勤怠管理システムの必要性について【前編】
医師の働き方改革について~病院における取り組み事例から~
2023年11月

執筆者:株式会社 アイ・ピー・エム
    メディカル事業部長
    小西 英樹(こにし ひでき)氏

医師の働き方改革

  • これまでの我が国の医療は医師の長時間労働により支えられており、今後、医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想される。
  • こうした中、医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することは、医師本人にとってはもとより、患者・国民に対して提供される医療の質・安全を確保すると同時に、持続可能な医療提供体制を維持していく上で重要である。
  • 地域医療提供体制の改革や、各職種の専門性を活かして患者により質の高い医療を提供するタスクシフト/シェアの推進と併せて、医療機関における医師の働き方改革に取り組む必要がある

出典:厚生労働省ホームページ

こういった状況の中、医師のみならず医療従事者全員においても「働き方改革」が求められている現状がある。現在、各医療機関においても様々な取り組みが検討されていると思われるが、今回は、A病院における働き方改革の一環として、「勤怠管理システム」の必要性について取り組んだ事例をご紹介したい。

事例

A病院では、2022年度(令和4年度)の中途からではあったが、勤怠管理システムを導入することを決めた。

導入の背景

1. 労働基準監督署の指摘

2015年度(平成27年度)に労働基準監督署の調査があり、「職員の客観的な労働時間の把握がなされていない。」と指摘を受けた。A病院では、今回のシステム導入前までは、出勤簿と出退勤簿という自己申告の書類でしか職員の出退勤時間を管理できておらず、A病院において一人の職員が1日に勤務すべき時間である7時間45分(拘束時間)を実際に勤務したのか確認できるものがなかった。よって30分程度の遅刻や早退は容易にできたと思われた。

また、時間外労働の申請については、超過勤務命令簿(本来であれば上司が事前に命令)をカレンダー形式で記入し、毎月提出することで行っていた。

2. 2024年度(令和6年度)からの医師の働き方改革の法制化

令和6年度から法制化されることになった医師の働き方改革の施行に伴い、病院管理者は、医師ごとの月あたりの総労働時間を把握する必要に迫られた。因みにA病院で、システム導入前の各医師の月ごとの時間外労働時間を約1年間分調査したところ、A水準(一般労働者と同じ)である960時間を超える医師は2~3名しかいなかった。そのため、A病院では、「A水準を維持するという方針」が、病院幹部会で決定されたのである。

これら1及び2より、A病院では、勤怠管理システムの導入を余儀なくされ、2022年度(令和4年度)の中途からではあったが実運用を開始することになった。

業者選択

「医師の負担が少ない時間管理が可能なシステム」ということを最優先として業者選択を行い、11社から選出することとした。

様々な打刻方法の違い

  • タイムレコーダに代わるICカード打刻
  • PCやスマートフォンによるWeb打刻
  • 顔認証や静脈認証

しかし、いずれも医師が出勤・退勤の際に、自ら打刻しなければならないものであったため、緊急呼び出しや夜勤又は当直のある医師には適さないと判断し、「ビーコン打刻(注)」ができる6社に絞り込むこととした。その中でも、内容、コスト及び多職種への拡張等を考慮し、X社のシステムとY社のシステムの2社を比較検討した。

注:ビーコン打刻とは、医師がキーホルダーのような発信機を携帯し、出入り口等に設置した受信機付近を通過することで自動的に打刻されるものである。

今回は、病院勤務医には、ビーコン打刻が最もマッチすること、そして、その結果、X社とY社の2社まで絞り込んだところまでとし、次回は、2社の比較と導入後の問題点等について記述したい。

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