病院経営分析と原価計算
第5回 「原価計算:その2」
2014年1月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

本コラムで病院経営改革について考えていきます。第5回は前回に続き「原価計算」がテーマです。原価計算を適正におこなうには、原価の配賦基準を明確化し、院内のコンセンサスが必要だと筆者は語ります。

原価配賦の考え方~適正な原価計算をおこなうために~

今月は、「原価計算」における配賦についてお話をしたい。

最初に、部門別原価の集計についてであるが、原価を集計するにあたっては、病棟部門・外来部門・中央診療部門等、診療収益が発生する部門だけでなく、医事課等の補助部門や人事、経理、総務等の管理部門にも計上する必要がある。

部門に直接帰属させることができる原価を部門個別費といい、複数部門に共通して発生する原価を部門共通費という。部門個別費は、各部門に直接計上(直課)し、部門共通費は、一定の基準により関係部門に計上するが、これがいわゆる配賦といわれる手段である。

次に材料費に対する考え方であるが、病院の材料費は、薬剤費、診療材料費、給食材料費等に分類されるが、原価計算上は、購入データではなく部門別の使用データを把握することが必要となる。そのためには、受払記録、特に払出記録を正しく部門別に行っているかがポイントとなる。

その手段として物品管理システムを活用することが有効となるが、このシステムの仕様幅が広く、単なる在庫管理からオーダーと連携した患者別管理まであるため、自院のシステムがどこまで対応しているかを把握する必要がある(患者別管理まで可能な物品管理システムを導入している医療機関は少ない印象である。

また、SPDを委託している場合は、その委託業者のシステムマスタと病院が使用しているマスタの整合性が取れていないケースも見られる)。
主な対象部署としては、薬剤部・用度課(物品管理センター)・栄養科等であるが、それらの部署全てが同じような払出記録を採用していないと整合性が取れなくなり、かえって作業の手間が多くなる場合があるため注意が必要である(委託業者側のシステムも考慮する)。

配賦基準の策定とコンセンサス~健全な病院経営のために~

また、原価計算の配賦を行う上で、一番厄介なのが、水光熱費や委託費等の経費に対する配賦である。これには、直接経費(部門で行われる医療行為に関して直接的に消費されたもので、発生部門が特定されるため、その部門に直課できる経費)や間接経費(発生部門が特定できない経費で、製造間接費ともいわれる。合理的な基準により関係部門に配賦する経費)がある。

直接経費については、全てが直課されるため大きな問題はないが、間接経費については配賦基準が必要となるため、配賦方法や基準によって、原価計算の妥当性や正確性が左右される。一般的には、費用の性質により、職員数や面積、患者数等が配賦基準として使用されるが、筆者の個人的な見解としては、給与費を使った配賦基準の導入を推奨している。

単純な面積按分では、不合理が出るケース(リハビリ科の負担が多くなる等)がある。
一つの考え方として、給与割合の高い部署が間接経費を多く受け持つことで、医療機関全体の運営構造(高い給与を受け取っている部署が負担も背負うことでバランスをとる)を構築するという考え方である。

経費の全てを直課することができない(できないことはないが、そのための労力は莫大なものとなり現実的ではない)ため、配賦の考え方は、必要かつ重要となる。特に、水光熱費については、各医療機関で様々な取り組みが行われていることと思うが、以前、勤めていた医療機関では、そのために、厨房とリハビリ室に別途、メータを設置するように指示を受けたこともあった。

原価計算を正しく行う上では、配賦の基準が重要となるのと同時に、院内のコンセンサスが得られないとせっかく算出した原価計算が受け入れられない場合がある(自分の部署の負担が大きい、配賦の割合が納得できないからその数字は無効だ。。等)。
したがって、なぜその配賦方法や基準にしたのか、その根拠を含めて事前に院内基準を確立し、健全な病院経営を推進するために取り組んでいることに理解を得ることが重要あると考える。

まだまだ原価計算についてのお話を進めたいところ(次月以降もタイムスタディや患者別収益票等を予定している)ではあるが、ここで1月のセミナーについてのお話を少しさせていただきたい。

来る1月22日(水)より、東京・名古屋・大阪の各病院経営セミナーにおいて、「見える化」への取り組みについての講演を行う予定である。
今回は、日本病院会のQIプロジェクトへの取り組みを例に、その概要と臨床指標算出の必要性及びシステム化が進む現状におけるデータ抽出の具体的手法と活用案についてのお話をさせていただく。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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