前回、地域包括ケアシステムにおける情報連携に関わる「地域医療連携用ID(仮称)」及びそのIDを含めた「医療等分野の識別子(ID)の体系」についてお話しました。今回は、最終回として、「医療等分野の識別子(ID)の普及に向けた取組」についてお話しします。
医療・介護現場のニーズに対応して、患者や要介護者に必要な医療・介護サービスを提供するための情報について、医療・介護従事者間で共有し情報連携する場合の同意のあり方など、医療等分野の個人情報の特性に配慮した本人同意やプライバシールールのあり方について検討する必要があるとしています。
例えば、患者の病歴等の医療情報を「地域医療連携用ID(仮称)」で情報連携に用いる場合、(1)本人の同意のもとで希望する患者がそのIDを持つ仕組みとするとともに、(2)共有する病歴の範囲について、患者の選択を認め、患者が共有してほしくない病歴は共有化させないという、患者によるオプトアウト(本人の請求に基づき利用を解除・無効にする)の権利を認める仕組みを検討する必要があるとしています。
尚、研究活動の為の「データ収集に用いる識別子(ID)」を用いる場合は、その成果が医療の高度化を通じて患者に還元されるという側面はあるものの、基本的には患者自身への必要な医療の提供に用いるものではありません。したがって、個人情報の取得・利用に当たっては、本人の同意を得るとともに、目的外で使用されることのないように必要な個人情報保護の措置を講じる必要があるとしています。
ところで、約10年ぶりに改正された個人情報保護法(2015年9月改正から2年以内の施行)では、「病歴」が「要配慮個人情報」(本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取り扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報)に位置づけられ、あらかじめ本人の同意を得ないで取得してはならないこととされました。
患者への適切な医療を提供するためには、医療機関同士の連携や患者の意思を確認した上での家族等への病状の説明は必要なことであり、医療現場が萎縮して必要な医療が提供できなくなることのないようにする必要があります。高齢化が進む中で医療や介護の連携をより進めることが求められており、こうした医療や介護現場の要請に対して、医療等分野の情報連携に関係する各種ガイドラインの改正が逆行しないようにする必要があるとしています。
一方、患者自身が自らの医療情報の活用の必要性と意義について成熟した理解がなければ、IDを用意するだけでは、情報連携の基盤を十分に活用することはできません。個人番号カードの利用方法を含めて、自らの医療情報を活用する目的や意義について、現場での説明だけに委ねるのではなく、教育の場を含め様々な機会を活用して、国民への周知に取り組むことが求められるとしています。
また、マイナンバー制度の重要なインフラの一つである「マイナポータル」(情報提供等記録開示システム)は、個人番号カードの認証機能を用いてアクセスします。したがって、医療機関窓口での個人番号カードによるオンライン資格確認の仕組みが構築されれば、将来的には、希望する個人が医療機関(かかりつけ医など)と連携して、マイナポータルを活用して、自らの健康や医療の情報を把握し、健康管理や予防に活用できるようにすることも期待されるとしています。
こうした医療等分野の識別子(ID)を活用した情報連携の基盤は、国民自らが医療・介護の公的サービスの情報を選択し、情報の履歴を知る権利を保障する役割を持っています。医療・介護サービスの透明性や客観性の向上だけでなく、自らの情報を把握することなど、国民自身がメリットを享受できるような仕組みにもつなげていくことで、情報連携が飛躍的に進むとともに、医療・介護の効率的な提供や保険財政への国民の理解と納得が浸透していくことが期待されるとして、報告書を締め括っています。
以上、最終回として、「医療等分野の識別子(ID)の普及に向けた取組」についてお話ししました。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。