厚生労働省が「医療等分野における番号制度」の具体的な制度設計を公表!
医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の体系
医療等分野における番号制度(第3回)
2016年5月

執筆者:公認情報セキュリティ監査人
    プライバシーマーク主任審査員
    審査員研修主任講師
    小川 敏治(おがわ としはる)氏

医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の体系

前回、医療機関に関係が深い「医療保険のオンライン資格確認の仕組み」についてお話しました。今回は、厚労省報告書に基づいて、「医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の体系」についてお話しします。

現状の主な課題

急性期から回復期、在宅療養に至るまでの切れ目ない医療・介護サービスを提供し高齢者が身近な地域で、できるだけ長く自立した生活を実現するために、現在、全国の地域において、医療機関や介護事業者等が加入する医療等分野の地域情報連携ネットワーク(以下、地域ネットワーク)の整備が進められています。

しかしながら、患者及び要介護者の識別子(ID)において、以下のような主な課題があります。

  1. 地域ネットワークを越えて情報連携が必要な場合に、それぞれの地域ネットワークの管理システムで異なる識別子(ID)を用いて管理しているため、異なる地域ネットワーク間(例えば、A地域ネットワークとB地域ネットワークの間)の情報連携が円滑にできない。
  2. 各医療機関等がそれぞれ異なるベンダが提供する情報連携システムを利用している場合、識別子(ID)の管理体系が異なり同一地域内であっても、円滑な情報連携に支障が生じる。

地域医療連携用ID(仮称)

このような課題に対して、患者本人を一意的に把握するための共通の識別子(ID)として、「地域医療連携用ID(仮称)」を発行し、「異なるID体系で管理された医療情報等を突合するための識別子」という役割に位置づけ、異なる地域ネットワーク間や異なるベンダが提供する情報連携システム間の情報連携にこのIDを用いるとしています。

尚、「地域医療連携用ID(仮称)」は、前回お話した医療機関窓口で個人番号カードによる医療保険のオンライン資格確認の仕組みを通じて、オンライン資格を確認した際、資格確認サービス機関(支払基金と国保中央会の共同運営)から、発行する仕組みを想定しています。

また、医療機関αと介護事業者βが同じA地域ネットワークに加入している場合、患者の地域医療連携用IDを医療機関αに発行すると、医療機関αを通じてその地域医療連携用IDをA地域ネットワークの患者ID管理に位置づける仕組みとすることで、介護事業者βでも地域医療連携用IDを利用することが可能になるとしています。

このために、地域ネットワークの構築に際しては、病名等の厚生労働省標準規格と同様、「地域医療連携用ID(仮称)」の活用を促すなど、その周知に取り組むことや地方自治体等に働きかけることなどが求められるとしています。

医療等分野の識別子(ID)の体系

次に、前述の「地域医療連携用ID(仮称)」を含めた医療等分野の識別子(ID)の体系について、その構想を説明します。

  1. まず、資格確認サービス機関(支払基金と国保中央会の共同運営)は、地方公共団体システム機構(J-LIS)から発行された患者の「機関別符号」に基づいて、医療等分野において一意性(患者と一対一で対応)を持った「キーとなる識別子」を生成します。その「キーとなる識別子」は、セキュリティの観点から、電磁的な符号(見えない番号)とし、原則として変更しないものとした上で、資格確認サービス機関から外部に出さない符号としています。
  2. さらに、資格確認サービス機関がこの「キーとなる識別子」から、目的別に「資格確認用番号(仮称)」、「地域医療連携用ID(仮称)」、研究活動の為の「データ収集に用いる識別子(ID)」などの「医療等分野の識別子(ID)」を1人の患者に複数生成し発行します。

つまり、患者と一対一で対応する「キーとなる識別子」は原則として変更せず資格確認サービス機関の内部での管理のみに使用し外部には出さず、そのIDを元に目的別の複数のサブIDを生成し外部に発行する階層化を構想しているのです。

図表2:医療等分野の識別子(ID)の体系

図表2:医療等分野の識別子(ID)の体系
出所:厚労省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」(2015年12月10日)

まとめ

以上、地域包括ケアシステムにおける情報連携に関わる「地域医療連携用ID(仮称)」及びそのIDを含めた「医療等分野の識別子(ID)の体系」についてお話ししました。

次回は、最終回として、「医療等分野の識別子(ID)の普及に向けた取組」についてお話ししますので、少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

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