患者さんの立場から考える医療接遇
~患者さんが病院や医療者に望んでいることとは?~
医療接遇から考える、患者さんに選ばれるより良い病院のあり方(第1回)
2014年6月

執筆者:医療接遇コミュニケーションコンサルタント/薬剤師
株式会社スマイル・ガーデン
代表取締役 村尾 孝子(むらお たかこ)氏

はじめまして。医療接遇コミュニケーションコンサルタント、薬剤師の村尾孝子です。
弊社では、医療機関での接遇・コミュニケーション研修等を通して「患者さんと医療者の双方に笑顔があふれる医療現場づくり」をサポートしています。

「おもてなし」があらゆる業種で頻繁にとりあげられる昨今ですが、その重要性は病院等の医療機関においても例外ではありません。当コラムでは、“患者さん応対=医療接遇”を通して、今後求められるより良い病院のあり方・病院経営について、4回シリーズでお届けしてまいります。

1回目は、患者さんの立場に立って医療接遇を考えてみます。患者さんは病院に何を望んでいるのか、患者さんの要望に応える方法、そして、患者さんが再訪したくなる病院・患者さんに選ばれる魅力のある病院とはどのような病院なのか、まとめてみます。

医療接遇とは?
 ~接遇の意味を理解する~

接遇という言葉は、おそらく誰もが一度は聞いたことがあると思います。ここで改めてその言葉の意味を考えてみましょう。遇という字は“遇す(もてなす)”と読みます。遇すとは、思いやりの心をもってお世話をすること。つまり接遇とは、思いやりの心をこめて相手に接することです。
では、「おもてなしの心」そして「思いやりの心」とは何でしょうか。

「相手を思いやる」。それは相手の立場に立って、相手の考えや気持ちに思いを寄せること。相手に興味を持ち、関心を寄せることとも言えます。
医療接遇とは、目の前にいる患者さんが何を求め、何をしたいと望んでいるのか推察し、患者さんの喜びや不安、痛みや苦しみを想像して、その気持ちに寄り添い応えるために行動することなのです。

目に見えない「おもてなしの心」
 ~思いは行動にして初めて伝わる~

医療者であれば誰もが持っている「患者さんに対する思いやりの心」ですが、その心は存在していても患者さんには見えていないことに留意が必要です。そこで、目に見えない「おもてなしの心」「思いやりの心」を見えるようにする方法が礼儀(マナー)です。

医療者でなくとも社会人であれば、言葉遣いや挨拶・身だしなみなどの「形」に尊敬や感謝の気持ちを込めて表します。患者さんの命を預かる医療の現場では、一般社会で求められる以上の接遇マナーが必要でしょう。高度な医療技術や医療知識は患者さんとの信頼関係があってこそ活きるものであり、信頼関係を築く基本となるのが医療接遇だからです。そして、医療接遇の思いは実際に行動にして初めて患者さんに伝えることが可能になります。

患者さんが望んでいることとは?
 ~患者さんは、病院や職員に「心のケア」を望んでいる~

以前タクシーの中で交わした運転手さんとの会話が強く印象に残っています。ご自身の体調の話から入院した時の経験を話してくれたのですが、入院中の嫌な思いや術後不安になった話の後、こんなことを言いました。

「病院ってところは病気を治すのは当たり前でしょう。私たちはそんな当たり前のことだけを期待して病院に行くんじゃない。心のケアを求めて病院に行くんですよ。そう思いませんか」と。

患者さんは病院や医療者に対して『治してくれるのは当然』だと思っている。患者さんは『心のケア』を求めて医療機関に行く。偶然出会った運転手さんの率直な思いは多くの患者さんの病院や医療者に対する望みであり、患者さんに選ばれる魅力的な病院とは「心のケア」が行き届く病院のことだと思いました。

患者さんの身になって考える「心のケア」
 ~患者さんは医療弱者であることを忘れない~

先の運転手さんが言っていた『心のケア』とは、特別なことでも難しいことでもありません。
例えば、初めての受診や手術での不安な気持ちを察して「分からないことがあれば、何でも聞いてください」と声を掛ける。次の診察や検査室への道順を説明・案内する。

廊下や階段ですれ違う時には患者さんが歩きやすいように医療者は端に身を寄せてやさしい表情で挨拶や会釈を交わす。患者さんへの労りや温もりの感じられる対応をすることであり、小さな思いやりの積み重ねです。

患者さんの身になって考える『心のケア』。医療者側は限られた時間と診療規則の中でやるべきことが山積みだとしても、目の前にいる患者さんが痛みや悩みを抱えて言いたいことを十分に言えずに我慢しているかもしれない医療弱者であることを決して忘れてはいけないと思います。

おもてなしの心を可視化する方法
 ~患者さんと同じ目線に立って考え行動する~

目に見えないおもてなしの心を可視化する方法は、「心のケア」と同様、患者さんと同じ目線に立って考えることから始まります。待合の椅子に座っている患者さんからは、医療者の白衣や靴の汚れが目につきます。安心と安全を感じていただくために、まず清潔第一を意識して身だしなみを整えることが必要です。

病室や検査室のカーテンの開閉について、医療者にとっては毎日の膨大な業務の中の一コマに過ぎないかもしれませんが、患者さんにはプライベート空間での出来事なのです。カーテンはきちんと閉めてほしいし、開けるときは一言声をかけてほしいと思っています。

患者さんは聞きたいことがあっても医療者が目をあわせてくれないと、忙しそうだからと遠慮してしまいます。そこに重要な医療情報が含まれる場合もありますから、患者さんとの応対では目を見て話す・聞くことが大切です。

患者さんへの感謝の気持ちを持ち続ける
 ~患者さんが再訪したくなる病院に~

医療接遇とは、ホテルのように最上級の敬語をつかい、深々とお辞儀をしてお見送りする、といったサービスの提供とは少し違うものだと考えています。

患者さんの置かれた状況や立場を考えて、患者さんが求めていることを想像し、寄り添う気持ちを行動にする。例えば、患者さんの年齢や生活環境に合わせて、患者さんが心地よいと感じる言葉を選ぶ。患者さんの表情や仕草を見ながら、声のトーンや表情を変化させる。

患者さんは自分に共感を示してくれると「この病院に来れば話を聞いてくれる」「説明が丁寧で分かりやすい」と安心や信頼、やさしさや親しみを感じます。その思いが「再訪したい」「家族や友人に紹介したい」につながるのです。

日々の業務の中で忘れてしまいがちですが、医療者が病院で働くことができるのは患者さんが受診してくださるおかげです。常に「数ある病院の中から私たちの病院に来てくださり、ありがとうございます」という感謝の気持ちを持ち続けて患者さんと接していくことが何よりも大切です。

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