はじめまして、医療機関、医師会などのお客様に特化したICT化コンサルタントの小川敏治です。
ICT化コンサルティングにあたっては、『ご依頼頂いたお客様組織の「ありたい姿」を明確にして、その姿に向かう「経営戦略」に基づき、業務・組織のあり方を見直すと共に、「業務プロセス」の改善又は改革に取り組み、「人間系」と密接に連携する身の丈に合った情報通信システム化』を心がけています。
さて、2014年の診療報酬改定や医療介護総合確保推進法の施行など、団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けた地域包括ケアシステム構築への流れは今後ますます加速する中で、在宅療養者を中心に医療・介護にかかわる医療機関、介護事業者、市町村や医師会などの関係者が連携し包括的に医療・介護サービスを提供するためには、ICT(注1)の利活用が重要であると言われています。
このコラムでは、地域包括ケアシステムを構築する上で必要不可欠である多拠点・多職種間の連携、協働のためのICTに焦点を当て、在宅医療・介護に関するICT政策動向、在宅の現場でのICT利活用の現状や課題、当該ICT導入で押さえて頂きたいプロセスなどについて、4回シリーズでお届けしたいと思います。
今回は、序論として、在宅医療・介護に関するICT政策動向について、お話しします。
国家としてのICT戦略は、内閣官房の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が所管し、その方針に基づいて各分野の所管省庁が政策立案及び予算化を行います。
右図に示す「医療情報化に関するタスクフォース」には、4つのテーマがあり、その内、次の2つのテーマが、地域包括ケア関連に関係しています。
ところで、長い間、民間事業者による診療録等の外部保存は禁止されていました。
2010年2月、厚生労働省医政局長・厚生労働省保険局長より「「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について」という通知が出され、以下の3省庁ガイドラインが遵守されることを前提条件として、それまでは震災対策等の危機管理上の目的に限定されていた民間事業者による診療録等の外部保存が、この目的に限定されることなく認められました。
前述の厚生労働省通知により、医療分野における民間事業者によるクラウドコンピューティング(注3)を活用したサービス提供の可能性が広がり、今日に至っています。
また、厚生労働省は、2014年3月に「健康・医療・介護分野におけるICT化の推進について」を公表し、健康・医療・介護分野におけるICT化の現状・課題・今後の方向性等について、考え方を示しました。
その中で、課題「費用面を含むネットワークの持続可能性の確保、効果的な稼働の継続」に対して、今後の普及・展開のための取組として、「クラウド技術の活用等による費用低廉化方策の確立」を表明しており、健康・医療・介護分野におけるICTも他の産業分野と同様にクラウドコンピューティングが普及拡大していくと考えます。
以上、在宅医療・介護に関するICT政策動向について、概要をお話ししました。
次回は、前述の各地域での在宅拠点連携事業及び共通基盤整備事業や他事例などを踏まえて、地域包括ケアでのICT利活用の現状について、お話ししますので、皆様のご参考になれば幸いです。
注1:ICT(Information and Communication Technology)
ネットワーク通信による情報・知識の共有が念頭に置かれた表現で、IT(Information Technology)の「情報技術」に、コミュニケーション(通信)の重要性を加味しています。
注2: ASP(Application Service Provider),SaaS(サース、Software as a Service)
ともにインターネットなどのネットワークを通じたアプリケーション・サービス。
注3:クラウドコンピューティング
従来は院内に設置したサーバーで管理・利用していたようなソフトウェアやデータなどを、インターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式のコンピュータシステム。因みに、従来方式を「オンプレミス」と言います。