医療ナンバー(医療分野の番号制度)について(2)
2016年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療ID等の活用場面

前回は、医療分野における番号制度の活用について、資格照会・確認を中心にお話をしたが、今回は、その利用場面についてお話をしたい。

まずは、医療ID等の活用スケジュールであるが、ステップ1として、保険者での健診データの管理や予防接種の履歴の共有が行われ、ステップ2として、医療保険のオンライン資格確認を含め、医療保険システムの効率化や基盤整理が行われる。その後、ステップ3として、医療連携や研究分野にIDを活用していくこととなる。

医療等分野における識別子(ID)の活用イメージ

「医療分野における番号制度の活用等に関する研修会報告書」(厚生労働省)より抜粋
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これらのステップを踏まえ、医療等分野における情報連携に関する利用場面としては、前回お話しした「オンラインによる資格確認」の他、「保険者間の健診データの連携」、「医療機関・介護事業者等の連携」、「健康・医療の研究分野」、「健康医療分野のポータルサービス」、「全国がん登録」がある。

医療等分野での番号による情報連携が想定される利用場面(ユースケース)

「医療分野における番号制度の活用等に関する研修会報告書」(厚生労働省)より抜粋
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厚生労働省は、この中の医療機関・介護事業者等の連携について、「病院での検査結果をかかりつけ医の診療に活用、患者を継続的に診察、救急医療で他の医療機関での過去の診療情報を確認、他、地域包括ケアを実現する」ということである。現在、医療情報連携については、各地域の医師会が中心となり、情報共有の仕組みを作り上げようという活動が各地で活発になっている印象がある。

とある地域の担当理事にお話を伺ったが、かかりつけ医である診療所の負担が大きく、連携協力がなかなか進まない現状があるとのこと、その地域では、電子カルテ及びオーダーとも3割程度であるため、紙での運用も併用している。そのために人為的手間が多く、構築・運営費用もかなりのものになっているらしい。また、別の地区では、医師会への登録が年々少なくなっているため、運営の財源の確保にも問題がある様子である。

そんな中、医療IDの導入となると各方面において、既存のシステムとID連携に関するシステムの構築やセキュリティーの確保等、費用の負担や業務の見直し等が発生する。厚生労働省には、費用面の負担も含め、具体的な構築案・運用案等の支援策を期待したい。

医療情報ビッグデータとして活用するには

健康・医療の研究分野についても同様である。「レセプトNDB(ナショナルデータベース)の活用や追跡研究、大規模な分析研究を推進し、その成果を医療の質の向上につなげる。

行政はデータ分析の結果を政策の立案・運営に活用する」ということだが、当然のことながら、電子化されたデータを医療情報ビッグデータとして活用するためには、電子カルテが必要となる。厚生労働省によると400床以上の医療機関での電子カルテ導入を2017年度に80%、2020年度には90%を目指す(高度急性期・急性期は100%)というが、情報連携の実現化に向けたICTの追求には、やはり何らかの支援が必要であると考える。

電子カルテの導入を「医療の質の向上と医療機関等の経営の効率化に資する」と言っている割には補助金等の支援が少ない。電子カルテの導入が遅れているこの現状を打破するような画期的な支援策を期待したい。

4月からは診療報酬の改定が行われ、診察料は多少上がるものの個別の項目によっては、厳しい状況から抜け出せない医療機関も数多く残る。特に、中小規模の医療機関は、早期に今後の経営方針の検討と決定及び人材の確保・育成を行わなければ、ますます厳しい経営を強いられることになる(7:1要件の強化、看護必要度、在宅復帰率の問題への早期対応等)。

医療等IDの考え方

最後に医療等IDの考え方について、「医療分野等ID導入に関する検討委員会」からの取りまとめを参考までに列記しておく。

1. 一人に対して目的別に複数の医療等IDを付与できる仕組みを検討する

医療等IDは唯一無二性、悉皆性を持つものではなく、個人一人に対して利用目的に応じた複数の医療等IDを付与できる仕組みが望ましいと考える。ただし、レセプトナショナルデータベースやがん登録等の制度上、また公益のため、同意なしで集めている情報に関しては、集めている範囲内に於いては唯一無二性と悉皆性を担保し、制度の目的に照らした活用が可能にしておく。一方、医療・介護連携用の医療等IDや保険の資格確認に用いる医療等IDは悉皆性を担保せず、利用目的に関して患者同意を原則として付与する。

2. 本人が情報にアクセス可能な仕組みを検討する

医療等IDを付与した情報に関して、原則、本人がアクセス可能な仕組みとする。また、本人が知られたくないと思った場合や忘れたいと思った場合に、それまでの情報との名寄せや検索ができない仕組みを担保する。仕組みとしては、単純に医療等IDを変更する方法やアクセスコントロール権を患者自身に与える方法等を検討する。ただし、診療に必要な情報を秘匿されてしまうなど、医療提供自体に影響が及ぶことがないように、一定程度の制限や第三者による審査や確認の仕組みを組み入れる必要がある。

3. 情報の突合が可能な仕組みを検討する

医療等IDが付与された情報に関して、患者の同意を原則として、それぞれ目的別に付与した医療等ID間で情報の突合が可能な仕組みとしておく。この際、同意なしで集めた情報がある場合もしくは含まれる場合は、それらの情報の突合が必要になった場合、改めて同意を取得することを原則として突合を実施する。従って、本人が同意した範囲を確認できる仕組みも併せて検討をする。

4. 医療等IDに関しての法整備の検討をする

国民に対して医療分野専用のIDを付与することになるため、医療等IDに関する法律等の整備が必要と考える。その内容としては、医療等IDが付与された情報については、個人情報保護法の特別法として運用に関する事項を定めた上で保護し、また、罰則規定も設ける。更に、その中で医療等IDの変更事由の審査(確認)方法や医療等IDの運用や保護状況を監視、監督する機関についても定めるなどが考えられる。

医療番号制度については、今後も更なる検討が行われ、Key-ID等についても詳細が明らかになってくることであろう。今後も適時、情報提供を行っていきたい。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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