前号から「職場で一歩踏み出す」ことをテーマにお伝えしています。前回は、仕事で困ったときに声をあげて話をするきっかけをつくるポイントをお伝えしました。今回は、その先に相談し合える関係をいかに築いていくかについてお届けしたいと思います。
定数が削減されて仕事に追われる職場では、問題を一人で抱え込まず気軽に話せる機会を仕組みとして設けることが、仕事を滞らせず前に進めていくことに役立ちます。
特に、同じ職場にいる同僚ならば、「わからなかったこと」「疑問に思ったこと」についてのやりとりを最初は上司が提供したとしても、できるだけ疑問に答えるだけの単純なやりとりに終わらせず、これを機会になぜその疑問を持ったのかなどの問いかけをすることにより、背景にある事情や理由にまで踏み込んで知り合い、その後は自然と相談ができる関係をつくっていきたいものです。
なぜなら、少し手間はかかりますが、起きた問題を目先の対応にすませず、その根本にある要因にまで遡ってとらえることができれば、組織として生産性を高める業務改善に取り組むことにつなげられるからです。また、担当する職員に目を向けて意欲や能力を向上する育成に結びつけていけば、やりがいと働きがいのある職場をつくっていくことにも役立ちます。
これは、第4回のコラムでご紹介した「コミュニケーションの状態を“見える化”してとらえる」視点からコミュニケーションの質をとらえると、「レベル2 話をする」から「レベル3 理解する」に段階を高めていくことにあてはまります。
話をする機会からもう一歩踏み込んで理解を深めるためには、相手に対して以下のような “問い”を投げかけてみることがお勧めです。
小さな疑問は、課題の入口に過ぎないことが多々あります。疑問の先により大きな課題が控えているときには、もっと他に聞きたいことがあるかもしれません。本当に知りたいことは何だったのかを見過ごさないようにしておきましょう。もしその場では思いつかなくても、この問いかけをしておくだけで、追加の質問を継続してしやすくなるものです。
目の前の疑問を解決することが、プロセスの一つならば、疑問を解決した先にめざしていることは何でしょうか。本当の目的はどこにあるのかがわかれば、その担当者だけでなく、他の仕事とのつながりが見えてきたり、よりハイレベルなチャレンジをする必要性が見えてきたりするかもしれません。
質問をする人は、「わからない」ことに引け目を感じているものです。それが異例なことだったのか、いつもよくあることなのかを尋ねてみると、本人の得手不得手がわかってきます。そこから、同様の問題に遭遇しそうな場合には、予めスキルや能力を身につけておく対策を講じることができるようになります。
また、すでに「わかっている」ことが何だったのかを聞いておけば、強みだと確認することができ、他の人の助けになる側面がみつかります。職場では頼り頼られ、相互に教え合う関係があちこちにできてくると、職場全体の職員力と問題解決力が高まってきます。
仕事上のスキルや能力は、これまでの職場でどんな仕事をしてきたのか、あるいは、その人がそれまでの人生の中でどんな経験や活動をしてきたのか、その結果として備わっているものです。本人が成長してきた歩みがわかれば、今後職場で新しい関わりを築いたり、能力を高める方策を考えたりするときに、プロセスのツボを一緒にみつけやすくなるでしょう。
役所では、2~3年ごとに人事異動が行なわれていることから、担当業務が常に本人のやりたい仕事であるとは限りません。それだけに担当者が今の自分の仕事にやる気と能力を注いで力を尽くしていくためには、本人の志向と合致点を見出していくことが重要です。それが仕事への前向きさを築いていくうえで大切です。
これらの問いかけを通じて互いの関心が深まるにつれ、今の役職や担当業務の範囲を越えた“人として”深く理解し合う関係ができてきます。一度にすべてがわかるものではないでしょうけれど、このような問いを重ね合うことにより、個々の職員の間で相互理解の幅と深さが増し、職場全体で理解し合える関わりが増えてきます。
ここから、いつでも安心して気軽に何でも相談できる職場の基盤が備わってくると、コミュニケーションの質「レベル4 相談する」や「レベル5 協力する」への行動変化をもたらす素地になってくるのです。
次回は、思いを行動に変えていくための問題のとらえ方についてお届けします。