臓器移植について(後編) 2024年10月

執筆者:株式会社 アイ・ピー・エム
    メディカル事業部長
    小西 英樹(こにし ひでき)氏

前回は、臓器移植について(前編)として、まず、「臓器移植とは」「脳死とは」提供する際及び受け入れる際の「4つの権利」また、日本臓器移植ネットワーク(以下「JOT」という。)の役割等に触れたが、今回は、我が国の臓器移植の現状や問題点等に触れてみたいと思う。

対応が困難で断る事例あり

脳死者から提供された臓器の移植手術を行う大学病院が臓器の受け入れを相次いで断念しているケースがあるらしい。具体的には、手術実績上位の東京大学、京都大学、東北大学の断念例が、2023年の1年間で計62件に上っていたことが、日本移植学会の緊急調査でわかったという。

主な理由

  1. ICUの満床(20件)
  2. 手術室の態勢が整わない(12件)
  3. 同日に2件の移植手術を実施した翌日は移植しない院内ルールのため(10件)

などで、施設や人員の脆弱性が浮き彫りになっている。

受け入れ断念数の内訳

  • 大学別
    東京大学36件、京都大学19件、東北大学7件
  • 臓器別
    肺36件、肝臓16件、心臓10件

臓器移植希望者

2023年4月30日現在、JOTに登録している移植を希望する患者は、15,517人という。

JOTホームページ記載のデータ(2023年4月30日時点)より作成

JOTホームページ記載のデータ(2023年4月30日時点)より作成

臓器移植の実績

1997年から2022年までに、国内での臓器移植はあわせて7,071件行われている。

一方、移植を待機している間に死亡した人は、合計7,949人。移植者数は増加傾向にあるが、待機中の死亡者数もこの10年あまりで年間300~450人ほどで推移している。

この数字は、1週間に約6~8人が、臓器移植待機中に亡くなっていることになる。

JOTホームページ記載のデータ(2023年4月30日時点)より作成

JOTホームページ記載のデータ(2023年4月30日時点)より作成

諸外国との比較

日本の臓器移植件数は、アメリカやヨーロッパの諸外国と比べて、格段に少ないのが現状だ。その理由は、言うまでもないが、臓器提供者が極端に少ないからである。

日本の提供者数が少ない要因としては、脳死が「臓器を提供する場合に限って」人の死とされていること、臓器提供できる施設が限定されていることなどが影響していると考えられており、また、医療現場で脳死患者が出た場合の対応策が明確になっていないため、ほとんどの脳死患者・家族に提供の話が伝えられていないという現実があるようだ。

人口100万人あたりの臓器提供者数

アメリカ:41.6人

スペイン:40.8人

韓国:8.56人

中国:3.63人

日本:0.62人

1997年(臓器移植法施行)からの動き

1997年

「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行され、我が国において初めて脳死体からの心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸などの提供が可能になった。

2008年

開催された国際移植学会で、移植が必要な患者の命は自国で救える努力をするという「イスタンブール宣言」が採択された。それ以後、海外渡航移植に頼っていた日本でも臓器移植法の改正の議論が進んだ。

2009年

改正臓器移植法が成立し、2010年7月に施行となった。

2017年

臓器移植は年間76例に達し、心停止後臓器提供の35例を合わせると年間に111例の死体臓器提供があった。

臓器提供数が少ない理由

(1)施設数が限られている

臓器提供施設の現状を見ると、我が国で臓器提供が可能な施設は大学附属病院や日本救急医学会指導医指定施設等に属する施設(5類型施設)に限り認められている。これ以外の施設では、患者が脳死に陥り提供を希望したとしても、臓器提供をすることはできない。

(2)脳死の考え方の違い

世界の多くの国では、臓器提供とは無関係に、脳死は“人の死”として認められている。一方、日本では、臓器提供を前提とした場合に限り、脳死が人の死とされるため、家族が臓器提供を承諾することで患者の死を決めてしまうことになるのが気になるところである。

(3)諸外国では・・・・

アメリカ:多くの州で、臓器提供の意思があるかないかを本人が示すべきであると法律で決まっていて、実際に意思表示をしている人の割合が高いという。

スペイン、フランス、イギリス等:臓器提供することが大前提となっていて、臓器提供しないという意思を示しておかない限り、基本、臓器提供するものとみなされる制度になっている。

日本:本人が生前に臓器提供の意思表示をする、もしくは家族が本人に臓器提供の意思があったことを確認して承諾しなければ、臓器提供はおろか、そもそも脳死判定もされないという現状がある。

今後に向けてクリアしなければならないこと

(1)多くの人が意思表示していない

⇒アメリカのように本人の意思を優先するか、スペイン、フランス、イギリス等のように、臓器提供をすることを大前提とするか?

(参考)

内閣府の意識調査で、「臓器提供をする・しないという意思表示をすでにしている」もしくは「意思を表示したことを家族や親しい人と話した」という人は1割ほどだった。

現在の日本では、臓器提供の意思表示は、健康保険証・運転免許証・マイナンバーカードなどですることができる。また、自治体の窓口などにおいてある意思表示カードや日本臓器移植ネットワークのホームページから登録する方法もある。意思表示者を増やすには、これらのことを周知するしかないようだ。

(2)臓器提供するには、家族の承諾が必要

⇒本人の意思表示だけで、臓器移植を可能とするか?

臓器提供をするには、「家族の承諾」が必要なことも大きなハードルになっていると考えられている。交通事故や脳卒中などで回復の可能性がなく、救命が不可能と判断されたときは、移植コーディネーターから家族に臓器移植の説明があるが、家族が承諾して初めて、脳死判定・臓器移植手術が行われているという現状を変えていく必要がある。

(3)多くの医師が臓器移植に不慣れ

⇒実際に臓器移植の体制が整っている施設を増やすか?
(申請→許可という表面上だけでなく)

脳死からの臓器提供を行う病院は、大学病院や高度な救急医療が行える全国のおよそ900の施設に限られている。しかも、臓器提供施設として体制が整えられているのはその半数だという報告がある(「臓器移植の実施状況等に関する報告書」令和5年厚生労働省)。そのため、多くの医師が臓器提供に不慣れだと考えられる。

最後に

前回、そして今回と臓器移植に関するコラムを書かせていただいたが、筆者自身知らないことが多く、大変勉強させていただいた。

また、執筆しておいて恥ずかしいことだが、筆者自身保険証、運転免許証及びマイナンバーカード等に「臓器移植」の意思表示をしていない。

なんだか怖い?ような気がして・・・

今後、我が国の人口100万人あたりの臓器提供者数が、アメリカやスペインレベル(40人超え)まで、延びてくることを期待して、今回のコラムは終わりとしたい。

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