役職、担当、グループ、人数など
Whom何人と相手、関係、人数など
What何を仕事内容、課題、テーマ、種類、性質など
Why何故に意義、目的、趣旨、動機、理由、背景、必要性など
How如何に手段、方法、順番、技術・ノウハウなど
How much如何ほど予算、単価、数量、重量、範囲など

※5W1Hの他、5W2H、6W2Hなどバリエーションがあるのは周知のとおりです。

今回は、行政文書の管理に関するガイドラインが改正され、一層の改善が求められる行政文書管理について、その改善目標の設定方法を紹介いたしました。皆様には、6人の賢者とともに、行政改革の基盤ともいうべき行政文書管理の改善に取り組んでいただきたいと願っております。

次回以降も、行政文書の管理改善に向け、実務面での問題点や解決方法について紹介させていただきます。

どうぞお楽しみに。

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