令和6年度診療報酬改定(その4 総集編) 2024年8月

執筆者:株式会社 アイ・ピー・エム
    メディカル事業部長
    小西 英樹(こにし ひでき)氏

前回までで3回の連載となった筆者の「令和6年度診療報酬改定」に係るコラムであるが、今回は“その4(総集編)”となる。
読者に伝え忘れている内容はないか?もう一度振り返ってみる。

1.特定集中治療室管理料の見直し

入院料等の通則の見直しについては、筆者のコラムにおいて既に2度ほど触れさせてもらったが、今回は、特定入院料の中で大きな改定となった特定集中治療室管理料の見直しに少し触れておきたい。

1)主な変更点

  • ICU1~4について、「治療室内に常時勤務する専任の医師」は「宿日直を行う医師ではない」「治療室勤務時間帯は、治療室以外での勤務・宿日直を併せて行ってはならない」ことが明確化された。
  • ICU5・6を新設し、こちらでは「治療室内に常時勤務する専任の医師」の中に「宿日直を行う医師」を含めることを認める。
  • 重症度、医療・看護必要度は、“Ⅱ”を用いて評価し、基準を満たす患者が7割以上は必要。
  • A項目から「輸液ポンプの管理」が削除され、また、「点滴ライン同時3本以上」は「注射薬剤3種類以上の管理」に変更となる。
  • A項目「3点以上」→「2点以上」に軽減される。

特定集中治療室管理料 新・旧比較表

区分 条件 新(改定後)
点数(1日につき) 点数(1日につき) 施設基準概要
ICU1・2 7日以内 14,211点 14,406点 専任の医師(宿日直不可)
入院日SOFAスコア
5以上が1割以上
8日以上 12,633点 12,828点
ICU3・4 7日以内 9,697点 9,890点 専任の医師(宿日直不可)
入院日SOFAスコア
 3以上が1割以上
8日以上 8,118点 8,307点
ICU5・6 7日以内 - 8,890点 専任の医師(宿日直可)
8日以上 7,307点

ここで、SOFAスコアのおさらいをしておきたい。

下記の表における項目毎の点数合計がSOFAスコアとなる。

項目 点数
0点 1点 2点 3点 4点
呼吸器
PaO2/FiO2(mmHg)
≧400 <400 <300 <200
+呼吸補助
<100
+呼吸補助
凝固能
血小板(×103/μL)
≧150 <150 <100 <50 <20
肝機能
ビリルビン(mg/dL)
<1.2 1.2~1.9 2.0~5.9 6.0~11.9 >12.0
循環機能
平均動脈圧(MAP)(mmHg)
MAP≧70 MAP<70 DOA<5γ
あるいは
DOB使用
DOA5.1~15
あるいは
Ad≦0.1γ
あるいは
NOA≦0.1γ
DOA>15γ
あるいは
Ad>0.1γ
あるいは
NOA>0.1γ
中枢神経系
GCS
15 13~14 10~12 6~9 <6
腎機能
クレアチニン(mg/dL)
<1.2 1.2~1.9 2.0~3.4 3.5~4.9 >5.0
尿量(mL/日) - - - <500 <200

2)特定集中治療室遠隔支援加算の新設

1)の新旧比較表の中で、ICU5及び6はICU3及び4より1,000点低いことがわかるが、このように治療室内に専任の常勤医師が配置できない医療機関を救済する意味で、特定集中治療室遠隔支援加算として980点が加算されることになった。

この対象は、ICU5及び6を算定する医療機関で、ICU1及び2を算定している医療機関と「24時間体制支援」の契約を結び、特に、夜間帯等に支援を受ける側のICUの患者状態を遠隔ICTにより補助し、処置等の必要性について専門的な立場から助言をもらうことで980点が算定できるのであるが、この加算によりICU3及び4に近い点数が算定できることになる。

しかしながら、データ転送装置の設置に係る費用や先方の医療機関へ業務委託等に係るフィーを支払う必要があるので、この9,800円の加算は、十分といえるのだろうか?

医療機関としては、院外への診療データを転送することになるので、情報セキュリティ上、最も慎重な対応が必要となることを忘れてはならない。

2.介護保険との連携が評価されたもの

協力対象施設入所者入院加算

介護保険施設等の入所者の病状急変時における適切な対応及び施設内における生活の継続支援を推進する観点から、介護保険施設等の入所者の病状の急変時に当該介護保険施設等に協力医療機関として定められている保険医療機関であって、当該介護保険施設等と平時からの連携体制を構築している保険医療機関の医師が診察を実施した上で、入院の必要性を判断し、入院をさせた場合の評価が下記のとおり新設された。

区分 内容等
協力対象施設
入所者入院加算
(入院初日)
1)往診が行われた場合600点
2)1以外の場合200点
対象医療機関 在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、在宅療養後方支援病院、地域包括ケア病棟入院料に係る届出を行っている病棟又は病室を有する病院
算定要件 (1) 協力対象施設入所者入院加算は、介護保険施設等において療養を行っている患者の病状の急変等により入院が必要となった場合に、当該介護保険施設等の従事者の求めに応じて当該患者に関する診療情報及び病状の急変時の対応方針等を踏まえて診療が行われ、入院の必要性を認め入院させた場合に、入院初日に600点が算定できる。
(2) 協力対象施設入所者入院加算の2)については、1)以外の場合であって、当該保険医療機関が当該介護保険施設等の従事者の求めに応じて当該患者(救急用の自動車等により緊急に搬送された者を除く)に対し診療を行い、入院の必要性を判断して入院した場合について所定点数に加算するもの(往診がなくても入院した場合には200点が加算できる)。
(3) 当該保険医療機関と当該介護保険施設等が特別の関係にある場合、協力対象施設入所者入院加算は算定できない。
施設基準
(概要)
(1) 当該医療機関が介護保険施設等から協力医療機関として定められている等、緊急時の連絡体制及び入院受入体制等を確保していること。
(2) 次のアまたはイのいずれかの要件を満たすこと。
ア 次の(イ)及び(ロ)に該当していること。
(イ)入院受入れを行う保険医療機関の保険医がICTを活用して当該診療情報及び病状急変時の対応方針を常に確認可能な体制を有している。
(ロ)介護保険施設等と当該介護保険施設の協力医療機関において、当該入所者の診療情報及び急変時の対応方針等の共有を図るため、年3回以上の頻度でカンファレンスを実施している。
イ 介護保険施設等と協力医療機関として定められている医療機関において、当該入所者の診療情報及び急変時の対応方針等の共有を図るため、1月に1回以上の頻度でカンファレンスを実施している。
(3) 介護保険施設等に協力医療機関として定められており、当該介護保険施設等において療養を行っている患者の病状の急変等に対応すること及び協力医療機関として定められている介護保険施設等の名称について、当該保険医療機関の見やすい場所及びホームページ等に掲示していること。
感染対策
向上加算

感染対策向上加算は、加算1(710点)、加算2(175点)、加算3(75点)と点数に変更はないが、加算1の施設基準に次の内容が追加され、益々介護保険との連携が重要視されるようになった。

<介護保険施設からの求めがあった場合>

ア)施設に赴いての実地指導等感染対策に関する助言を行う(このことは、感染制御チームの専従業務とみなされる)。
イ)院内感染対策に関する研修会を介護保険施設と合同で実施することが望ましい。

3.新設された救急患者連携搬送料

これは、救急外来を受診した患者や救急搬送された患者が、その症状の対応に相応しい医療機関で受診すべきであるという趣旨から新設されたものと筆者は理解している。

表にまとめると以下のとおりとなる。

区分 内容等
救急患者
連携搬送料
1)入院中の患者以外の患者  1,800点
2)入院1日目の患者      1,200点
3)入院2日目の患者       800点
4)入院3日目の患者       600点
算定要件 救急外来を受診した患者に初期診療を実施した後、連携する医療機関において入院医療を提供されることが適当であると判断した上で、医師、看護師又は救急救命士が同乗の上、搬送を行った場合に当該医療機関が算定できるもの。
施設基準
  • 日頃より救急搬送に相当の実績があること。
  • 救急患者の転院体制について、予め連携する医療機関と協議を行っていること。
  • 搬送を行った患者の臨床経過について、転院搬送先の医療機関から診療情報の提供が可能な体制が整備されていること。
  • 搬送後の患者の病状急変に備えた緊急の診療提供体制が確保されていること。

4.その他、触れておきたい加算

1)診療録管理体制加算1(140点)

  1. 専任の医療情報システム安全管理責任者(注)の配置は、200床以上の病院に義務付けられた(元々400床以上の病院がその対象とされていたが、より厳しくなった)。

    (注)医療情報システム安全管理責任者は、情報セキュリティ方針の策定及び教育・訓練を含む情報セキュリティ対策を推進することが求められており、経営層がその役割を担うことが想定されている。
    具体的には、サイバー攻撃発生時には、医療情報システムの停止を受けて診療の停止を指示できるのは、病院長クラスの人材となるが、これは、あくまでも「スィッチを押す人材」であって、「今停止すべきだ!」と判断し、病院長クラスにサジェスチョンする専門分野の人材が必要となるが、そのようなスキルを持った人材の育成が課題となる。

  2. 医療情報のバックアップは、複数の方式で確保する必要があり、その一部は、ネットワークから切り離した保管でなければならない。
  3. 業務継続計画(BCP)を策定し、少なくとも1年に1回の訓練・演習の実施と改善に向けた対応が必要である。

診療録管理体制加算2より40点高い分、上記(1)(2)(3)のやっかいな施設基準の対応を強いられることになる。

2)看護補助体制充実加算(55点)が細分化

療養病棟入院料の看護補助体制充実加算が以下のとおり3つに分けられた。

区分 点数 内容等
加算1 80点 看護補助者として3年以上の経験を有する者が全体の5割以上配置
※看護補助者の質が問われるようになってきた。
加算2 65点 看護補助者は常時100対1以上配置
加算3 55点 従来の点数

3)救急医療管理加算2(420点)の要件が変更

救急医療管理加算2を算定する場合のうち、「その他の重症な状態」で算定する患者の割合が高い医療機関(患者全体の50%以上)にはペナルティ措置が導入された。

ペナルティの内容

所定点数(420点)の半分を算定(入院の日から7日を限度とする)
※「その他の重症な状態の患者」では、420点満点は頂けない!ということである。

終わりに

今回号をもって令和6年度の診療報酬改定に関する筆者のコラムは終了とする。

令和6年度の診療報酬改定は、6年に1度となる医療・介護・障がい福祉の3制度が改定されるトリプル改定の年となった。また、改定施行日も史上初めて6月1日となった。

今回の改定内容(ボリューム)の割には、医療機関の対応が落ち着いているように感じるのは、筆者だけであろうか?

一般的に大きな人事異動が多く行われる4月1日を改定施行日とはせず、それを2カ月ずらしたことは良策であったと。そして、ぜひ2年後もそうあってほしいと願っている。

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