前回は、災害時の自治体の「自助力」を高めるための情報システムデザインについて話をしました。
今回は、Frugal概念を自治体の災害対応業務に援用しながら、外部からの支援を受ける能力である「受援力」強化の方策について考えてみたいと思います。
前回、災害時の自治体の「自助力」を高めるために、復旧しやすいシステムを構築することが重要だと述べました。Frugal ISの考え方に基づき、今後、初動時に業務を遂行する上での具体的な方策として、次の4点をあげたいと思います。
(1)の前提として、まず初動時の業務を定義し、それらを遂行する上で必要なICT環境を特定しておくことが重要です。(2)(3)では、「日ごろ使い」がポイントとなります。
災害時のために特別に用意された環境(つまり、日ごろは使わない機器やネットワーク)は、いざという時には使えないということを肝に銘じることが大切です。
万が一想定外の事態が起こっても、最低限これらを満たしていれば、迅速で創造的な現場対応が可能となるのではないかと思っています。
第1回のコラムで、東日本大震災の被災自治体ICT部門では、他自治体からの応援を受ける能力=「受援力」が欠如していたと述べました。これは、ICT部門の業務が専門的で外部の人間には分かりにくいためです。
基礎自治体は様々な業務を行っていますが、業務遂行に必要な知識が属人化しがちで共有されにくいのがICT部門の特徴です。かつ、自治体職員が日ごろ利用するシステムの使い方等はベンダー毎に異なり、特定の自治体用にカスタマイズされている場合もあるため、同じベンダーのシステムを利用している自治体の職員でなければ使いこなせないという現状もあります。
それでも、各自治体が行わなければならない業務は、原則、全国共通なのだから、システムもアプリケーションも統一化できるのではないか、という意見もあります。実際、災害対応業務を遂行するための全国共通システム(被災者支援システム)も存在し、同システムを収めたCD-ROMが総務省から無償配布されています。
しかしながら、東日本大震災の被災自治体においてこのシステムをそのまま利用した団体はありませんでした。それぞれのニーズに合わせて改修するか、ニーズを満たす別のシステムを急ごしらえで開発するといった対応が、現場では行われていたのです。
自治体情報システムを共通化すれば、「受援力」は上がるはずです。その一方で、共通化に対する現場のニーズは高くはないのかもしれない、という疑問も残ります。
現場で発生する多種多様なニーズをいかに柔軟に組み込み全国共通に運用していくか。
この問いの一つの答えとして、筆者らは一昨年、拙著『自治体ICTネットワーキング』(慶應義塾大学出版会)にて、自治体業務の「アプリ化」という論点を提出しました。「アプリ」とは、仕組み化された共通課題のソリューションと定義しました。
ここで仮説的に提示したのは、インフラ(情報通信基盤)とアプリを分離させ、基盤上に乗せるアプリを共通課題と地域固有ニーズに分けるという、新しい自治体情報システムの利活用モデルです(下図ご参照ください)。
図:情報通信基盤、共通課題、地域固有ニーズの構造化
これは、自治体業務(何をするか?)が法律に基づき共通性が高い一方で、処理方法(どのように行うか?)については地域性がある、という認識に基づいています。
前者をソフトウェア(ここでいうアプリ)として共通化しながら、地域固有のニーズに対しては、インターフェースとして、自治体が独自に、OSS(オープンソースソフトウェア)を活用しながら構築していく――という絵を描きました。クラウドコンピューティングの発達等により、このような構想を実現しやすい環境が整いつつあります。
情報通信技術の進展や上に示した開発モデルは、ICT導入・運用費用の捻出に苦労されている中小規模の自治体にとって、ICT関連コストを抑え、それどころか新たな収入源をもたらす可能性を秘めていると考えています。
詳しくは次回にお話したいと思います。