病院経営セミナーについて(6月開催分)【後記】
2015年8月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

病院経営セミナー2015(6月開催分)について

今回は、2015年6月に開催された病院経営セミナー2015のセミナー後記としてお話をしたい。

今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。

  • 6月17日(水):大阪会場「中規模病院におけるオーダリングから電子カルテへの移行事例~現場がリードした導入準備から1年後のバージョンアップ奮闘記~」
    東宝塚さとう病院 看護部長 山田聡子氏 医療情報室室長 森重雄司氏
  • 6月18日(木):東京会場「病院情報システムと地域医療連携ネットワークサービスの導入~効率的なICTの活用にむけて~」
    長野県佐久穂町立千曲病院 庶務係 大工原雄一氏
  • 6月19日(金):名古屋会場「広島県尾道地区における包括ケア情報連携システムの考え方と構築・運営」
    特定非営利活動法人「天かける」 理事長 伊藤勝陽氏

筆者自身は、各会場にて「中小病院における2025年へ向けての病院機能に関する考察~地域医療構想策定ガイドラインと2015年度政府動向に関する情報提供~」について講演を行った。

主な内容としては、今年3月に通知されたガイドラインについて、位置づけから、地域構想の策定、策定後の取り組みや病床機能報告制度の公表の仕方など概要の解説を行った。併せて、10月から通知されるマイナンバー制度における医療機関の在り方についての解説と12月から義務化されるストレスチェックへの取り組みについての解説を行った。

地域医療構想策定については、2025年に向けた医療機能の再編に関して、具体的方策を示唆しており、高度急性期、一般急性期、慢性期等の区分を明確にすることで、各医療機関の機能を充実させ、それぞれの役割に合った形にすることを自主的に求めている。また、地域医療の整備という観点から自治体主導で構成を進めていく趣旨が盛り込まれている。詳細については割愛するが、今後の診療報酬改定を含め、7:1の絞り込みと病床機能の明確化(削減)が進むことには違いない。

各医療機関においては、近隣の医療機関の機能と地域住民の病態傾向をしっかりと調査・分析しながら、自院の機能を確立していくことが求められる。また、講演の中で、病床規模及び機能の違う医療機関の事務長に対してのインタビュー内容についての報告も行った。各医療機関の地域性や規模・機能によって様々な問題と方向性についての思惑があり、それらを踏まえた今後の自院の在り方についての取り組みも紹介している。これらの件の詳細については、機会があれば改めて記述したい。

実際の医療現場におけるICT導入に関する取り組み

今回のセミナーは上記の通り、実際の医療現場におけるICT導入に関する取り組みを中心に講演が行われた。今回の講演の中には、多くのキーワードがあったが、その中から印象に残ったものについて記述したい。

  1. 電子カルテ移行への決断
  2. 作業の遅れ
  3. 導入の効果と成功の秘訣
  4. リハーサルと院内アンケート
  5. 地域包括ケアシステムのICT化

1.電子カルテ移行への決断

電子カルテの移行については、様々な医療機関が移行へのタイミングを模索していると思われる。その中でも、カルテ保管スペースの問題やシステムの老朽化の問題が決断に至るケースは十分に考えられる。今後の医療機関において、カルテの電子化は必須である。ただ、単に電子化(システム導入)を目的にするのではなく、その後のデータの有効活用を事前に検討しておく必要がある。

医療機関における「QI」を明確にした上で、どのようなデータを取得し、どのように活用するかを事前に検討することが重要である。中小の医療機関においては、まだまだ指標の有効活用ができていない印象が強い。健全な病院経営へ第一歩として、また、改善への手助けとして、電子化とデータの有効活用は必須であると考える。

2.作業の遅れ

作業の進捗については、すべてがスムーズにいくことはまれであり、大なり小なりの遅れが発生するケースがある。セミナーの中でも、マスタ整備や文書整理、担当部署の運用理解不足、委員会の運営等の問題があったというお話があったが、それら全てにおいて明確なルール作りは重要である。タイムスケジュールや手順、担当者別の役割分担等、綿密な工程表の作成と適時の進捗管理を実施する。

業務を行いながらの導入準備は負担が大きく、第三者的な立場でしっかりと方向性を定め、管理を行う人材は必要である。今回は、その役割を看護部長自らがされて、成功に導いた事例を拝聴した。管理職自らが対応されると、事案の早期解決や運用改善等に効果をもたらす場合が多くみられるもの事実である。だが、その逆の事例もあり一概に推奨することはむずかしい。やはり個々の医療機関における適材適所を見極めた体制作りが重要であると考える。

3.導入の効果と成功の秘訣

導入の効果については、主に、院内の標準化と医療安全及び患者サービスの向上を挙げられており、今回の講演においては、インシデントアクシデント件数の低減や口頭指示の改善、患者へのクイックレスポンス等で効果は顕著であったとの報告があった。システムの導入が、様々な効果をもたらすことは当然のことであり、それらの検証を再度行うことで、その効果をより確実なものに導くことができる。一般的には、まだまだ実施が少ないが、ぜひとも、導入後1年、2年とその効果の検証を継続的に実施することをお勧めしたい。

また、成功の秘訣で印象的だったのは、「人選で決定する」という言葉であった。まさしくその通りであり、先ほども触れたが、適材適所を間違えるとどんな優秀なソフト&ハードでも形にならない。部署や役職でなく、その個人そのものの適正が重要である。さらに、システム導入のマネジメントにも触れており、必要なものとして、意思決定能力、交渉能力、スピード力、創造性、発想力を挙げられていた。導入機関とベンダー、双方の人選(役割分担)とチームワークが成功の秘訣の一つであると考える。

4.リハーサルと院内アンケート

リハーサルについては、今回の事例でも同じであったが、やはり、キーワードは「操作習熟度」と「運用変更の周知・理解度」であった。前回のセミナー後記の際にも触れたが、この習熟度と周知・理解度については、適時の確認を怠らないことが重要である。様々な人々が一度に働いている職場である。たったひとりの無関心が全ての和を乱す。その結果、システム導入全般に影響を及ぼし、混乱を招くことになりかねない。職員全員が同じ目標に向かって、積極的に組む姿勢がスムーズな導入につながることは言うまでもない。

また、院内アンケートにおいては、良くなった点として「閲覧、統計、患者へのレスポンス」を挙げられており、悪くなった点として「医師の記録の減少、医師との対話の減少、入力業務の負担の増加、患者対応時間の減少」があった。効果の検証のひとつとして、院内アンケートは絶対に実施すべきである。できれば、毎年実施して、その内容と結果の推移を業務改善や次のシステム導入に生かすと尚よい。

5.地域包括ケアシステムのICT化

地域包括ケアシステムのICT化については、今後の医療体制におけるキーワードの一つでもある「包括ケア情報連携システム」の話があった。尾道方式と言われる医療・介護の関係者によるケアカンファレンスが挙げられていたが、地域医療を積極的に推進するためには、医療のみでなく介護のかかわりも重要である。医療から介護の連携で、システムを有効活用した事例であり、今後のモデルケースのひとつとして、大変興味を抱く内容であった。

各施設のメリットに関しては、診療所で中核病院の検査情報を把握することが可能であり、調剤薬局では、診療情報の把握により適切な服薬指導が可能となる点、さらに、介護施設においても認知症やアレルギー情報を共有できる点が挙げられていた。病院・診療所・薬局・介護施設の連携で、患者情報を共有と有効活用ができている事例であった。また、その効果としては、重複検査が46%削減できたという実績の報告があった。

今後、地域医療構想策定ガイドラインを基に、病院機能の適正化が進むと同時に、地域医療連携も重要性が増してくる。各医療機関は、自院のみならず周りの状況及び情報を早期に取得して、その役割を築くことが重要である。

今回は、上記5項目について記載したが、それ以外にも看護部情報室の設置やシステム連絡票の詳細な記載(重要度と代替案)、在宅主治医へのアンケート等のキーワードが多くあり、様々な取り組みと工夫、そしてご苦労のもとに生まれた効果を知ることができた。

2025へ向けて確実に進み始めた医療機能の整備。各医療機関は、生き残りをかけてさらなる改革と改善を迫られる現実がある。人材の確保と育成、業務の改善と効率化、患者の確保と地域連携など、取り組むべき課題は数多くある。限られた資源(人・物・金)の中、自院の分析をはじめ、各種情報の積極的な収集と活用、効果的なシステム導入など、先を見据えた調査・分析・企画・運営が今後の良好な経営につながると考える。

今回は、病院経営セミナー2015のセミナー後記としてお話をした。少しでもお役に立てれば幸いである。

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