基礎自治体とICT
 ~災害対策ではデータバックアップが最重要

ICT活用のヒント [第1回]
2013年12月

執筆者:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
    櫻井 美穂子(さくらい みほこ)氏

はじめに

「自治体×ICT」というテーマでこれから4回コラムを担当させていただきます、慶應義塾大学の櫻井美穂子と申します。
冒頭少しだけ自己紹介をします。

2011年から、慶應義塾大学SFC研究所にて、「自治体ICプロジェクト」の運営に携わっています。
このプロジェクトの目的は、全国の基礎自治体(市区町村)が共通に抱える地域課題解決のために、自治体首長間のネットワークを構築し、ICT利活用促進を図ることです。

全国1,400を超える基礎自治体に活動の案内を出して、参加団体を募集しました(結果、全国から38団体が参加)。

活動を始めた当初は、純粋に「ICT利活用による地域課題の解決」に関心の高い自治体や首長の参加を見込んでいましたが、蓋を開けてみると、ICT推進の予算や人員不足に悩む中小自治体の参加が多いことに気づきました。

実は、基礎自治体間の横のつながりはほとんど存在せず、他の自治体の動向などの情報を得る機会がない、ということも発見でした。

この活動については今後コラムの中で触れていくとして、初回では基礎自治体におけるICTの位置付けや組織課題についてお話したいと思います。

震災の被災自治体を調査して

2011年秋に、(財)地方自治情報センターとの共同調査研究の機会をいただきました。
同年3月に発生した東日本大震災の13の被災自治体(注)を回り、ICTの被災状況や復旧プロセスに関するフィールド調査です。
調査報告書は、ホームページ(https://www.j-lis.go.jp/kenkai/chyousakenkyuu/cms_92685924.html)で公開されておりますのでご関心ある方はご覧ください。

調査の過程でたくさんの発見がありましたが、その中で今後の自治体ICTを考える上で重要なのが、組織内のICTガバナンスの脆弱性とICT部門の「自助力」「受援力」の欠如だったと思います。
以下、それぞれについて説明します。

最大のダメージは「データ喪失」

東日本大震災は、ご承知の通り、広範囲に甚大な被害をもたらしましたが、自治体のICTに限って言うと、最大のダメージは「データ喪失」でした。

具体的に言いますと、我々が調査をした陸前高田市、大槌町、南三陸町の3市町において、庁舎水没によるサーバ室の壊滅的被害があり、住民基本台帳や戸籍等、自治体業務を遂行する上で必要不可欠な情報が失われる事態が発生しました。

各自治体とも有事に備えデータのバックアップをとっていましたが、バックアップ媒体がサーバ室内に保管されており同時被災した、あるいは媒体からのデータリストア(復元)ができなかった等の理由で使うことができませんでした。

結果、水没したサーバハードディスクからのサルベージ(データ復元)による復旧を試みて、復元が成功したものもありますし、成功せず永久にデータが失われたものもありました。

全庁統一のバックアップポリシーが重要

特に、業務主管課で(バックアップ含め)システムを運用し、情報システム係などのICT部門が運用状況を把握していなかったデータの喪失については、多くの職員が被災したこともあり、追跡が難しくなりました。

つまり、全庁のシステムに関するバックアップポリシーをICT部門で統括管理していた自治体はなく、ガバナンスが十分に効いていたとは言い切れない状況であったということです。

この現象はデータバックアップに限らず、業務主管課における新たなシステムの導入や運用ポリシーに関するICT部門の関与についても同様の現象がありました。

自治体組織におけるICT部門の位置付けは深淵な問題です。
自治体により考えが異なり、唯一の正解があるわけではありません。しかしながら、少なくともデータに関しては、全庁の統一ポリシーを策定し、庁内で共有していくことが重要であると思います。

災害時業務の遂行を可能にするためには

さらに、ICT部門において、災害発生時に自分たちで状況を打開する能力(自助力)及び外からの支援を受ける能力(受援力)が欠如していたことは否めません。
自治体の職員はプロパーで、ITの専門家ではありませんので当然ですが、民間事業者のサポートがないとシステムの復旧ができない自治体が多くありました。

さらに、被災地には被災を免れた全国の自治体からの応援職員が掛けつけましたが、普段利用しているシステムと違う、業務が専門的――等の理由で、ICT部門で外部職員の支援を受けることが難しい状況もありました。

民間事業者のサポートがすぐに受けられれば良いですが、相手も被災している可能性もあります。
災害発生時、少なくとも「初動」の段階は自分たちで災害時業務の遂行が可能となるよう日ごろ準備することが必要です。
その観点から、ICT部門における業務継続計画(ICT-BCP)の策定が非常に重要となってきます。
総務省から各種ガイドラインが出ていますので、是非ご覧ください。

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