勤怠管理システムの必要性について【後編】
医師の働き方改革について~病院における取り組み事例から~
2023年12月

執筆者:株式会社 アイ・ピー・エム
    メディカル事業部長
    小西 英樹(こにし ひでき)氏

医師の働き方改革

  • これまでの我が国の医療は医師の長時間労働により支えられており、今後、医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想される。
  • こうした中、医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することは、医師本人にとってはもとより、患者・国民に対して提供される。医療の質・安全を確保すると同時に、持続可能な医療提供体制を維持していく上で重要である。
  • 地域医療提供体制の改革や、各職種の専門性を活かして患者により質の高い医療を提供するタスクシフト/シェアの推進と併せて、医療機関における医師の働き方改革に取り組む必要がある。

出典:厚生労働省ホームページ

A病院では、令和4年度の中途からではあったが、勤怠管理システムを導入することを決め、病院勤務医には、ビーコン打刻が最もマッチすると判断された。

その結果に基づいて、最終的に絞り込んだ2社のシステムの比較と勤怠管理システム導入後の問題点等について記述したい。

2社の比較

1. 労働者目線・管理者目線

労働者目線

  • X社のシステムは画面表示も見やすく、申請が簡単である。
  • 出力帳票も綺麗なひな形でY社を上回るクオリティであった。

管理者目線

  • X社のシステムは出勤時間2時間おきの奇数時間にしか更新されない。
    →始業である8時30分の在勤が不明
  • ビーコンシステムと勤怠管理システムの連結がないため、採用退職時は、両システムで別々に職名や氏名等の登録が必要

2. 金額

X社・・・初期費用70万円、ランニングコスト70万円/年

Y社・・・初期費用350万円、ランニングコスト0円
    利用者が増えても追加料金なし
    但し、ビーコン及び受信機の増設時には負担あり

これら1及び2の比較により、A病院では、Y社の勤怠管理システムを導入することを決め、その際、医師とは別に、事務職も勤怠管理を始めることとし、打刻方法はWeb打刻とした。

(注)Web打刻とは、各職員がインターネットからX社のシステムにアクセスし、IDとパスワードでログインし、出勤時間及び退勤時間等を自ら記録するもの

導入後の問題点

1. 医師及び事務職員以外への拡張

当直体制であるメディカルスタッフは、インターネット端末の配置数が十分でないことを除けばWeb打刻でも容易に導入できるが、2交代制である看護師は、職員数に比べてインターネット端末の配置数が極端に少ないことからもビーコン打刻となるが、各職員に配るビーコンの費用及び受信機の費用がかかることと、出勤時間は一方では別の職員の退勤時間となること等が懸念材料となった。

2. 超過勤務命令簿(紙ベース)の継続

通常勤務者は、終業時間である17時15分を超えた時刻で打刻することになるが、例えば18時15分に打刻した職員のこの終業時間との差(60分)をすべて超過勤務と見做すことは費用面からしても適切ではない。つまりこの60分を時間外労働なのか自己研鑽のための時間なのか把握する必要があり、必然的に紙の超過勤務命令簿は継続せざるを得ないと判断された。

3. 有給休暇簿の継続

A病院が導入したY社の勤怠管理システムは、休暇申請もできるがその際、申請者と承認者が1対1でしか設定できない。

例えば事務職でいえば、

  • 課長の休暇申請は事務部長が承認   1対1 ○
  • 係長の休暇申請は課長が承認     1対1 ○
  • 係員の休暇申請は係長→課長が承認  1対2 ×

このように1休暇申請に対して複数人が承認するケースが組織上存在することもあるので、紙ベースの有給休暇簿は継続せざるを得ないと判断された。

まとめ

A病院では、勤怠管理システムの導入で医師等の職員の客観的な勤務時間を記録し、把握することができるようになったが、紙ベースの超過勤務命令簿や有給休暇簿は引き続き使用せざるを得ない状況である。運用に変化はないものの勤怠管理システムの導入費用だけが余分なものとなり、労働基準監督署の指摘を回避するための支出は大きかったと言わざるを得ない。

今後、A病院の課題としては、今回実現した医師及び事務職員の勤怠管理に留まらず、看護師やメディカルスタッフの客観的な勤怠管理をいかに行うかを検討し、更なる支出を良しとする覚悟があるかということであろう。

上へ戻る