今回も、医療機関におけるメンタルヘルス対策についてお話をしたい。
厚生労働省の資料によると、精神障害等の労災補償状況は、2002年からの10年間で、請求数が341件から1257件と約3倍、認定件数が100件から475件と約5倍に増加しており、毎年、過去最高を記録し続けている現状がある。そのうち、認定された労災としての自殺者数も倍以上になっており、早期の精神障害への対応が必要となっている。対策として、早期の発見と初期対応が重要であり、その方法の一つとして、今回のストレスチェック(概要については、前号を参照されたい)も実施されることになった。
では、医療機関においては、どのような方法があるのであろうか。一般的な企業の場合、担当の産業医がストレスチェックを実施し、高ストレス者に対しての面談や指導を行い、専門的治療が必要な場合は、提携の心療内科を紹介して、治療を進めていくことになる。これが、医療機関となると自施設の医師が面談を行えるであろうか。難しいところではないかと思われる。
心療内科や精神科の医師がいる医療機関でも、職員が相談をするケースは少ないと聞く。(逆に、一度、精神疾患を患った場合は、自院の医師の方が、職場環境が理解できているため、相談しやすいとの話もあった。)
実施するにあたって、健診の際に問診票と同じようにストレスチェック表を配布し、記入後、回収してデータ化すると言われた機関もあったが、誰が集計業務を行うのか、職員がその業務を行うのでは、誰も正直には書かず提出もしないであろう。そもそも今回の義務化は、事業者が従業員の状況を把握するためのものであるため、回収率が下がれば、その目的そのものを満たさなくなる。回避策のひとつとして、回収・集計業務を委託で対応する場合も考えられるが。。。
主な方法としては、2種類ではないだろうか。
一つは、上記の集計委託を行い、秘密保持契約の基、外部会社に実施と集計・報告を委託するケースであり、もう一つは、WEBを活用して、職員のために、ストレスチェックを含むメンタルヘルスのマイポータルサイトを提供することではないかと考える。
個人的には、メンタルヘルスに関する情報提供や個人チェックによる経年変化、提携医療機関情報の提供等、様々な活用が考えられ利便性も高いと思われるため、マイポータルスタイルが有効であると考える。何れにしても、何らかの方法にてストレスチェックを実施する必要があるため、該当医療機関(職員50人以上)は、早期の対応と対策を検討すべき事項の一つである。(今年の12月から1年間の間に最低1回は実施することになっている)
さて、前号で、この件をビジネスチャンスにとらえている機関があるというお話をしたが、その機関とは、産業医契約をしている健診センターをもつ医療機関である。健診センターの保健師の話によると、この法案が決定してから企業からの問い合わせが増えているとのことである。企業からは、自社での対応は難しいため、健診センターにて一括で実施をして、その結果の情報を送ってもらえるかという話である。
既に、その対応をしていた企業においては、ほぼ全員が当該健診センターで、健診を受けるため、受診者が増えたという実績もある。数が増えるとなるとさすがに紙ベースでの対応は厳しく、当然のことながら、産業医の負担は増加する。そこで、受診者の確保と産業医の負担軽減のため、システムを構築することで体制を確保し、さらなる受診者の確保に努めている事例である。
ここのところ「健康経営」という言葉を目にする機会が増えてきた。職員が健康であることが、良い経営につながるという考え方であるが、そのために、事業者が何をすべきかを十分に検討し、積極的に取り組む必要があると考える。ある金融機関でも職場状況に格付けを行って、積極的に融資に取り組んでいる機関もある。詳細についは、改めてお話ししたいが、何れにしても「人」を大切に、育成とフォローが確固たる組織体制を構築するために必要であることは、言うまでもないことである。
6月開催予定のセミナーにおいては、このメンタルヘルスを含め、マイナンバー及び2025年に向けての医療機関の在り方についてのお話をしたい。少しでも皆様のお役に立てれば幸いである。