前回は、新年度のスタートに際し、協働関係にあるパートナーとのコミュニケーションの質を見える化してとらえることをご紹介しました。中でも一番大切なパートナーは、最も身近な自分の職場にいる同僚たちです。
今回から5回は、「職場で一歩踏み出す」ことをテーマにして、自分の身の回りの職場でどのように動き出せばいいのかをお伝えしていきます。
行政改革が進み、職場では予算と定数が削減されて効率化が求められています。一方、事業の企画や実行段階では、住民が参画する協働取組や、住民の理解や納得を高めるための説明責任を果たす役割が付加されてきました。そのため、これまでと同じ職務分掌であったとしても手間がかかり、業務量が増える傾向にあります。
これに伴い、職場の様子も変わってきました。一人ひとりが仕事をこなすことに精一杯になって、次第に自分の周りに目を向ける余裕がなくなってきたようです。
あなたは、仕事で「どうしたらいいか」と思い悩むことがあったとき、どうしていますか? 例えば、誰かの意見を聞きたいと、周りを見渡してみたとします。このときキョロキョロしているあなたの様子に気をとめてくれる同僚がいるでしょうか。
「どうしたの?」と声をかけてくれる人がいると、ラッキーです。「今この業務をやっているのですが、どうしたらいいかよくわからないところがあるんです」と悩みを打ち明けることができるからです。相手が気づいて声をかけてくれると、すぐに話ができますし、その人がすでに経験のある人ならば、「あぁ、これね・・・」と、即解決策が得られます。
もしくはその人がよくわからなかったとしても、「そうねぇ、このことなら○○さんのほうがよく知っているんじゃないかな?」と、助言をもらうことができるでしょう。ときには、「ねぇみんな、このこと知っている?」と声をあげて、職場中に呼びかけてくれるかもしれません。そうすると職場中から注目をあびて、少し気恥ずかしい思いもしますが、一気に職場内の衆知を集めることができます。
最初は、自分一人で困っていたことでも、「わからない」仲間が他にいれば恥ずかしさが減り、わからないことを堂々と口にしやすくなるものです。
そして、職場の中にさらにわからない人が増えてくると、“自分の問題”はいつしか“職場の問題”に変わっていきます。最初にたった一人でも気づいてくれる人がいるだけで、内に抱えている課題を解放し、解決する糸口が見えてくるものなのです。
一方、いくら周りを見渡しても、誰も気にとめてくれなかったとしたらどうでしょうか。各々がせわしく自分の仕事に追われていると、なかなか声をかけづらいものです。結果、自分から「すみません。ちょっといいですか?」と相手の様子を見ながら、声をかける必要がでてきます。
ただし、せっかく声をかけても、話しかけた相手から「ごめん。今ちょっと忙しいから、後にしてくれるかな」などの返事が返ってくると、次の人に声をかける気力はどっと萎えていきます。その結果、どうしようもなくなって、自分で問題を抱え込み、自力で道を切り開く算段をつけなければいけなくなってしまう。そんな経験はないでしょうか。
こんな状態が続くと、問題は解決できないまま先送りされ、仕事が足踏みすることになってしまう。さらには、仕事が進まないだけでなく、職場自体にも閉塞感が漂ってくることになるでしょう。メンタル面で支障をきたしやすい職員なら、ある日突然休むようになってしまうことにつながったとしても不思議ではありません。職場の問題は、内に抱え込むほどに見えにくくなっていくのです。
特に新規採用者や新任者の場合には、年度初めにはまだ仕事の要領を得ないため、「何を聞いていいのかさえわからない」ということがしばしばあります。最初からポイントを押さえ、的を射た質問をすることがままならず、話が長くなりがちです。このような話を受けとめて答えるためには、聞き取る側の人にも心の余裕が必要になってきます。
つまり、相談する人と相談される人、双方ともわずかな時間では、かえってすれ違ってしまうことになる。「さっき教えてもらったけれど、やっぱりよくわからない」「さっき教えたはずなのに、まだできていないのか」と未消化な部分を残してしまうことがあるのです。
そこで、忙しさが増し、余裕がなくなっている職場では、問題を小さいうちに吐き出して、拾い上げていくためには、「ささいなことでも疑問があればすぐに口に出す」きっかけをつくっておくことが大切です。その一つとして、朝や夕方のタイミングに短時間で行う朝礼や夕礼を活用する方法がお勧めです。
朝礼や夕礼で、ささいな疑問を共有し、解決につなげていく進め方のポイントは、3つあります。
「ささいな疑問」は、民間企業の特に製造業などで行っている危険予知のための「ヒヤリハット」情報と似ています。小さなうちに顕在化しておくことは、問題を先送りしない危機管理意識の醸成や、未然に対応する職場のリスクマネジメントにも結びついてくる大切な入口となるものです。
次回は、このきっかけをもとに、実際に相談をし合える関係を深めていくポイントをお伝えしたいと思います。