3月は、PDCAサイクルを締めくくるときです。事業や業務の結果を確認し、今年度の成果を喜び、それを成し遂げた自己の成長を仲間と共にふり返りましょう。互いの成長を確認し合うことは、次年度への第一歩です。
今回は、自己を客観的にふり返り、評価する力を取り上げます。
年度末には、人事評価制度の導入とともに多くの自治体で上司と部下の個人面談が行なわれるようになりました。部下の立場としては、自分が上司からどのように評価されたか、評価結果がとても気になるところです。
しかし、上司から評価結果を聞いたとしても、部下にはすぐに納得できない場合があります。
それは、自分自身がとらえている自己評価と上司の評価との間にギャップがあるからでしょう。ギャップを感じたときには、それを解消するためのやりとりをしておく必要があります。
評価は、自分の次の成長につなげていくためにあるものです。それには、結果に至るプロセスで、何をもとにどのような判断基準で評価されたのか、その内容を理解しておくことが重要です。
しかし、行政組織においては制度が導入されたばかりのところが多く、上司も部下もまだ面談経験が浅く、やりとりが十分にできているとは言えない状況にあるようです。そこで、上司の評価と自分の評価の間にギャップを生じやすい2つのポイントと解消法をあげてみました(ここでは上司と部下の伝達方法、コミュニケーションスキルについては対象外としています)。
一つめは、担っている役割・責任について。
職位職階や経験年数から、「これぐらいできて当たり前。ここまではやれるだろう」というレベルが見定められます。その範囲は最初にすべて決まっているのではなく、実際の職場で周りの人(上司や同僚、お客様やパートナーなど)との関わりの中で定まってくるところがあるものです。
そこで、面談にあたっては、自分が何をしたのかを主張するだけでなく、自分に何が期待されているのか、自らを取り巻く環境から自分を“客観的”にとらえ、どんな役割・責任を設定していたのかについて、上司の見方・見解を知り、自分のそれと比較してみることが必要です。
もう一つは、役割・責任に適した能力があったかどうか、について。
これは、過去の実績から保有している能力を見るだけではなく、実際にその能力が必要とされる場面できちんと発揮できていたか、“事実”をとらえて判断されるものです。ただし、上司から部下の行動すべてが見えているわけではありません。
面談では、どの場面でどんな言動をし、それによってどんな効果をもたらしていたのかについて、双方で事実をもとに情報共有することが必要となります。
上司と部下の間で、評価の納得性を高めるためのやりとりを行なうには、双方の努力が必要です。
上司には、評価者研修が設定されており、幾人かの部下との面談を重ねることである程度習熟が見込まれますが、部下にとっては数少ない機会しかなく、いざ本番でその腕を磨くことは容易なことではありません。
特に、評価される当事者には、自分視点の“主観的”な見方から離れにくいところがあり、将来に対する“願望や可能性”というフィルターをかけて現状を解釈してしまいがちなところがあるからです。
そこで皆さんには、日頃から客観的に自分をとらえ、事実をふり返り、自己評価する機会をつくっておくことをお勧めしたいと思います。そこで有効なのが「ジブンガタリ」の手法です。
職場で「自分のことを話してください」というと、たいていの人は、所属する部署名や担当する業務の内容、そこで何をしているのかというデータ系の情報を話します。自分がなぜその業務を行なっているのか、役割認識や責任意識、そこで発揮している能力や効果とのつながりなど目に見えない非データ系の情報は、なかなか言葉にすることがありません。
「ジブンガタリ」の場は、そんな目に見えていないその人の内なる思いや考え方、とらえ方などについて、立場・肩書を外して気楽に、自分を主語にして本音を語り合い、聴き合う場です。
でも、いきなり自分の内面を話すのには気がひけますから、最初は身近な気心の知れたメンバーと一緒に、そして、今回であれば「この1年の自分の成長をふり返る」をテーマに場を設けてみるといいでしょう。
「ジブンガタリ」には多くの効果がありますが、ここでは自己の成長につながるふり返りと自己評価に関するものをいくつかあげてみます。
“成長”をテーマにした場では、全員が前向きに参加することができます。1年間、あまりよいことがなかった人でも、その間に“忍耐力がついた”ととらえることができるかもしれません。
“成長”度合いを見るために、1年前と比べて何が違うのかに注視します。同じ業務を1年間継続していた人でも、同じやり方・能力のままだったでしょうか。自分では違いに気づかなくても、他の人があなたの変化を読み取っていることがあるものです。
「自分が成長できた」と思えることを持ち寄ると、それぞれの人の“見方”が顕れてきます。自分にとって当たり前が他の人にとって当たり前とは限らない。違いに気づくことは、“自分”を知ることを意味しています。
「自分が成長した」背景には、いろんな出来事があり、いろんな関わりがあるものです。成長は、そのつながりの中で得られたものだということがわかってきます。
自分の成長と周りの人との関係に気づくことは、自分が周りの人にどんな影響を与えてきたのか、何か役に立つことができたのか、自分の役割と存在価値を考えるきっかけとなります。
この「ジブンガタリ」の場は、人事評価制度が導入されていない自治体でも気軽に実践できるものです。身近な職場からでもうまく活用いただければ、事業や業務の品質を向上していくPDCAサイクルを回す前提として、職員が自ら成長していくPDCAサイクルを回す習慣をつくるのに役立つことでしょう。