はじめに -在宅医療・介護に関するICT政策動向について-
地域包括ケアシステムにおけるICT利活用の現状と課題(第1回)
2015年4月

執筆者:公認情報セキュリティ監査人
    プライバシーマーク主任審査員
    審査員研修主任講師
    小川 敏治(おがわ としはる)氏

はじめに

はじめまして、医療機関、医師会などのお客様に特化したICT化コンサルタントの小川敏治です。

ICT化コンサルティングにあたっては、『ご依頼頂いたお客様組織の「ありたい姿」を明確にして、その姿に向かう「経営戦略」に基づき、業務・組織のあり方を見直すと共に、「業務プロセス」の改善又は改革に取り組み、「人間系」と密接に連携する身の丈に合った情報通信システム化』を心がけています。

さて、2014年の診療報酬改定や医療介護総合確保推進法の施行など、団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けた地域包括ケアシステム構築への流れは今後ますます加速する中で、在宅療養者を中心に医療・介護にかかわる医療機関、介護事業者、市町村や医師会などの関係者が連携し包括的に医療・介護サービスを提供するためには、ICT(注1)の利活用が重要であると言われています。

このコラムでは、地域包括ケアシステムを構築する上で必要不可欠である多拠点・多職種間の連携、協働のためのICTに焦点を当て、在宅医療・介護に関するICT政策動向、在宅の現場でのICT利活用の現状や課題、当該ICT導入で押さえて頂きたいプロセスなどについて、4回シリーズでお届けしたいと思います。

今回は、序論として、在宅医療・介護に関するICT政策動向について、お話しします。

高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策

出典:図「政府内でのICT政策関連組織」(ITPro日経コンピュータ)に筆者加筆国家としてのICT戦略は、内閣官房の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が所管し、その方針に基づいて各分野の所管省庁が政策立案及び予算化を行います。

右図に示す「医療情報化に関するタスクフォース」には、4つのテーマがあり、その内、次の2つのテーマが、地域包括ケア関連に関係しています。

  1. 「どこでもMY病院」(自己医療・健康情報活用サービス)構想の実現
    個人が自らの医療・健康情報を医療機関から受け取り、それを自らが電子的に管理・活用することを可能とするもので、この一環として、「お薬手帳電子化」サービスがスタートしています。
  2. シームレスな地域連携医療の実現
    医療機関間の境界だけではなく、地理的境界、医療・介護といった職種の境界などを超えて、切れ目のない医療・介護情報連携を実現することにより、地域の医療・介護サービスの質の向上を目指すもので、「在宅医療・介護における情報連携における推進」として、以下の調査研究・実証などを進めています。
    • 在宅拠点連携事業
      「在宅医療・介護環境の特性に合わせた安全かつ効率的なICTシステムの検証」
    • 共通基盤整備事業
      「在宅医療と介護の連携のための情報システムの共通基盤のあり方に関する調査研究」
      「在宅医療・介護分野における情報連携基盤の開発及び活用の実証」

医療機関が保有するデータの外部保存

ところで、長い間、民間事業者による診療録等の外部保存は禁止されていました。
2010年2月、厚生労働省医政局長・厚生労働省保険局長より「「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について」という通知が出され、以下の3省庁ガイドラインが遵守されることを前提条件として、それまでは震災対策等の危機管理上の目的に限定されていた民間事業者による診療録等の外部保存が、この目的に限定されることなく認められました。

  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
  • 経済産業省「医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン」
  • 総務省「ASP・SaaS (注2)における情報セキュリティ対策ガイドライン」
  • 総務省「ASP・SaaS 事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」

クラウドコンピューティングが普及拡大

前述の厚生労働省通知により、医療分野における民間事業者によるクラウドコンピューティング(注3)を活用したサービス提供の可能性が広がり、今日に至っています。

また、厚生労働省は、2014年3月に「健康・医療・介護分野におけるICT化の推進について」を公表し、健康・医療・介護分野におけるICT化の現状・課題・今後の方向性等について、考え方を示しました。

その中で、課題「費用面を含むネットワークの持続可能性の確保、効果的な稼働の継続」に対して、今後の普及・展開のための取組として、「クラウド技術の活用等による費用低廉化方策の確立」を表明しており、健康・医療・介護分野におけるICTも他の産業分野と同様にクラウドコンピューティングが普及拡大していくと考えます。

以上、在宅医療・介護に関するICT政策動向について、概要をお話ししました。
次回は、前述の各地域での在宅拠点連携事業及び共通基盤整備事業や他事例などを踏まえて、地域包括ケアでのICT利活用の現状について、お話ししますので、皆様のご参考になれば幸いです。

注1:ICT(Information and Communication Technology)
ネットワーク通信による情報・知識の共有が念頭に置かれた表現で、IT(Information Technology)の「情報技術」に、コミュニケーション(通信)の重要性を加味しています。

注2: ASP(Application Service Provider),SaaS(サース、Software as a Service)
ともにインターネットなどのネットワークを通じたアプリケーション・サービス。

注3:クラウドコンピューティング
従来は院内に設置したサーバーで管理・利用していたようなソフトウェアやデータなどを、インターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式のコンピュータシステム。因みに、従来方式を「オンプレミス」と言います。

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