健康寿命の延伸とデータヘルス
日本の超高齢化社会を救えるのはデータヘルスか? [第2回]
2016年11月

執筆者:特定非営利活動法人データ・ヘルスケア・イノベーション Japan
    代表理事
    岸本 佳子(きしもと よしこ)氏

「超高齢化社会!言葉の定義と日本の状況」

厚生労働省の「平成27年簡易生命表の概況」が公表されました。これによると、日本人の平均寿命は、男性80.79歳、女性87.05歳ということで、世界でも高い水準を維持しています。前年より男性0.29年、女性0.22年平均寿命が延伸しました。

今から約450年前、桶狭間の戦いの前夜、織田信長が敦盛の一節「人間50年・・・」を謡い、舞ったといわれています。「戦国時代って50歳代で人生終わり?」と思われた方も多いのではないでしょうか。私はそう思っていました。しかし、厚生労働省の資料によると、日本人の平均寿命が50歳を超えたのは昭和22年。明治・大正・昭和(戦前)の平均寿命は40歳代となっています。戦後非常に早いスピードで、男性80.79歳、女性87.05歳と世界最高水準の平均寿命まで延伸しています。ちなみに諸説ありますが、織田信長は49歳で本能寺の変で亡くなったとされています。当時としては、非常に長生きですね。

では、高齢化社会の定義はどこにあるのでしょう?総人口に対して65歳以上の高齢者の占める割合を高齢化率といい、世界保健機構(WHO)や国連の定義によりますと、高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢化社会」といい、日本が「高齢化社会」となったのは、1970年となるようです。

内閣府の「平成28年版高齢者白書」では、平成27年10月1日現在の日本の総人口は、1億2711万人。65歳以上の高齢者人口は、3392万人(前年3300万人)総人口に占める割合(高齢化率)も26.7%(前年26.0%)となっています。このように数字で表すと、「超高齢化社会」というのがよくわかります。また、65歳以上の高齢者人口を男女別にみますと、男性1466万人、女性1926万人、性比(女性人口100人に対する男性人口)は76.1(前年75.8)で男性対女性は約3対4となっています。

高齢化の定義によると高齢率は、7%→14%→21%と7の倍数で、高齢社会の名前が変化しています。「超高齢化社会」は高齢化率が21%以上としか記載がありません。しかし内閣府の「平成28年版高齢社会白書」では9年後の2025年には、30.3%と予想されており、2060年には39.9%と推移されています。高齢化率30%を超えたら、たとえば「激高齢化社会」「極高齢化社会」というような新語が生み出され、流行語大賞をとるかもしれません。 もし、「激高齢化社会」「極高齢化社会」が、流行語大賞をとったら、私が考えたことを忘れないでください。

「健康寿命ってナニ?」

健康寿命とは、2000年にWHO(世界保健機関)が「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義しており、平均寿命と健康寿命との差が、日常生活に制限のある「健康ではない期間」とされています。

日常生活に制限のある「健康ではない期間」は一体どのような期間なのでしょう?遠まわしな言い方すぎて、わかりづらいのは私だけでしょうか?日常生活に制限のあるという事ですので、自立した生活が困難で介護が必要な期間と考えられます。

では、日本の健康寿命は、何歳なのでしょう?平成22年の健康寿命は、男性70.42歳、女性73.62歳、平均寿命は、男性79.55歳、女性86.30歳となっており、「健康ではない期間」とされる平均寿命と健康寿命との差は、男性9.13年、女性12.68年となります。平成25年の健康寿命になると、男性71.19歳、女性74.21歳、平均寿命は、男性80.21歳、女性86.61歳となっており、「健康ではない期間」とされる平均寿命と健康寿命との差は、男性9.02年、女性12.40年と平成22年と比べると若干縮まりました。

3年間で健康寿命は、男性0.77歳、女性0.59歳、平均寿命は男性0.66歳、女性0.31歳延伸し、平均寿命と健康寿命との差は、男性0.11年、女性0.28年縮んでいますが、平均寿命で天寿を全うするまでの、男性約9年、女性約12年の間、自立した生活が困難で介護が必要な期間を過ごすこととなります。思いのほか長い期間ではないでしょうか。

日本人の理想としては、亡くなる直前まで元気に活動する「ピンピンコロリ」を望む人が多いように思いますが、現状は長期の寝たきりになって亡くなる人が多いようです。

健康寿命の延伸

現在の80歳代といえば、昭和一桁世代となります。昭和一桁世代といえば、世界恐慌のころ誕生し、第2次世界大戦の戦中、戦後を経験、青年期には、戦後復興の立役者として活躍し、よく激動の時代を生き抜いた世代といわれております。戦中・戦後の食糧難に栄養失調と隣り合わせの思春期を過ごしますが、穀類・野菜・魚という和食中心の食生活を過ごし、おやつに蒸かしイモ・団子などの自然食品を中心に食べていた世代です。現在も日本人は和食中心の食生活ですが、食生活の欧米化が進んでおり、おやつの主流は自然食品からスナック菓子となり脂質・糖質を過度に摂取するようになり、若年層の生活習慣病が社会問題となっています。

和食の食生活をしていた日本人が、平均・健康寿命を延伸してきました。しかし脂質・糖質を過度に摂取するようになった日本人が、今までのように平均・健康寿命を延伸できるでしょうか?現在の日本の医療をもってすれば、平均寿命は延伸していくでしょう。しかし、健康寿命はどうでしょう?延伸していくでしょうか。短くなったら・・・。

「健康でない期間」が長くなると、医療費・介護費が家計を圧迫するだけでなく、国の社会保障給付費が増大します。しかし社会保障給付費の財源である税収は、生産年齢人口の減少により減収となり、将来公的年金の支給額の減額、消費税の増額や本人の医療費負担増が考えられます。そうなると高齢者の家計は・・・。考えただけでも恐ろしいです。

「ピンピンコロリ」とはいかずとも、「健康でない期間」を短くし、老後を元気に活動することが、高齢者本人の一番望むことであり、一番の幸せとなるはずです。

そのためにも、医療保険者が被保険者の特性に合わせ、データを活用した保健事業を実施し、効果的に現役世代から予防に心がけ健康管理することが、「健康でない期間」を短くする方策となるのではないでしょうか。

出典 健康寿命:厚生労働科学研究「平成22年及び25年の都道府県別健康寿命」

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