ベクトルを合わせて楽しみを増やす
~一歩踏み出すエネルギーの高め方

自治体職員のための組織風土改革《実践》講座 [第9回]
2014年9月

執筆者:株式会社スコラ・コンサルト 行政経営デザインラボ
    プロセスデザイナー/行政経営デザイナー
    元吉 由紀子(もとよし ゆきこ)氏

問題解決のために備えておくとよいポイント

本連載の第5回からは「職場で一歩踏み出す」をテーマに、周りの人へ相談するきっかけや関係の深め方、問題の感知と受け止め方について取り上げてきました。今回は、そこから問題解決に向けて動き出すときに、具体的に備えておくとよいポイントをお伝えいたします。これまでのおさらいをしながら、一歩踏み出す最後のひと押しとして読んでいただければと思います。

ベクトルを合わせる

前回(第8回)のコラムでは、困っている問題について「事実・実態をあるがままに受け止める」ことで、職場のみんなと問題意識を共有できるようにしました。

しかし、解決しようとしている問題が自分の仕事とはあまり関わりがない人にとっては「余計な仕事が増える」と感じられ、切実に困っている人の問題意識と同レベルで考えてもらうのはなかなか難しいものです。ここで大事になるのは、たとえ個別の問題であったとしても、そこへの取り組みが職場全体の課題解決へつながっていくことを感じ取ってもらうことです。そのために、解決の方向性を明示し、結束を固めておく、ベクトル合わせのための二つの方法があります。

「何のためか」の目的を付す

職場の中に問題があると感じ、困っている人は、何割(何人)ぐらいいるでしょうか。その割合が少ないほど、問題解決の必要性は低く感じられるものです。感じ方は、問題との距離の長さに反比例して弱くなりやすいものですから、その人たちにも協力を得る取り組みにするためには、単に声高に必要性を告げるだけでは不十分と言えます。

その場合には、個別の問題点から少し目を離し、その問題の解決が組織全体にとってどんな意味があるのか、目的をとらえて伝えていくことが重要です。そうすれば、実際に問題解決に関わって行動する人が少なかったとしても、自分たちの職場の問題として総論賛成が得られ、協力を断ることがしにくくなるからです。

ゴールイメージを思い描く

人は、目の前にある問題にばかり目が向いてしまいがちです。特に、組織の中で長年放置されてきた問題であれば、多くの人が取り組む前から「どうせ無理だよ」と思考が停止している場合があります。そんなときは、「できていない」事実を一旦横に置いて気持ちを切り替え、その問題が解決したとき何が得られるのか、問題となっている事象がなくなったらどんな状態になるだろうかといった、解決した後の姿をイメージすることが前向きになるうえで有効です。

担当者にとって、上司にとって、他部署の人にとって、さらにはサービスの対象者や住民、協働パートナーにとって、そして地域にとってどうか。解決後の新しい世界のイメージをそれぞれの立場から見える景色をもとに描いていきます。立場によって見える景色は異なるため、ゴールイメージは語り合うことを通じて共有できるようになってきます。

イメージするうえで大事なのは、「もし、この問題がなかったとしたら」という条件をつけることで「こうなれたらいいね」「こんなことができるかもしれない」ということを口に出して語ってみることです。今は到底実現できないと思えるようなことでも、「こうありたい」という思いを言葉にして重ね合わせていくと、将来のありたい姿のために問題を解決していく行動へと、皆のエネルギーを高めていくことができるようになります。

楽しみを増やす

問題への取り組みは誰かの困りごとや疑問が発端となり、そこに寄り添ってくれる人が集まって話し合うことから始まります。しかし、いつまでも「誰かの困りごと」のままでは、問題を解決することができたとしても「自分事」として喜びを感じにくいところがあるでしょう。そこで、この一連の問題解決の取り組みが、仕事や職場といった「事柄の成功」になるだけではなく、そこに関わった「人の成長」として喜びが得られるものにしておくひと手間を加えていきます。

きっかけは誰かのためだったとしても、なぜあなたはその悩みに耳を傾けたのでしょうか。「過去に同じような経験をした」「まさに今、自分も同様の問題にぶつかっている」「将来自分にも降りかかってくる問題に思える」など、自分としても類似の経験があり得ると思えたのかもしれません。

もしくは、「同僚が苦しんでいるのに放っておけなかった」「部下をしっかり育成・指導できるようになりたい」など相互の関係や、自分の立場上の責任が理由になっていることもあるでしょう。「住民に喜ばれるよりよい仕事にしたいから」「ストレスを抱え込まなくていい働きやすい職場にしたい」など、純粋な思いからかもしれません。

第6回のコラムで「深く知り合うための問いかけ」をいくつかご紹介しました。これは、お互いを理解し合い共感でつながりを深めるだけでなく、自分にとってその問題に関わり解決する意味がどこにあるのか、当事者意識を高めていくプロセスともなるものです。

問題解決の方向性を見出し具体的に行動していくことと、一人ひとりが自分にとってどうなのかの意味が加わることで、取り組みに意思と意欲が高まります。また、誰かの喜びをみんなの喜びと感じられる期待感が湧いてきて、新たな解決への道筋をみつける楽しみとねばり強さにもつながっていくでしょう。

いかがでしょうか。問題を抱え「問題だー」とひとりで悩むよりも、共に悩む仲間をみつけて、問題に向き合うところから、これから向かう方向とありたい将来像を描いて共有することに時間とエネルギーをかけてみてください。ここに一人ひとりのやる気を乗せていくことができれば、誰もが問題解決の当事者となり、それぞれの思いが合わさってより大きな力となって問題の解決に向けた一歩踏み出す行動を起こしていくことができると、私は確信しています。

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