医療安全対策と機能評価に関する考察(第1回)
医療安全対策について
2014年12月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療安全対策と機能評価に関する考察

今回からは、「医療安全対策と機能評価に関する考察」と題し、医療安全対策の現状と病院機能評価における医療安全関連項目のポイントについて、お話をしたい。

近年、医療安全への関心は高まりを見せ、各医療機関においても専門の部署の設置等、積極的な取り組みが推進されている。しかしながら、これらの取り組みの遍歴を見てみるとまだまだ15年程度にしか過ぎない。厚生労働省の発表によると1999年の横浜市立大学事件及び都立広尾病院事件から医療安全についての社会的関心と医療事故の警察への届け出が増加してきたという。それから5年後の2004年に都立広尾病院事件の最高裁判決があり、ようやくヒヤリ・ハット及び医療事故の事例収集が始まった。

現在その事業は日本医療機能評価機構が主となり、収集・分析・提供事業が行われている。こちらにしても、2010年からようやく新システムが導入され、最近のインシデントアクシデント報告システムでは、機構への報告システムが付加されている。

日本医療機能評価機構によると現在の登録施設数は、1381医療機関となり全体の16%程度が、報告を行っている。1年間の報告件数は約3000件程度であり、毎年増加傾向にあり、各医療機関も積極的に参加していく傾向がみられる。今回、この報告事例を検証したので、以下、その1部をご報告したい。

アクシデント報告とヒヤリ・ハット報告の検証

まずは、アクシデント報告からであるが、

  1. 事故の程度:全体の48%程度が、死亡もしくは、障害残存の可能性がある事象となっている。
  2. 発生場面:実施時の事故が多く、オーダー時の処方での死亡事故も発生している。
  3. 事故の内容:部位の取り違えや手技の誤りが多い。
  4. 発生場所:病室が全体の約45%、手術室が約15%とこの2か所で全体の60%を占める。
  5. 関連診療科:療養は、内科・整形・精神が多く、処置は、外科・消化器科・麻酔科、検査については、消化器・循環器・放射線での発生が多く見られた。
  6. 発生要因:薬剤においては、確認の怠りや知識の不足が主な要因であり、治療・処置においては、確認ミスや判断誤り、技量不足などが主な要因となっている。

次に、ヒヤリ・ハット報告であるが

  1. 事例の概要:ヒヤリ・ハットにおいては、全体の40%程度が薬剤関連である。
  2. 発生場面:意外に多いと感じたオーダーリングでのヒヤリ発生件数。
  3. 事例の内容:処方忘れや投薬ミス(過剰・過少・時間・日付)と無投薬が多く、その他、ドレーンチューブは抜去(自己・自然)、療養は転倒・転落が多い。
  4. 発生場所:ヒヤリの発生場所は、圧倒的に病室が多い(全体の60%)。
  5. 発生要因:確認・観察・判断ミスが要因となっており、教育訓練不足も数多く挙げられていた。コンピューターへの入力ミスは、薬剤で多く発生していた。

図:インシデントアクシデント報告システム画面

今回、この事例を検証した感想だが、まだまだ報告の内容精度に格差があり、簡易な報告から詳細な報告まで、報告者によりバラバラでしっかりとした報告基準が定着していない印象である。今後の事例分析及び医療安全対策に生かすためにも報告内容の精度の向上が望まれる。また、これらのデータは、医療安全における教育研修には、もってこいの素材である。各医療機関がこれらのデータを積極的に活用されることを願う。

次回も医療安全についてのお話(医療安全教育研修から)をしたい。少しでも皆様のお役に立てれば幸いである。

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