前回は、看護師に係るいくつかの手当や福利厚生の面から離職率の高い看護師をいかに定着させるべきかについて触れたが、今回は、日々勤務を続けている病院職員の人事評価について記載する。
「人事評価」とは、一般的には企業に所属する職員の評価を決め、何をどう与えるかを決定することである。職員の給与やボーナス、役職などに反映するため職員のモチベーションに大きく影響し、また、職員の育成方針を決める際の材料にもなるものである。
人事評価と似ている「人事考課」も、職員を評価する制度のひとつである。一般的には人事評価も人事考課も大差なく、同じ意味として使われていることがほとんどであるが、厳密には違いがある。
「人事考課」は、職員の待遇や処遇の決定を目的に能力をベースに評価するものであり、一方、「人事評価」は、職員が行った業務やその成果をベースに行う評価となる。
メリット | デメリット |
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評価制度は、「何を評価するのか(評価の対象)」と「どのくらいの配分で評価するのか(ウェイト)」の2つを決めることで運用を開始できる。
「どういった課題が解決できたか?」という定性的な評価が中心となるもの
担当する業務や求められる役職を遂行するために必要な能力や知識、資格を持っているかという点で評価する方法
仕事に対する姿勢を評価対象としたもの
【例】「チームの方針に合った行動を行い、チームに対して有益な情報共有を積極的に行う」というように、仕事に対する責任性や周囲とのチームワークなど、仕事に取り組む上で理想的な状態を決め、どこまで近い取り組みができるかを評価。 |
評価対象を決定した後は、それぞれの評価項目のウェイト(比重)を決定していく。
ウェイトの配分は、等級や役職だけでなく、部署や職種ごとにも調整する。
一般的には「期待成果」「期待行動」「知識・技術」「勤務態度」の4項目によって職員評価を行う。
【例】 以下の点数と重みづけした達成率をかけて合計する。 <点数> 期待成果40点 <達成率> 特に優秀1 |
業績が高い職員の行動特性(コンピテンシー)からパターンを事前にモデル化し、それに沿って行動する職員を評価するもの。実際に、病院に貢献している職員の行動パターンを分析し、目標達成にどういう評価をすれば良いか明確になるので、人材育成の面でも有用である。
メリット | デメリット |
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職員が自主的に目標を決めて病院と認識を共有して管理していく方法。
つまり、職員と病院双方の目標が同じベクトルであるか常に確認しながら職員が病院に貢献していると認識すれば、さらに意欲は高くなる。
なお、設定する目標はなるべく具体的にし、到達するためのプロセスも具体的に定めることが大切である。
メリット | デメリット |
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上司はもちろん同僚、部下、異なる部署の職員が一人の社員を評価する方法。
この評価方法は、評価を可能な限り客観的で公平なものにすることが狙いであるが、360度評価を取り入れ、複数人に評価されることによって、自身の評価が多面的になり、評価に対する納得度も上がる。また、評価を通して自身を客観視することができるようになり、今まで気づいていなかった評価ポイントや努力すべき点を見つけやすくなるため、仕事への「モチベーションの向上」や「キャリアアップ」に役立つものとなる。
また、部下による評価を受けた上司も、部下の働きやすさの向上を検討する機会となり、360度評価は、上司と部下、双方の従業員満足度を向上させる目的でも取り入れられる評価制度である。
メリット | デメリット |
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被評価者との人間関係が良くないと同じ行動をしていても、どうしても悪い評価をしてしまう傾向にある。人間であれば、どうしても個人的な好き嫌いはあるが、評価の際には、なるべく定量的なデータや行動から評価を行うことが重要である。
評価担当者によって甘辛が異なると評価される側に不満が生まれることから、評価者同士でどういった根拠でどう評価を行ったのか擦り合わせを行うことが重要である。また、過去にどういった目標設定や評価が行われたのか、他の医療機関ではどのような評価が行われているのか参照することも時には必要となる。
例えば、10月~3月が評価機関で3月末にその評価を行う場合、2・3月の行動を基にしか評価されないということが起こりがちになる。
こういった事例を防ぐには、定期的に評価者と被評価者で目標の擦り合わせを行ったり、評価項目に対する進捗を確認し合ったりすることが重要となる。
人事評価では見えない、日頃の行動を賞賛・応援することが大切である。
人事評価において、目標管理制度(MOB)や360度評価にも多くのメリットがあるが、筆者は、実践的な評価基準を基に評価できることや、評価者による「ブレ」が生じないことを重要と考え、コンピテンシー評価を推奨する。
また、評価者や非評価者をはじめ、人事担当者の労力軽減を図ることはもとより、データベース化による評価結果の構築・活用など、より効率かつ効果的な制度としていくためにも、従来の紙ベースによる評価ではなく、システム化を推奨する。
いずれにせよ人事評価は、秘密裏に行われるべきものではなく、適宜評価者と被評価者が面談等を行うことで、透明性のある評価としなければならない。そして、その透明性のある評価は、病院全体が病院理念や基本方針という同じベクトルを目指すことに繋がっていくのである。