今回は、2016年6月に開催された病院経営セミナー2016のセミナー後記としてお話をしたい。
今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。
筆者自身は、各会場にて「医療機関におけるデータの2次利用について~医療情報データの具体的活用方法とその事例~」について講演を行った。
主な内容としては、日本病院会が行っているQIプロジェクトの状況や主な臨床指標についての解説とその活用事例など概要の説明と取り組みに向けてのポイント等をお話しした。また、データの2次利用の観点から、人事財務データのポイント(タイムテーブルの構築)や電子カルテ及びDWH&BIツールの考え方や取り組みについて解説を行った。
QIプロジェクトについては、2010年当初は、参加機関が30機関であったものが、昨年2015年は337機関に増加しており、年々取り組みについての関心が高まってきている状況である。以前からお話しているように今後の医療機関の在り方として、医事統計のみならず臨床統計(質の指標)を活かしていくことが重要であり、確実なデータ抽出とその活用が今後の医療の質の向上と健全な医療経営に役立つことは、間違いない。
また、データの活用事例として、今回は、放射線機器に関する分析事例をお話しした。診療報酬からの収入、人件費や材料費の支出等の基礎データから、各医療機器に関する損益分岐点、稼働率、回収率等を分析して、それらの機器がどのくらい診療及び経営に貢献しているかを見える化した内容についての解説を行った。
併せて分析のツールのご紹介もさせていただいたが、これについては、多くの関係者の方に興味を持っていただいた。医療機関には、様々なデータ(診療・医事・財務等)が各所に存在している。それらをどう分析し活用していくか、これが生き残りと繁栄のための重要な取り組みであることは、言うまでもない事実である。しかしながら、まだまだ不十分な状況にある機関が多いことも、また事実である。これらの件の詳細については、機会があれば改めて記述したい。
今回のセミナーは上記の通り、各会場にて事例やレクチャー等、各方面から医療機関の運営やシステム導入に関しての講演が行われた。今回の講演の中から、いくつかのキーワードについて記述したい。
電子カルテの導入については、ペーパーレスを期待されていることが多いと思われるが、その実情は、完全なるペーパーレス化が達成できるわけではなく、何らかの形で紙が残る。ただ、それらをいかに電子化し、運用改善を含めできる限りのペーパーレスに進めるかは、各医療機関の考え方によって様々である。最初から紙は残る、だからこれらを正の診療録として保管をするというところもあれば、タイムスタンプ等を活用して、可能な限り電子化を進め、ペーパーレスを実行するというところもある。
その中で、今回はDACSというシステムを使って紙を減らし、その資源を施設に活用された。紙動線には人の動線が生まれるというお話があった。スキャンをするにしろ、紙で運用するにしろ何らかの人の手は必要になるわけである。そこをどう改善して効率化を図るかは重要な観点のひとつである。
また、カルテ庫の存在そのものが病院の資源活用の壁になるところがある。カルテ庫をなくして待合を拡大することでの患者満足度の向上を図る事や今回のようにリハビリ施設への転換など、施設の変更による患者・職員のための改善は、施設の有効活用として有用な事例であると考える。
医療はサービス業であるといわれることがある。ただの通常のサービス業と大きく違うのは、顧客対象は、病を持った人々である。日頃の体調と感情とは、かけ離れた状態で、救いを求めている。
また、医療業界は、資格社会の組織でもある。様々な資格と経験を持った人々と同じ目的に向かって仕事をしているのである。そんな中、信頼関係を高めるコミュニケーションスキルは、相手を気持ちよくさせ、自分自身が気持ちよく仕事をするうえで、重要なスキルである。
講演の中に価値観の違いを認識する(安心と満足の感じ方は人それぞれ、相手が一番大切にしているものを理解する)というお話があった。様々な環境の中で人生を歩んできた人たちが、一つのところに何らかの縁や問題を抱えて、集まっている。その状況を理解・認識することは重要である。
また、話し方にしても同様のスキルが求められる。同じ話をしても、聞き手によっては不快に感じる話し方もあれば、心地よさを感じる話し方もある。講演でもお話しされていたが、話のスピード、トーン、ボリュームは、印象を変える。最初から上手な話し方をすることは難しいだろうが、意識する気持ちは、重要である。併せて、相手の話をよく聞いてあげること(うなずき、あいづち、復唱、時に沈黙)、まさに同感である。
これからの情報共有のあるべき姿については、紙でのやり取りではなく、電子化され、かつ、分析可能な状態であるべきであると考える。医療機関には、無数の情報が存在しそれらが散在している。これらの情報をまとめ詳細な分析をすれば、運用の効率化や経営改善に寄与できることは、明白である。しかしながら、現状は情報とデータの整理と管理ができていない機関が多い。
その理由の一つとして、各部署別に統一されていないフォームが存在し、管理も不十分であるからである。そんな中、今回のダイナミックテンプレートの活用は、非常に有効な手段となると思われる。最近は、電子カルテにもテンプレートが組み込まれ、入力作業や集計・分析作業を効率化しているところも多いであろう。今後の医療機関において、分析は、様々な場面で大きな役割を果たすことになると考えている。
そのポイントのひとつが、テンプレートの構築やDWHの有効活用である。もう一度、自院における紙ベースのやり取りを見直し、電子化かつデータ化を図るための方法を速やかに検討されることを推奨したい。
今回は、上記3項目について記載したが、それ以外にも、電子カルテ導入におけるWG実施目的の明確化、思いやりの心を可視化する方法、コード管理の必要性等のキーワードが多くあり、いろんな立場の方々から有意義なお話を拝聴することができた。改めて、多角的視点の必要性、常に進化進歩していくための情報収集と実践の重要性を認識した次第である。
今回は、病院経営セミナー2016(6月開催)のセミナー後記としてお話をした。少しでもお役に立てれば幸いである。