令和6年度は、6年に1度のタイミングで3制度(医療・介護・障害福祉)の報酬が改定されるトリプル改定の年となる。これは、医療が2年に1度、介護と障害福祉が3年に1度の改定となるためで、3つの制度間の調整が行われる可能性が高く、大規模な改定となりえるため注目されている。
そこで今回は、「その1」として、診療報酬の改定利率と薬価の引き下げについて触れた後、令和6年度診療報酬改定における主な改定項目に挙げられている賃上げに伴う基本料等の引き上げ等について記載する。
まずは、改定スケジュールについて記載する。
改定施行日が史上初めて6月1日となったことは今後の改定にも影響するであろうし、その影響で施設基準の届出が5月2日~6月3日となっていることは注目すべきで、医療機関は6月1日からの新たな算定に向けてしっかりと準備しなければならない。
2カ月後倒しとなるため、告示から施行までの期間に余裕が生まれるので、改定内容の周知やシステムのスムーズな移行を期待したい。
以下に示した(1)~(4)を+-すれば、表面上は0.88%のプラス改定となる。
※うち各科改定率:医科+0.52%、歯科+0.57%、調剤+0.16%
これにより国費負担が約800億円増えることになるが、患者負担増・保険料負担増となることは避けられないようだ。
区分 | 増減 |
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(1)看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種(下記※に該当する者を除く)について、令和6年度にベア+2.5%、令和7年度にベア+2.0%を実施していくための特例的な対応 | +0.61% |
(2)入院時の食費基準額(標準負担額460円)を1食あたり30円引上げするもの(うち、患者負担については原則1食あたり30円、低所得者については所得区分等に応じて10~20円の引き上げ) | +0.06% |
(3)生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化 | ▲0.25% |
(4)(1)~(3)以外の改定分 ※40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分(+0.28%程度)を含む |
+0.46% |
(2)は、1997年以来、約30年ぶりの見直しで、物価高の影響で食材料費が高騰していることと、昨今の給食委託費の上昇対策のためとのことであるが、病院給食の最低限の水準維持にはやむを得ないと思うところである。
(3)は、特定疾患療養管理料の対象から「糖尿病」「高血圧」「脂質異常」が除外されるため、生活習慣病管理料の算定への注目が高まっている。
恐らく生活習慣病管理料(Ⅰ)及び(Ⅱ)の算定が、内科系のクリニック等で急増することが予想される。
これは、従来の「生活習慣病管理料」を「生活習慣病管理料(Ⅰ)」と名称変更し、これには検査、注射、病理診断等が包括され、点数は糖尿病760点、高血圧660点、脂質異常で610点となっている。
一方、生活習慣病管理料(Ⅱ)は、疾病に関係なく333点で検査等を包括しないものとなっている。
(4)の(0.28%程度)の賃上げについては、患者負担(窓口負担)増・保険料負担増を招くため、医師よりも所得の低い人の負担を引き上げてまで「一般的に高所得者である医師」の賃上げを行うのかという疑問が残り、それなりの理由が必要と思われる。
診療側と支払側で評価が異なっていることによるものであり、今後の動向に注目したい。
区分 | 内容等 |
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(1)薬価 | 医療費ベースで▲0.97%(令和6年4月1日施行) 薬剤費ベースで▲4.67%(令和2年度▲4.38%、令和4年度▲6.69%) |
(2)材料価格 | ▲0.02%(令和6年6月1日施行) 薬価で約1,200億円、材料費で約20億円の医療費削減効果があると予想されている。 |
まとめると、+0.88%の診療報酬改定といっても薬価(▲0.97%)と材料価格(▲0.02%)で約1%医療費は下がるので、0.12%のマイナス改定なのか?
実態はどうなるのだろうか・・・
■医師・歯科医師を除く医療従事者
医療従事者の人材確保や賃上げのためのベースアップ評価料により2.3%を目途とした賃上げを実施するために新たな評価を行うものとして新設されたが、実際にどの程度の賃上げが実現したのか注目したい。
厚生労働省としては、令和5年度比で令和6年度に2.0%以上、令和7年度に4.5%以上の賃上げを謳っている。
<対象となる医療従事者>
薬剤師・保健師・助産師・看護師・准看護師・看護補助者・理学療法士・作業療法士・視能訓練士・言語聴覚士・義肢 装具士・歯科衛生士・歯科技工士・歯科業務補助者・診療放射線技師・診療エックス線技師・臨床検査技師・衛生検査 技師・臨床工学技士・管理栄養士・栄養士・精神保健福祉士・社会福祉士・介護福祉士・保育士・救急救命士・あん摩 マッサージ指圧師、はり師、きゅう師・柔道整復師・公認心理師・診療情報管理士・医師事務作業補助者・その他医療に 従事する職員(医師及び歯科医師を除く。) *医師・歯科医師及び専ら事務作業を行うものは含まれない(医師事務作業補助者、看護補助者等が医療を専門とする職員の補助として行う事務作業を除く) |
■40歳未満の勤務医師や事務職員の賃上げ及び入院料の通則の改定に伴う入院基本料等の引き上げ(+0.28%の改定)
<対象となる医療従事者>
40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置 |
■賃上げに向けた評価の新設(+0.61%の改定)
区分 | 内容等 |
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(1)外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ) | 初再診料等と合わせて算定可能
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(2)外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ) | 初再診料等と合わせて算定可能
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(3)入院ベースアップ評価料 | 入院基本料等と合わせて算定可能で必要点数を1~165点に細かく分け、医療機関ごとに点数を設定するもの。 ※外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の届出を行っている医療機関が対象。 |
(1)栄養管理体制の基準の明確化とは・・・
管理栄養士をはじめとして、医師、看護師、その他医療従事者が共同で栄養管理を行う体制を整備し、あらかじめ栄養管理手順(標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価、栄養管理計画、退院時を含む定期的な評価等)を作成すること。
ここでは、対象患者全てに栄養スクリーニングの実施が義務付けられたことが注目すべきところである。
(2)人生の最終段階における意思決定支援とは・・・
医師等の医療従事者から本人・家族等へ適切な情報提供と説明がなされていることが前提で、多専門職種からなる医療・ケアチームと十分話し合いを行い、本人の意思決定を基本として医療を進めること。
具体的には、ガイドライン等の内容を踏まえた適切な意思決定支援に係る指針の作成を要件とする入院料の範囲が拡大される(小児特定集中治療室管理料、総合周産期特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料等もその対象となった)。
また、ガイドライン等の内容を踏まえた適切な意思決定支援に係る指針の作成が、以下の届出を行う医療機関の要件に追加されることになった。
(3)身体的拘束の最小化の取組を要件化
入院料の施設基準に、「患者又は他の患者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き身体的拘束を“禁止”」するもの。
施設基準の中には、医師及び看護師による身体的拘束最小化チームの設置が義務付けされることと、最小化するための指針を作成し職員に周知することが必須となる。
その基準を満たすことができない保険医療機関は、入院基本料の所定点数から1日につき40点が減算されることになる。
この減算は、入院患者全てに関わってくるため決して無視できないとともに、倫理的にもきちんと整備したいものである。
(4)標準的な感染対策実施と賃上げを念頭においた初再診料の引き上げ
外来診療において、標準的な感染防止対策を日常的に講じることが必要となったことと、職員の賃上げを実施すること等の観点から、初診料と再診料がそれぞれ引き上げられる。
項目 | 現行点数 | 改定後 | 増減 |
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初診料 | 288 | 291 | +3 |
初診料(情報通信機器を使用) | 251 | 253 | +2 |
再診料 | 73 | 75 | +2 |
再診料(情報通信機器を使用) | 73 | 75 | +2 |
外来診療料 | 74 | 76 | +2 |
外来診療料(情報通信機器を使用) | 73 | 75 | +2 |
最後に、日本看護協会の資料より次の図をお示しし、今号を終了とする。
対象職員の給与総額を+2.3%相当引き上げる際に、必要となる総額を診療報酬の点数でどのように対処するかが課題となるであろう。
今回は、概要の記載と令和6年度診療報酬改定における主な改定項目の賃上げ・基本料等の引き上げについて触れたが、次回は、「医療DXの推進」と「重症度、医療・看護必要度の該当患者の要件見直し」等について記述したいと考えている。