今回は、医療機関におけるメンタルヘルス対策についてお話をしたい。
近年、生活習慣病をはじめ様々な疾病に対する国民の関心や認識が高まる時代になっている。そんな中、2011年7月、厚生労働省は、都道府県が作成する地域保険医療計画で「4大疾病」とされていた、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に精神疾患を追加して「5大疾患」とする方針が示された。
うつ病や統合失調症などの精神疾患の患者は年々増え、同省の2008年調査では、糖尿病237万人、がん152万人などに対し、精神疾患は323万人、また、自殺者は近年3万人を越えているが、多くは何らかの精神疾患を抱えているとされている。
同年10月には厚生労働省の審議会において、法律の改正案が示され、それにより事業者は、メンタルヘルス対策が義務付けられ、医師や保健師が行うストレスに関する検査を全ての従業員に受けさせることになる。2014年の6月の国会で可決・成立し、2015年12月1日より実施が義務化された。以下、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェク制度の概要について記しておく。(厚生労働省HPより抜粋)
まとめると、50人以上の従業員がいる事業所は、メンタルヘルス対策としてストレスチェックを行い、高ストレス者のケアを事前に行うことで、うつ病等の精神疾患を発症しないよう、労働者の実情を考慮し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を行う必要があるということである。
このストレスチェックに関して、一般の企業は、割と早くに対策等を講じている印象だが、意外に医療機関の対応は十分でないケースが多いように感じる。
機能評価などのチェックで、医療機関に対して、職員のメンタルヘルスについての体制を伺うと、大半の医療機関が、「上司が相談を受け、必要があれば医師に相談の上、該当医療機関を紹介する」という形になっている。看護部門においては、「リエゾンナースが対応します」で終わっている医療機関が多い。果たしてこれだけで十分なのであろうか。私的見解としては、メンタルの問題は、非常にデリケートであり、同医療機関内だけで、完結することは難しい事象であると考える。
ある医療機関の事例ではあるが、外部の機関(医師や保健師が直接対応)と相談等に関する契約をし、職員は対象の機関に電話での相談をすることにしているところがある。医療機関は、月次の相談件数や内容について個人名を伏せてデータでの提供を受け、自機関の職員の状況を把握することができるようにしている。これも一つの方法であろう。
今後益々、ストレスやメンタルヘルスについては、対応と対策が重要視されてくる。現場の話でも、精神疾患を患っている職員が増えてきているとの話もあり、それらが原因で、休職や退職に至るケースも多いと聞く。人材確保が難しい状況下で、優秀な人材を失ってしまうことは、組織にとっても大きな損失である。また、産業医の役割や負担も増えることが想定される。対応や対策に出遅れている感のある医療機関としては、速やかに、これらの問題についての対策を講じる必要があると考える。
この労働安全衛生法の改正によるストレスチェックをビジネスチャンスととらえている医療機関もある。
次回は、その考え方やストレスチェックとメンタルヘルス対策についての取り組み事例についてお話をしたい。少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。